主人公の西住みほ(一番上)とその友人たち。搭乗車両のドイツ4号戦車D型改(H型仕様)は、第二次大戦を通じドイツ軍の主力として戦った名戦車。

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現在公開中のアニメ『ガールズ&パンツァー 劇場版』が、普段はアニメを見ない戦車ファンからも高評価を得て、ヒットしています。成功のポイントはどこにあるのでしょうか。「らしさ」がひとつのキーワードかもしれません。

アニメを普段は見ない人が反応

 可愛らしい女子高生たちが、第二次世界大戦世代の戦車に乗って戦う伝統的な武道「戦車道」を描いたTVシリーズの続編となる完全新作『ガールズ&パンツァー 劇場版』、通称『ガルパン』が、いま大ヒットを飛ばし多くの注目を集めています。

ガールズ&パンツァー 劇場版』は2015年11月21日より上映を開始。アニメファンだけではなく、普段は全くアニメを見ない戦車ファンのあいだでも「ガルパンはいいぞ」という口コミが広がり、今年2016年の1月9日(土)には上映劇場がさらに拡大。ロングランを記録しています。

「女の子」と「戦車」。そんなあらすじの物語だと聞けば、きっと我が目、我が耳を疑う人も少なくないと思います。そんな『ガールズ&パンツァー 劇場版』が、なぜヒットしたのでしょうか。作品を手がけた杉山潔プロデューサー(バンダイビジュアル)は、次のように話します。

速いものはより速く

「元々TVシリーズとして放映されていた『ガールズ&パンツァー』からのファンの皆様には正しく続編としてご満足いただけるよう、さらに劇場版で初めて『ガールズ&パンツァー』の世界に触れる方にも楽しんでいただけるよう、知恵を絞りました。映像・音響ともに劇場版にふさわしいスケール感とクオリティを感じていただけるよう、スタッフ一同努力しました。また、企画の段階から戦車好きの方々にもご納得いただけるように、戦車描写にはこだわって来ましたので、ご好評をいただき大変光栄に感じております」(バンダイビジュアル、杉山潔プロデューサー)

 戦車の履帯(キャタピラ)が、小石を跳ね上げ砂塵を巻き上げ力強く前進し、ひとたび発砲すれば焼けただれた砲身の熱さえ感じさせ、重厚な鋼鉄の装甲が砲弾を弾き飛ばす、劇場版の美しい映像。そこには、家庭のTVではどうしても再現できない火薬が炸裂する「爆発音」というリアリティが加味されており、戦車に対する尋常ではないこだわりがうかがえます。それが、ファンらのハートをがっしり捉え離さない『ガールズ&パンツァー 劇場版』、最大の魅力かもしれません。

 また戦車の戦闘力は、基本的に「走」「攻」「守」の3要素で構成されています。『ガルパン』に登場する実在の戦車たちは「軽くて速い戦車はより速く」「破壊力のある砲はより破滅的に」「重装甲はより分厚く」強調されており、戦車ファンらのイメージ通りに戦車が活躍してくれます。

 例えばソ連製KV-2「ギガント(巨人)」という戦車は第二次世界大戦当時、重装甲でドイツ軍の攻撃を跳ね返し、強力な主砲で多数の敵を破壊するなど、たった1両でドイツ軍数万の部隊を2日間足止めしたことで知られます。『ガルパン』においても、そのエピソードを彷彿させるような大活躍を見せ、視聴者の心をくすぐるのです。

スポーツ化した戦車

 そして『ガルパン』、もうひとつの重要な魅力が「本物の戦車で戦い、実弾は使うが、誰ひとり血を流さない」ということです。登場人物の言葉を借りるならば、「『戦車道』は戦争じゃない」のです。弾丸は命中しても絶対に車内へ被害を及ぼさぬよう厳格な安全対策のもと、対戦はルールにのっとり開催されており、選手はせいぜい眼鏡が割れてしまう程度の損害しかこうむりません。

「戦車道」はスポーツであり、言い換えてみれば、「スポーツもの」を「戦車」でやってしまったのが『ガルパン』であるともいえるでしょう。

 主人公の西住みほが所属する県立大洗女子学園は、お世辞にも強力とはいえない戦車がほとんどです。ユーモラスかつトリッキーな作戦で、第二次世界大戦における最強の戦車を揃える相手校と戦うさまは、小兵力士が横綱を相手に技の全てを出し尽くして奮闘する姿と重なり、西住みほとその仲間たちはどうやって相手に勝つのか、ファンはアドレナリンを大量分泌させ、その戦いぶりに興奮するのです。

 皆に愛され、多くの熱狂的なファンを獲得した『ガルパン』。次回作の展望はあるのでしょうか。杉山プロデューサーはこう語ります。

「劇場版をようやく完成することができ、現在進行形で多くの皆様に楽しんでいただいている現時点では、まだ次回作についてお話しできる段階にはありません。いまは1人でも多くの皆様に、劇場版と『ガールズ&パンツァー』の世界をお楽しみいただけるよう努力するだけです」

 まだ伝えられる段階にはないとのことですが、いつか新しい『ガルパン』が、ファンを再びワクワクさせる日がやってくるかもしれません。

ガールズ&パンツァー 劇場版』
監督:水島 努
公式サイト:http://girls-und-panzer.jp/
Twitter公式アカウント:@garupan