“タイのメッシ”と呼ばれるチャナーティップ(18番)は、成長著しいA代表でも主力として活躍する。手倉森ジャパンにとってはやっかいな存在となりそうだ。(C)Getty Images

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 リオデジャネイロ五輪出場を懸けたアジア最終予選で、日本は第2戦でタイと顔を合わせる。実績からすれば、グループ内で最も下の存在と言えるが、今回のチームは決して侮れない。実際、初戦ではサウジアラビアと互角に近い戦いを見せ、1-1のドロー決着。これまでのイメージを覆す価値ある勝点1を獲得した。
 
 タイ・プレミアリーグの発展に伴って、近年のタイサッカーは目覚しい成長を遂げている。リーグの規模は年々拡大し、選手の待遇も急上昇。タイ代表クラスであれば数千万円、トップクラスの外国籍選手であれば億単位の年俸も珍しくなくなった。
 
 タイリーグのチョンブリFCで育成に力を注ぐヴィタヤ・ラオハクン氏は、「昔はサッカーをやってもお金にはならないと敬遠されていたが、最近では親が積極的に子どもをアカデミーに入れたがるようになった」と変化を語る。
 
 東南アジアはもともとサッカー熱の高いエリアだが、これまではサッカー観戦と言えば、もっぱらイングランドのプレミアリーグだった。好きなチームを尋ねれば、返ってくる答えはマンチェスター・Uやチェルシーだった。
 
 しかし、ある現地メディアが昨年に行なった調査によれば、タイのサッカーファンはイングランドよりも自国リーグを見るようになったという。東南アジアの先頭を切るタイのサッカー界は今、順風に帆を上げているのだ。
 
 その追い風に乗って、近年はブリーラム・ユナイテッドがアジア・チャンピオンズリーグで決勝トーナメントに進むなど、実力面の向上も顕著だ。もっとも、タイ代表については芳しくない状況が続いていた。90年代にタイ国内で「ドリームチーム」と呼ばれた黄金世代が現役を退くと、長い低迷期に突入。前線にロングボールを放り込むだけの単調なサッカーに、ファンも離れてしまった。
 
 その悪い流れが一昨年、劇的に変わった。タイ代表歴代最多キャップと最多得点記録を持つレジェンドのキャティサック・セーナムアンの監督就任がきっかけだった。思い切って若手を抜擢してモダンなサッカーを浸透させ、短期間で変革に成功。圧倒的なポゼッションを武器に細かいパスをつないで攻めるスタイルは、東南アジアでは無敵となった。
 
 ロシア・ワールドカップのアジア2次予選のグループFでは現在、タイがイラクを抑えて無敗で首位を快走中だ。
 
 タイ国内では「ジーコ」の愛称で呼ばれるキャティサック監督は、U-23代表も兼任しており、今予選も指揮を執っている。選手たちは、「タイのメッシ」と呼ばれるチャナーティップ・ソンクラシーンを筆頭に、多くがA代表の主力クラスである。監督の公言する目標は「決勝トーナメント進出」だが、ファンの期待はその先にある48年ぶりの五輪出場にまで向けられている。
 
 五輪予選のタイ戦と言えば、日本サッカーのトラウマとも言える84年のロサンゼルス五輪予選が思い浮かぶだろう。タイのエース、ピヤポンにハットトリックを決められて、2-5の大敗を喫した。
 
 今回のタイも“なにかを起こせる力”は備えているだけに、油断は禁物だ。
 
取材・文●本多辰成(フリーライター)