スタメン抜擢にされた植田は満点解答。ゴール&無失点と攻守両面で働いた。 写真:佐藤 明(サッカーダイジェスト写真部)
 リオ五輪最終予選の初戦・北朝鮮戦、「みんな固さがあった」という初陣でチームを勝利に導いたのが植田直通だった。

 開始5分、相手のマークを振り切り山中のCKに右足で合わせた。
 
「セットプレーでは決めてやるという気持ちを持っていた。フェイントをかけて入っていったら相手が引っ掛かった。ボールも良かったので後は決めるだけでした」

 試合後、植田は笑顔でゴールを振り返った。

 このCBが貢献したのは攻撃面だけではない。本職の守備でも北朝鮮のロングボールをに対し、制空権を握って撥ね返し続けた。その対応は喜びに似た感触があったという。
 
「蹴って来てくれて楽しかったです。僕は逆にそっちのほうが得意なので。あとはセカンドボールを拾うのが課題かなとは思います。そこは次に活かしたい」

 仲間たちが緊張した面持ちを見せるなか、試合を心から楽しんでいた植田。強靭なメンタルを持つ男だからこそ、ゴールという結果を残せたのかもしれない。
 実は勝利の立役者となった男は先発落ちの可能性があったという。

 手倉森監督は試合後に明かす。

「(植田のポジションには)本当は奈良をスタートさせようと思っていました。でも、スカウティングで、(北朝鮮は)どんどん放り込んでくると分かっていたので、植田で行こうと決めました。そこはちょっと当たりましたね。点まで取ってくれて、攻守によくやってくれたと思います」
 
 もし指揮官が別の決断を下していたら、植田は北朝鮮戦をベンチで見届け、ヒーローになることはなかった。その“運”は今後の戦いに大いに活きてきそうだ。

 ちなみに、この試合には北朝鮮戦の応援団が駆けつけたが、ふと「ウエダ」というコールが聞こえてきた。恐らく北朝鮮の選手を励ます言葉なのだろうが、植田も「僕も驚きました。プレッシャーをかけられているのかなと思いました」と笑って振り返る。様々な面で北朝鮮戦は“植田の日”ということだったのだろう。
 
「全ての試合をゼロで抑えたいと思っています。今日のような相手はアジアには多いし、無失点に抑えられたのは非常に大きい。ただ、まだ課題が多いです。相手の精度が高かったら失点していたシーンは何度もありました」

 無失点での勝利にも慢心はない。さらに高みを目指す植田が次戦のタイ戦ではどんなパフォーマンスを見せてくれるのか、注目したい。

取材・文●本田健介(サッカーダイジェスト編集部)