決定「この野球マンガが現在進行形ですごい!」2016

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いつの時代も人気を誇る野球マンガ。そのジャンルにおいて、現在進行形で面白い作品は何なのか? スマホマガジン『週刊野球太郎』編集部、野球マンガ評論家のツクイヨシヒサ氏、そして私、エキレビ・野球担当のオグマナオトで、今読むべき「この野球マンガがすごい2016」を選定していく。

2010年代を代表した『砂の栄冠』と『球場ラヴァーズ』の終焉


野球太郎 連載中の作品の話をする前に、2015年の野球マンガ事情を振り返りたいと思います。

オグマ 『砂の栄冠』が遂に最終回を迎えました。間違いなく、2010年代の野球マンガを代表する作品だったかと思います。


ツクイ “七嶋無双”なんて言われた時期もありましたけども、いい終わり方だったんじゃないですかね。

オグマ 出発点は「1000万円で甲子園出場を買う」という変化球がテーマでしたが、結局、王道野球マンガに着地したというか。最後は甲子園準決勝で、大谷翔平をモデルにした投手がいる岩手県代表と対戦。三田先生は岩手出身ですし、『クロカン!』の最後の相手も岩手県代表。描きたいことを描ききった感はあります。

ツクイ 甲子園のヒーローとはなんぞや、というところまで一応、行き着きましたからね。それ以外の「眉毛戦争」とか、ブラスバンドどこいった問題などはありますけど(笑)、この作品でしか投げられなかったテーマがたくさんあったと思うんです。そこにどんどん球を投げ込んでいったのはさすが三田先生だと思います。あとは、「ガーソ地蔵問題」。これから先、実際の高校野球において「なぜここで動かないの!?」という場面が訪れたら、絶対にその監督は「ガーソ」ってディスられるでしょう? それぐらい、高校野球マンガ史上に残るインパクトのあるキャラクターでした。

オグマ 「高校野球100年」が話題になった2015年、「高校野球ってこのままでいいの?」という議論も沸き起こりました。その中にあって、「今のまま、何も変える必要はない」というのが三田先生のスタンス。わざわざ外国人記者を登場させてベースボールとの比較をさせてまで、「甲子園の素晴らしさ」という部分はしっかり描ききったんじゃないかと思います。

野球太郎 ほかに、昨年連載が終了した作品というと『球場ラヴァーズ』シリーズがあります。


オグマ コミック発売はまだですが、歴代ヒロインが総登場した『球場ラヴァーズ3-2(フルカウント)』も昨年末で終了。このシリーズも、2010年代を象徴するというか、最近のカープ人気、「カープ女子」ブームを語る上で欠かせない作品でした。

ツクイ 「カープ女子」への功績も大きいですが、選手も試合も描かない野球マンガが成立する、ということを提示した点だけでも意義深い作品です。試合に出ていない補欠にもドラマがある、という作品はこれまでにもあったけど、そのさらに外側にいる観客にもドラマがある、という世界観の広げ方は素晴らしいのひと言。特に、「ファンが愛する選手とは?」という部分にスポットを当ててくれたのは大きい。実際のプロ野球においても、プレー以外の「生き様が好き」とか「ファン対応が好き」とか、いろんな好きになる理由があって、それらをひとつひとつ丁寧に描いてくれた作品でした。

オグマ ファンのあり方ってひとつじゃない、という部分で、既存の野球ファンにも読んで欲しい作品です。そして、カープがBクラスからAクラスへと強くなる過程と作品がうまくリンクした、という流れというか、時代感覚も目を見張ります。

ツクイ 2014年に『あぶさん』が終わり、シーズンを記録する系譜の作品がなくなった中、このシリーズが穴埋めをしてくれていた面もあります。その意味で、代わる作品がないのはとても残念です。

野球太郎 ほかに終わった作品でいうと週刊少年マガジンの『ツースリー』(※最終2巻は1月15日発売)、イブニングの『湯けむり球児』(最終2巻は1月22日発売)、週刊少年サンデーの『最後は?ストレート!!』(※最終20巻は1月18日発売)、別冊マーガレットの『青空エール』(※最終19巻は1月25日発売)などが。いずれも今月、最終巻が発売です。


ツクイ 『青空エール』は今年、実写映画化されるので、これから男子もこの作品の魅力、存在に気づくことができると思うし、女子は女子で「あれ? 意外と野球部の彼氏もありじゃない!?」と勘違いしてもらいながら、もうひと盛り上がりしてほしいです。

オグマ 『湯けむり球児』は、原作の森高夕次先生が「構想10年」とぶち上げ、もっと裏がある作品かと期待したんですけども、最後まで何が起きるわけでもなく、試合をすることもなく終わっちゃいました。結局、「温泉」「美女」「高校球児」、好きなもの並べました、というだけだった気が。

ツクイ ただ、野球マンガの臨界点はどこだ!? というテーマに挑戦した作品として気にかけておきたい。それとそれくっつけちゃうの?というテーマ設定に挑んだ作品としては、『どす恋ジゴロ』に匹敵するネーミングセンスですよ(笑)。いずれにせよ、『グラゼニ』で今をときめく森高先生だからこそ通せた企画。でも、無理なものは無理、ということが明らかになったのかなと。『ツースリー』もそうなんですけど、何も描けないまま終わってしまう作品が多い。早々に見切りをつけられてしまう厳しい状況において、野球としての魅力をどう表現していくのか。最初にどんな仕掛けを用意するかが、とても大切になってきますよね。

「復活」「再開」のトレンドと「ドカベン銅像問題」



野球太郎 終わった作品以外で、2015年に起きた野球マンガトピックスといえば?

