写真提供:マイナビニュース

写真拡大

●再挑戦は民間で始まった
宇宙に向けて打ち上げられたロケットが、役目を終えた後にまっすぐ地上に帰ってくる。そんなSFでしか見られなかった光景が昨年、米国の宇宙開発企業「ブルー・オリジン」と「スペースX」の手によって、ついに現実のものになった。

彼らは飛行機のように飛ばせるロケット、「再使用ロケット」を開発することで、ロケットの打ち上げコストを大きく引き下げることを狙っている。再使用ロケットの構想は古くから存在したが、挫折の連続だった。しかし、近年になり再び熱を帯び始めている。

前編では、再使用ロケットの概要の歴史について取り上げた。今回はその現状と将来、そして再使用ロケットによって、本当にロケットの打ち上げコストは下がり、宇宙が身近な場所になるのかについて見ていきたい。

○再使用ロケットの再興

米航空宇宙局(NASA)や米国防総省、ロシアや英国でさえ一度は諦めた再使用ロケットの復権に向けた動きは、意外なことに民間から始まった。

1996年5月、実業家で技術者のピーター・ディアマンディス氏は、個人でも団体でも企業でも、とにかく国のお金を一切使わず3人乗りの宇宙船を造り、高度100kmの宇宙空間に到達することを達成したチームに賞金1000万ドルを与える、「Xプライズ」というコンテストを立ち上げた。

そしてこのXプライズではまた、もうひとつの条件として「再使用の宇宙船で、2週間以内に2回の飛行を行うこと」という項目も定められていた。

この挑戦には世界中で30近い数のチームが参戦し、最終的に天才的な航空機設計者として知られるバート・ルータン氏が率いる「スケールド・コンポジッツ」が開発した「スペースシップワン」が、2004年9月29日と10月4日にこの条件を達成。賞を勝ち取った。

スペースシップワンはサブオービタル機といって、人工衛星を打ち上げることはできず、単に高度100kmを超えて戻ってくることしかできない。それでも再使用ロケットの実現に向けた大きな一歩にはなった。スケールド・コンポジッツをはじめ、このXプライズに参戦したチームのうちのいくつかは現在も活動を続けており、再使用型のサブオービタル機による科学実験や宇宙観光をビジネスにしようとしている。

さらに2000年には、Amazon.comの設立者として知られるジェフ・ベゾス氏が「ブルー・オリジン」を、また2002年には電子決済サーヴィスのペイパルを設立したことで知られるイーロン・マスク氏が「スペースX」という宇宙開発企業を立ち上げ、活動を開始した。

両社はそれぞれ独自に技術を積み重ね、ブルー・オリジンは2015年11月23日に「ニュー・シェパード」という小型のロケットを打ち上げ、まっすぐ上昇して高度約100kmに達した後、そのまままっすぐ降下し、着陸することに成功。そして同年12月21日にはスペースXが、人工衛星を打ち上げた「ファルコン9」ロケットの第1段機体を、発射台にほど近い陸上に垂直着陸させることに成功する快挙を成し遂げている。

ニュー・シェパードのように単に高度100kmまで飛んで帰ってくるだけの飛行と、ファルコン9のように人工衛星を打ち上げるために水平方向の加速が付いた状態のロケットを地上に着陸させるのとでは、技術的に後者のほうが圧倒的に難しい。ブルー・オリジンは技術的にスペースXに抜き返された形となったが、ブルー・オリジンも再使用型の衛星打ち上げロケットの開発を進めており、今後数年のうちに、両社の直接対決が見られることになるだろう。

こうした民間発の、再使用ロケットの実現に向けた新たな動きに呼応するかのように、一度は諦めかけた宇宙機関や大企業なども、再び再使用ロケットに挑みつつある。

たとえば米国の軍事衛星などを打ち上げる基幹ロケット「アトラスV」や「デルタIV」を運用するユナイテッド・ローンチ・アライアンス(ULA)は、次期基幹ロケットとなる「ヴァルカン」で、第1段ロケット・エンジンのみの再使用を検討している。同社によると、スペースXのファルコン9のように、第1段機体を丸々回収して再使用するのは無駄が多く、最も高価で複雑な第1段エンジンのみを回収するほうが良いという。

ヴァルカンは打ち上げ後、エンジン部分のみを分離する。エンジン部分はパラシュートで降下し、それをヘリコプターで引っ掛けて回収する。一見奇抜にも思えるが、米国はかつて、偵察衛星が撮影した写真のフィルムをカプセルに入れて地球に落とし、それをヘリコプターで引っ掛けて回収するということをやっており、前例がないわけではない。

またフランス国立宇宙研究センター(CNES)でも、ロケットの第1段エンジンのみを回収する「アデリン」という計画が始まっている。アデリンはヴァルカンのエンジン回収計画とは少し違い、エンジンと電子機器が収められたロケットの下部が無人の飛行機となり、タンクと分離された後単独で飛行し、地上に着陸する。

この他、ESAや英国の民間企業、米空軍や米国防総省の国防高等研究計画局(DARPA)、さらにインドや中国でも研究が進んでおり、そして日本でも再使用観測ロケットの開発に向けて準備が進みつつある状況にある。

