約5300年前の人類もピロリ菌に感染/shutterstock

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 イタリア北部の氷河から凍結状態で見つかり、「アイスマン」と呼ばれている男性のミイラから、ピロリ菌が見つかった。「アイスマン」は、推定年齢40~50歳で約5300年前の石器時代に生きていたと見られる。死因は背中に受けた矢のなどの外傷で、即死だったと推定されている。1991年の発見以来、さまざまな解剖調査が行われており、この度、胃潰瘍や胃がんをひきおこす細菌「ヘリコバクター・ピロリ(ピロリ菌)」に感染していたことがわかった。

ピロリ菌は胃酸でも殺菌されず胃壁にとりつく

 ピロリ菌は、1979年に西オーストラリア大学のウォーレン名誉教授とマーシャル教授が発見され、この功績により2005年ノーベル医学生理学賞を受賞。それまで、胃炎や胃・十二指腸潰瘍の原因はストレスや生活習慣病だと考えられていたが、ピロリ菌が発症の引き金になっていることが判明。これまでの常識を覆す画期的な発見だった。

 現在、日本でのピロリ菌の感染者は、圧倒的に50歳代以上が多い。50歳以上の約7割が感染しているのに対して、20歳以下ではほとんど見られない。これは、かつて井戸水や川、池などの水が感染経路だったのが、昭和30年頃から上下水道の整備が進み、感染しなくなったためだと考えられている。

 そもそも胃には、強力な酸である胃酸が分泌されていて、食べ物を消化するだけでなく、食べ物と一緒に侵入してきた細菌も殺菌している。ピロリ菌が殺菌されずに生息できるのは、胃の中にある尿素をアンモニアと二酸化炭素に分解し、このアンモニアで自分の周囲の酸を中和させているためである。

 そしてピロリ菌は、胃壁に付着して毒素を出す。白血球がピロリ菌を攻撃するが、攻防が大規模になると胃の粘膜が消耗し、炎症を起こし、胃炎や潰瘍を発症する。これが度重なると、がんの原因になることもあるのだ。

アイスマンのピロリ菌はインドタイプ

 厄介なピロリ菌だが、服薬で除去できる。薬を飲む期間は1週間ほどだが、除去できる人は8割程度だという。とはいえ、除去できなくても、それほど深刻になる必要はない。ピロリ菌に感染している人は、炎症はおきているもののすべての人が潰瘍やがんになるわけではないのだ。

 アイスマンも、胃の組織からは、炎症が起きたときにできる複数のタンパク質が見つかり、炎症を起こしていたと推定されるが、胃の中には大量の食べ物が残っており、食欲不振に陥るほどの重症ではなかったようだ。

 また、アイスマンから見つかったピロリ菌の全ゲノムが解析され、それによると、現代のインド地域で見られる菌とよく似ているという。現在のヨーロッパ人の胃に棲みついているピロリ菌は、アジアと北アフリカとの混成だが、アイスマンの時代には、アジアタイプだったわけだ。そこで、アフリカ人がヨーロッパへ渡ったのは、アイスマンの時代より後だと推測することがで