ツクイ 2014年後半から、「復活」「再開」がひとつのトレンドになっていると思います。『グラゼニ〜東京ドーム編〜』に続いて、『ダイヤのA』も2年生編の『ダイヤのA act2』へ。そして、茂野吾郎、佐藤寿也の息子たちを描く『MAJOR 2nd』が満を持して始まりました。


オグマ 個別の作品の中でも、『ドカベン ドリームトーナメント編』で、明訓時代の主要キャラだった渚圭一、『野球狂の詩』の水原勇気が遂にマウンドへあがり、『フォーシーム』でも『なんと孫六』の甲斐孫六が復活! 

ツクイ さらに、野球マンガではありませんが月刊少年マガジンの『RiN』で、同じハロルド作石作品『ストッパー毒島』のキャラクターたちがカメオ出演。あれには驚きました。特に、出てきたのが毒島や毒島兄ではなく、ウェイク国吉とチックくんというのが絶妙! ウェイクが侍ジャパンに選ばれ、炎上しているという(笑)。テレビを見ているおばさんが「ホラ言わんこっちゃない ナックルボーラーはドーム球場に弱いのよ〜〜〜」っていうコメントまで含めての、キャラクターに対する愛情を感じます。

オグマ 『ストッパー毒島』は96年〜97年シーズンを描いていたわけですけど、あのまま時が進んだとしても、ナックルボーラーのウェイクは現役でもおかしくはない。ファンの夢を壊さず、夢のような続きを描く、という点で、さすがはハロルド作石。

ツクイ あと、「復活」「再開」とは少しズレますが、『4P田中くん』『風光る』でお馴染みの川三番地先生が『あしたのジョーに憧れて』で話題に! も2015年のトピックスとして挙げておきたい(笑)。野球マンガじゃない、といわれそうですが、『Dreams』 も『天のプラタナス』もあんなに宙ぶらりんの状態なのに、そっちに注力しちゃっていいんですか!?と。あとは……「ドカベン終わらなかった問題」ですか?

オグマ 終わりませんよ(笑)。あと3年は終わりません。阪神なんて金本監督が就任したこの時代に、いまだに岡田監督。いろんな意味でドリームになってきました。それよりも2015年のドカベンであれば、「あぶさん、まだ出てこない問題」か「ドカベン銅像問題」じゃないかと。

野球太郎 「ケツバットガール」などで話題になっている、新潟市の商店街にある『ドカベン』銅像を、水島新司先生サイドが撤去して欲しい、と申し入れた件ですね。

オグマ 不思議なのは昨年3月にニュースになって以降、続報が出てこないこと。そして、「水島新司事務所」のコメントは出てくるのに、水島新司先生のコメントは出てこないこと。でも、秋の園遊会では元気な姿を見せていました。

ツクイ 水島先生は大きな影響力を持っているわけだから、銅像問題がどんな経緯を辿って、どういう結果になったのかについては、スッキリと開示してほしいですよね。じゃないと、オグマさんのジャーナリスト・スピリッツに火が点いちゃうんじゃないかな?

オグマ 市営バスの「ドカベン号」も昨年で運行を終了してるんですよね。ジャーナリスト・スピリッツかはわかりませんけど、現地でしかわからないことはあるはずなので、どこかでちゃんと取材したいですね。

この野球マンガがすごい!2016年 発表


野球太郎 というわけで、2015年を振り返ったうえで、現在連載中の作品から「2016年の今、読むべき野球マンガ」を選定したいと思います。

〜この野球マンガがすごい!2016年〜
◎1位:『BUNGO-ブンゴ-』※ツクイ1位、オグマ3位に選定


◎2位:『バトルスタディーズ』※ツクイ3位に、オグマ2位に選定


◎3位:『MAJOR 2nd』※ツクイ4位に、オグマ2位に選定


◎4位:『フォーシーム』※オグマ1位に選定


◎5位:『デッド・オア・ストライク』※ツクイ2位に選定


◎次点:『野球部に花束を』


◎次点:『江川と西本』


オグマ こうしてみると、リトルリーグ(MAJOR 2nd)、シニアリーグ(BUNGO)、一般高校野球(野球部に花束を)、名門高校野球(バトルスタディーズ)、プロ野球(江川と西本)、メジャー(フォーシーム)、超人系(デッド・オア・ストライク)と見事にジャンルがバラけました。野球マンガの幅の広さを感じます。

ツクイ ランキングに入れませんでしたが、スピリッツであの『ラストイニング』の中原裕による新連載「WILD PITCH!!!」が始まったのでそちらも気になります。原秀則の新連載「ハートボール」(ビックコミック増刊)の1巻も年末に発売されたばかり。野球漫画ファンに知られた先生たちの新作がどう読まれていくのかにも注目していきたいと思います。

選定理由、作品の魅力についてはスマホマガジン『週刊野球太郎』配信記事で詳しく掲載しています。そちらもよろしくどうぞ。
(オグマナオト)

ツクイヨシヒサ/1975年生まれ。野球マンガ評論家。著書に『あだち充は世阿弥である。──秘すれば花、『タッチ』世代の恋愛論』(飛鳥新社)、編著に『ラストイニング 勝利の21か条 ─彩珠学院 甲子園までの軌跡─』(小学館)など。ポッドキャスト「野球マンガ談義 BBCらぼ」好評配信中。