1954年に長崎で生まれたカズオ・イシグロは1960年、5歳のときに家族と共に渡英した。1980年に英国フェイバー社のアンソロジーに3作の短篇が採られ、作家としてデビュー、1982年には初の長篇『遠い山なみの光』を上梓した。作家活動の初期から賞には恵まれ、注目されていたイシグロだったが、第3長篇の『日の名残り』(1989年)ではついに英国文壇の最高峰ともいえるブッカー賞を獲得、その名声を不動のものとした。


2005年に第6長篇『わたしを離さないで』を発表すると、「タイム」誌が選出したオールタイムベスト100(1923〜2005年)に選ばれたほか各文学賞の最終候補作になるなど、その年いちばんの話題を振りまくことになった。同年のうちに邦訳され、翌2006年末には「このミステリーがすごい!」(海外部門10位)、「週刊文春ミステリーベスト10」(海外部門9位)のランキングでも上位に選ばれた。純文学のみならず、ミステリーなどのジャンル文学ファンからも強い支持を集めたのだ。垣根を越えて愛される物語となった。2010年にはマーク・ロマネク監督で映画化されており、日本国内では2014年に蜷川幸雄演出で舞台化も実現している。そちらをご覧になった読者も多いだろう。