夜勤明けの運転は「走る凶器」!? タカサン/PIXTA(ピクスタ)

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1月14日未明に起きた、大学生など14人が亡くなった長野・軽井沢町のスキーバス事故。2012年にも、関越自動車道の防音壁に激突し乗客7人が死亡するというツアーバスの事故があった。これは運転手の居眠り運転が原因だった。

 今後の捜査や検証によって明らかになっていくと思われるが、近年、スキーツアーの価格競争は激しく、今回も安全対策がおろそかになっている可能性が浮かんでいる。

 死亡した運転手2名は、健康診断も受けていない65歳と57歳だった。多くの人が、ハードな運行スケジュールによるシワ寄せが招いたのでは、との疑念をもっているのではないだろうか。

就労人口の約3割が交代勤務

 今や多くの店舗が通夜営業をするのが当たり前の世の中。この便利な暮らしを支えているのが、交代勤務に従事する人たちだ。今や日本の就労人口の約3割が何らかの交代勤務に就いており、うち約3分の2が、午後10時~翌朝5時の時間帯にかかる勤務に従事しているという。

 しかし当然ながら、人は昼間に活動し夜間は眠る生物。夜間勤務については、さまざまな問題点が指摘されている。がんや生活習慣病に罹るリスクの増大といった長期的な健康への影響も懸念される。

 だが、もっと身近なものは、眠気による事故の危険である。特に夜勤明けの運転による交通事故については、わが国でも報道があるたびに社会問題としてクロースアップされてきた。

徹夜明け運転では37%があわや衝突

 先月、夜勤労働者と運転についての論文が『Proceedings of the National Academy of Sciences』(オンライン版)に掲載された。それによると、夜勤明けの労働者の運転テストでは、3分の1以上の人がもう少しで衝突事故を起こしそうになった。だが、前夜に十分に眠った場合は、同じ条件でも事故の危険に遭遇することはなかったという。

 この実験を行ったのは、米ブリガム・アンド・ウイメンズ病院/ハーバード大学(ボストン)のCharles Czeisler氏ら。研究チームは夜勤労働者16人を対象に、閉鎖されたドライブコースで2時間の運転セッションをそれぞれ2回行った。

 1回目のセッションでは、被験者は前夜に夜勤をせずに平均7.6時間の睡眠をとっていた。2回目は前夜に夜勤をしてセッションに臨んだ。2回のセッションはいずれも日中のほぼ同じ時間に実施。眠気の生理学的な測定(覚醒から睡眠へ移るときに見られるゆっくりとした眼球の運動や、部分的な閉眼など)や、ほんの一瞬眠りに落ちる「マイクロ睡眠」の状態を知るために、脳波の測定も行った。

 その結果、次の3点が明らかになった。
1)夜勤で徹夜をした後は、37.5%の被験者が衝突を避けるために急ブレーキを使った。
2)さらに、半数近くの被験者が車を制御し続けるのが難しくなり、2時間を待たず早めに試験を終了した。
3)眠気に関連した運転能力の低下は、テスト開始から15分以内に表れた。

 米国では、現在950万人以上が徹夜勤務や交代勤務をしている。2009~2013年に起きた交通死亡事故の原因の2割以上が居眠り運転。車社会のアメリカでは深刻な問題だ。

 「夜勤明けは自分の運転ではなく、他の帰宅方法を見つけるべき」「企業が夜勤労働者に移動手段を提供することもできるはず。私ならこんなリスクの責任を負いたくない」とCzeisler氏は警告している。

高速道路で真っ直ぐ走れない?

 同様の解析は他にもある。たとえば2012年に仏・パリの研究者が、医療従事者を対象に行った実験だ。

 30人の医療スタッフに午前8時、通常の状態と夜勤明けの状態で、運転シミュレーターによるテストを実施。都市で15分+高速道路などの自動車道で60分行い、反応時間、スピードや事故数、自動車道での直進性などを解析した。

 その結果、夜勤明けでは高速道路などの単調な運転で直線走行を続けるのが、通常より困難であることが明らかになった。さらにスピードのコントロールも難しくなったことから、交通事故を起こすリスクが高いことが実証されたという。

 ところが、夜勤明けの事故リスクに根本的な解決方法はない。簡単に生体リズムを夜型にできないからだ。ヒトの体内時計は、最低でも3週間程度を要するという。

 夜勤時の眠気対策には、30分ほどの仮眠を1~2回取ったり、コーヒーなどカフェインの覚醒作用を利用したりすることだ。クルマ通勤の場合は、わずかでも帰宅前に仮眠を取ることも効果的だ。

 労働者自身の意識も重要だ。状況判断の能力がいつも通りではないことを自覚し、決して無理をしないことが、いまのところ最大の安全策といえる。
(文=編集部)