買い物代行業、朝から夕方まで並ぶことも(Nori / PIXTA(ピクスタ))

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 世の中には珍しい仕事がある。この人の年末年始は忙しかったそうだ。「買い物代行業」だ。(取材・文=フリーライター・神田憲行)

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 年明けから本格的に仕事が忙しくなっている人も多いだろうが、この人の年末年始はどうだったのだろう。買い物代行業「東京空の下」を運営している森下昌宣さんである。

 買い物代行業とは依頼主の代わりにモノを買い、その代金と手数料をもらうビジネスである。元手が不要でネットに案内のホームページを立ち上げるだけで即座に「開業」できるとあって、サラリーマンの副業、起業としても注目されている。森下さんは2012年からこの仕事を始めている。

「お正月は福袋の買い物代行を依頼されることが多いです。去年は11件ありました。でも今年はまだ2件ですが」

 それは景気と関係しているのだろうか。

「いえ、元日の朝から並ぶとか大変な依頼は私の方からけっこう断っていたんで(笑)」

 えっ依頼を断るとは……?

「年末はコミケ(コミックマーケット)で同人漫画を買う依頼を受けて、朝8時から夕方5時まで並びましたよ。結局時間切れで買えませんでしたが」

 そういうときは依頼者から怒られないんですか。

「依頼主もツイッターで現場の状況をフォローしていたので、仕方ないですね、と理解していただきました」

 断ったり、買えなかったり、どうも想像していた様子とは違う。ちなみに取材場所は森下さんが住んでいるけっこう豪華なマンションのロビーである。建物を見たとき、「買い物代行業ってそんなに儲かるものなのか」と、もっとアブラギッシュな人を連想していたのだが、目の前のいる人は穏やかでどこかノホホンとしている。

「依頼は平均して週2回ぐらい。売り上げは去年でだいたい30万円です」

 一瞬、聞き間違いかと思ったが、年に30万円なのである。首を傾げる私の表情をみて、森下さんが笑いながら手を振った。

「あ、私の本業は個人投資家なんですよ。生活費はすべて投資でまかない、買い物代行業は趣味みたいなものなんですよ」

 森下さんはインターネット関係の企業に勤めていた経験があり、「ネットにサービスを立ち上げる」ということが好きで、買い物代行以外にも海外用のショッピングサイトを制作したり、LINEの「スタンプ」作り(!)までやっているのだという。

「買い物代行業は元手がかからないし、暇な昼間の時間帯を使えるのでいいんです。あんまり大変なのは断っちゃうし(笑)」

 依頼で多いのは、「インターネットでも手に入らないもの」。たとえば地方発送をしていないお菓子だったり、漫画家のサイン会でのサイン、コンサートの限定グッズなどだ。

「お菓子の依頼はけっこう多いですね。2月に入るとバレンタインデー狙いで銀座のレアものチョコレートを買う依頼が重なります。グッズ系の依頼は定期的に入ります。ある限定ものの人形を買いにいったんですが、興味の無い私にはなにがいいのかさっぱりわからない(笑)。でも行くと大行列で、『いまこういうのがブームなのが』と勉強になりました」

 ただ買って依頼主に渡すだけでなく、準備が必要なときもある。

「漫画家さんのサイン会は、その漫画家さんとちょっとだけ会話ができるんですよ。そこで全く作品を知らないのは失礼ですから、ちゃんと漫画を読んで知識を入れてから行くようにしています」

 趣味みたいなものとはいえ誠実な仕事ぶりに「お客さんはリピーターがほとんど」という。

「並んで買う場合は時給換算すると数百円になってしまうときもあります。でも依頼主さんに商品を届けてメールとかでお礼を言われるとすごく嬉しいですね。本業の投資がパソコンをずっと眺めている仕事なので、よけい人とのふれあいを有り難く思わせているのかもしれません。無理せずやっていって、10年後ぐらいになにか形になってたら面白いなと思っています」

 働くことは社会や人とつながること。買い物を通して未知のドアを開けて社会のさまざまな部分をちょっとのぞき見する感覚が面白い。