そう遠くないうちに、ファルコン9やブルー・オリジンの再使用型衛星打ち上げロケットを筆頭に、世界中で再使用型のロケットが見られる日が来るかもしれない。

●マスク氏はコストを100分の1にすると豪語
○再使用ロケットで本当に宇宙は身近になるのか

ニュー・シェパードやファルコン9の成功で、ロケットが宇宙に行った後、地球に帰って来られるということは証明された。しかしまだ、本当にロケットを再使用することで打ち上げコストを安くできるのかという課題が残っている。

スペースXのマスク氏によれば、ファルコン9の再使用化が軌道に乗れば、打ち上げコストは今の100分の1にまで下がるという。現在の使い捨て型のファルコン9は1機あたり6120万ドル(現在のレートで約72億円)であるため、これが約60万ドル(約7100万円)ほどになるということになる。実現すれば、宇宙ははるかに身近となり、これまで宇宙とは関係のなかった企業も宇宙利用を始め、さらに宇宙旅行や、宇宙ステーションや他の星への移住なども実現するかもしれない。実際マスク氏やスペースXは、有人火星探査や、火星への移住を最大の目的として掲げており、彼らにとって再使用ロケットは目的ではなく、その目標に向けた手段に過ぎない。

マスク氏が2013年に語ったところによれば、ロケットのコストのうち、推進剤の費用が占める割合はわずか0.2%、また材料費も多く見積もっても2.0%ほどしかないという。つまりロケットのコストのほとんどは、ロケットを建造するための行為――材料を切り出したり、曲げたり、溶接したり、部品を組み立てたりなど――から発生しているということになる。これを無くすことができれば、ロケットのコストはグッと下げられるということになる。

もちろん2回目以降の打ち上げでは、ロケットの建造費の代わりに整備費が新たに掛かってくることになるが、それは建造費を上回るほどのものにはならないという。

マスク氏はその例として旅客機を挙げているが、同様の理屈で再使用化に挑み、そして敗れた宇宙機がすでに存在する。スペース・シャトルである。シャトルも飛行機のように運用できるロケットを目指して開発されたが、実際は再使用するために必要なコストが膨れ上がり、当初の目標を達成することはできなかった。

ただ、シャトルとファルコン9には大きな違いがいくつもある。たとえば、シャトルは地球周回軌道からオービターが帰ってくるが、ファルコン9は高度80〜100kmから第1段機体が帰ってくるだけなので、減速などの制御に必要な推進剤の量や、大気との抵抗で受ける加熱はずっと小さい。

またスペースシャトルの固体ロケット・ブースターは、大西洋に着水させて船で回収し、洗浄して推進剤を詰めた上で再度打ち上げられていたが、ファルコン9の第1段機体は陸上の発射台の近く、もしくは整備や補給施設、発射台をも兼ねた海上のプラットフォームに降ろすため、輸送や整備はずっと簡単になる。

マスク氏は「スペース・シャトルのコンセプトは間違っていなかったが、要求の変化によって機体が複雑になり、効率的な再使用ができなかった。私たちなら、迅速に再打ち上げができる、完全再使用ロケットは開発できると考えている」と語る。

だが、本当にマスク氏の目論み通り事が進むかは、専門家の間でもまだ意見は分かれている。たとえば打ち上げコストを100分の1にするのであれば、同じ機体を少なくとも100回以上は再使用しなければならないことになるが、それだけの回数の飛行に耐えられるロケットを造るのは難しいだろう。もっとも、たとえ50分の1でも、10分の1でも、現在のロケットのコストから考えると、破格の安さになる。

昨年末のファルコン9の着陸成功は、ひとまず「衛星打ち上げロケットの第1段を着陸させることは可能」であることを証明した。また、その後マスク氏は「着陸後の機体を検査したところ損傷は見つからず、エンジンの再始動も可能な状態である」と明らかにしている(これは「再打ち上げが可能な状態」と言い換えても良いだろう)。

次に彼らは、実際に一度打ち上げに使ったロケットが再び打ち上げに使えること、そして、それによりコストが安くなることを証明しなければならない。

マスク氏の計画は正しいのか間違っているのか。あるいは正しいものの、ヴァルカンやアデリンのようなエンジンのみの再使用のほうがより効果的なのか。それとも、現代の技術でもまだ再使用ロケットは成立し得ないのか。これら諸々の結論は、今後数年のうちに出ることになるだろう。そして結論が見えてきたころ、日本や世界のロケットはどういう方向に向かうのか。私たちは今、その分かれ道に立っている。

【参考】
・Background on Tonight's Launch | SpaceX
 
・Falcon 9 | SpaceX
 
・Spaceflight Now | Falcon Launch Report | SpaceX achieves controlled landing of Falcon 9 first stage
 
・Liveblogging Tech Renaissance Man Elon Musk at D11 - Liz Gannes - D11 - AllThingsD
 
・SpaceX Grasshopper Makes Record Hop : Discovery News
 

(鳥嶋真也)