それがA代表であるか、年代別代表であるかはともかく、日本代表がアジアレベルの試合でこれほど防戦を強いられるのも珍しい。あたかも日本がアジアを勝ち抜くのが容易ではなかった、30年ほど前の時代に逆戻りしたかのようだった。

 リオデジャネイロ五輪アジア最終予選(兼アジアU−23選手権)がカタール・ドーハで開幕し、日本はグループリーグ初戦で北朝鮮と対戦。試合開始からわずか5分でDF植田直通がコーナーキックに合わせて決めた虎の子の1点を守り切り、1−0で勝利した。

 勝つには勝った。だが、内容的に見れば、日本はほとんどの時間帯で、ただひたすら北朝鮮の攻撃をはね返し続けるしかなかった。追いつかれていても、いや、負けていてもおかしくないような試合だった

 もちろん、ボール支配率やシュート数で相手を下回ったからと言って、悪い内容の試合とは限らない。相手にボールを持たれていても、まったく危なげなく守ることができていて、遠目からの無理矢理なミドルシュートしか打たせていない。そんな試合も当然ありうる。

 だが、この試合はそうではなかった。

 まず守備に関して言えば、日本は組織的に守れていなかった。早いタイミングで前線にロングボールを放り込んでくる北朝鮮に対し、日本が「間延びしてコンパクトにできなかった」(手倉森誠監督)ことが原因だ。

 その結果、ボールの出どころを抑えるわけでもなく、ヘディングではね返した後のセカンドボールを拾えるわけでもなく、北朝鮮のシュートの拙(つたな)さにも助けられながら、とにかくゴール前でシュートを防ぐしかなくなった。DF岩波拓也が振り返る。

「セカンドボールを拾われてサイドへ展開され、クロスを入れられることも多かった。耐えながらゼロ(無失点)で行くことを考えていた」

 結果的に無失点で試合を終えはしたが、あれだけ簡単にバイタルエリアへボールを入れられ、数え切れないほどのミドルシュートを浴びてしまっては、いつ"事故"が起きても不思議はない。

 シュートがDFに当たってコースが変わって入ってしまうこともあるだろうし、たまたまDFの手に当たってPKを与えるということも起こりうる。およそ危なげないとは言い難い場面の連続だった。

 攻撃に関しても、防戦なりに、せめてもう少しパスをつないでマイボールの時間を増やせればまだよかったが、それすらままならない。2、3本のパスすらつなぐことのできない日本には、クリアまがいのロングボールを蹴るより他に反攻の手段がなかった。手倉森監督が語る。

「間延びさせられたために、パス交換のときの(選手間の)距離が遠かった。ロングボールでの単発な攻撃だけになってしまった」

 岩波もまた、「もう少し(パスを)つなげる場面で、ロングボールが多くなった。個人的にも、もっとつなげる場面はあったと思う」と振り返る。

 率直に言って、酷い内容の試合だった。

「相当(選手の動きが)硬かった。初戦の難しさ、プレッシャーはあった。1点取って解き放たれるかと思ったが、逆に1点を大事にしたいという意識に変わってしまった。やはり緊張だったのかなと思う」

 手倉森監督はそう言って選手の心中を慮(おもんばか)っていたが、理由はともあれ、日本が何もさせてもらえなかったのは確かだ。

 試合序盤、北朝鮮がなぜか驚くほどバタつき、ミスを連発したところに乗じて奪った1点がなかったらと思うと、ぞっとするような試合である。

 とはいえ、裏を返せば、こんな内容の試合で勝ち点3を取れたのは大きい。今後の展開を考えると、これでかなり楽になった。

 だからこそ、選手たちはそれぞれ課題を口にしながらも、安堵の言葉を漏らす。

 岩波が「勝ち点3(を取ること)しか考えていなかった。それを取れたことがすべて」と言えば、DF山中亮輔は「最後はみんな死にもの狂いで守ってやるくらいに思っていたと思う。内容が悪くてもひとつ勝ち切れたことで自信になる」と胸をなでおろした。

 この世代は過去にU−20ワールドカップ出場を逃し、一昨年行なわれたアジアU−22選手権、仁川アジア大会でいずれもベスト8敗退と、何かを成し遂げたことがないまま、ここまで来た。それだけに万が一、今回の最終予選でも初戦を落とすようなことがあれば、そのままズルズルと行ってしまう危険性もあった。

 しかし、彼らはなりふり構わず1点を守り切った。「本音を言えば、もっとつないで日本らしいサッカーをしたい」という岩波も、「でも、割り切りは必要だと思う」と語る。

 キャプテンのMF遠藤航は「しっかり守備をするというのは、監督がずっと求めてきたもの」と話し、こう続ける。

「ベストの内容ではなかったが、最低限失点しない展開にできた。次(の試合)は攻撃の面でもいい形でシュートまで持っていければと思う」

 選手たちは自分たちが攻撃の形を作れていないことを認識していた。そこにもどかしさを感じてもいただろう。

 だが、明らかに悪い流れのなかで、下手に色気を出してパスをつなごうとすれば、どこかで致命的なミスが出てカウンターから失点、などということが起きてもおかしくはなかった。

 リードはわずかに1点。試合内容が決してよくないと自覚していた彼らは、割り切って"無様なサッカー"に徹し続けた。

 その結果が貴重な勝ち点3である。遠藤が語る。

「後半のラスト15分から20分は、1−0で勝ち切ることを頭に入れてプレーしていた。押し込まれたときも焦りはなく、落ち着いて守ろうと(選手同士で)話していた。チームとして意思統一できていることが大事。こうして守れたことは自信になる」

 手倉森監督も「手綱を引かないと(攻撃に出て打ち合う)大味なゲームをするような集団だったのが、こうしてしたたかなゲームができるようになった」と目を細める。

 もちろん、MF中島翔哉が「勝つだけがサッカーじゃないと思っている。いいサッカーをして勝たないと、次が苦しくなる」語っていたように、こんな内容の試合を続けていて最後まで勝ち上がれるほど、アジア最終予選は甘くない。

 それでも、何も成し遂げた経験がなく、恐らくそれなりの緊張と不安を抱えて初戦を迎えたであろうチームにとって、この勝利は今後に落ち着きと余裕を与えてくれるに違いない。最終予選を勝ち上がるなかにひとつくらい、こんな試合があってもいい。

 幸いにして、日本−北朝鮮の後に行なわれたサウジアラビア−タイが1−1の引き分けに終わったことで、日本は次戦でタイに勝てば、その時点で決勝トーナメント進出が決まる。何やら風は日本に向かって吹き始めている。

 リオ行きがかかった最終予選の大事な初戦。いい試合はできなかった。だが、大きな試合をものにした。

浅田真樹●取材・文 text by Asada Masaki