【インタビュー】北川景子「“自分が幸せじゃないと人を幸せになんてできないのかな”と思うようになりました」
北川景子さんが10年前、初めて出演した映画が『間宮兄弟』。この作品のメガホンを握った、いわば北川さんの恩師であり、2011年に61歳の若さで亡くなった森田芳光監督を慕うスタッフ、森田作品の歴代出演者たちが集結し、監督のデビュー作『の・ようなもの』の35年後を描いた『の・ようなもの のようなもの』が製作されました。北川さんは、松山ケンイチさん演じる主人公の落語家・志ん田(ルビ:しんでん)を振り回しつつも温かく見守るヒロインとして参戦!森田監督との思い出や、この10年、30代を迎えるにあたってのこれからについて語ってもらいました。


『オーディションを受けたときは、絶対に落ちたなと思いました』


――『の・ようなもの』が公開されたのは、北川さんが生まれる以前の1981年。35年を経て、“いま”の物語として続編が製作されると聞いた時の印象は?



北川:私にとっては『の・ようなもの』はすごく思い入れの強い作品です。『間宮兄弟』のオーディションで、これまでに監督の映画を見たことがないと正直に言っちゃったんですが(苦笑)、監督は「じゃあ、送りますね」と言ってくださったんです。『いや、これは落ちたな』と思ってたら受かって、本当に『の・ようなもの』(のビデオテープ)が送られてきて「これを見ると、役作りの助けになると思います」と言われたのが10年前。のちに、森田監督が本当に大切にされていた作品だったと知り、その続編のお話をいただけるなら『もちろんやります!やりたいです』とお伝えしました。

――役名は『間宮兄弟』で演じた時と同じ“夕美”。他の出演者の方の役も、それぞれ過去に森田作品で演じた役柄を彷彿とさせますね。

北川:そもそもヒロインと思ってなかったのでビックリしましたが、夕美という名前で、台本を読めば『間宮兄弟』の夕美だとすぐにわかったし、志ん田も『僕達急行 A列車で行こう』(※森田監督の遺作)でケンイチくんが演じた小町だとわかるし、そういうシャレなんだな(笑)、そういうことなら思い切ってやろう!と。森田組のヒロインを演じた女優さんはたくさんいるのに、よく私にお話を持ってきてくださったなという気持ちでした。

――「絶対に落ちた」と思ったオーディションから映画女優としての人生がスタートしたんですね。その森田監督のデビュー作の続編ということで特別な思いがあったのでは?



北川:三沢和子さん(※森田組のプロデューサー)の采配のおかげかなと思っています。『間宮兄弟』の次に出させてもらった『サウスバウンド』の舞台挨拶で、森田さんは「次は松山と北川で撮りたい!」とおっしゃったんです。当時、私は一応、『サウスバウンド』では(主人公の)家族の一員として舞台挨拶に立たせてもらいましたが全然、大きな役でもなく、ケンイチくんもそう。それなのにそう言っていただけてすごく嬉しかったです。だからこそ、監督の願い、遺志を継ぐような思いでした。ケンイチくんは、(主演として)あるべくしていると思うけど、私の場合はもっと他にいい女優さんはいるので…。森田さんの気持ちを一番知っていた三沢さんが、考えてくださったキャスティングなのかなと。

――森田監督の存在が、女優・北川景子の歩みにそれほど大きな影響を与えていたんですね。

北川:言い訳するみたいに「いま、ドラマやってるんですけど、本当は映画でまた監督に呼ばれるように頑張りたいんですけど…」と言ったら、監督は「毎週見てるよ。面白いし成長したと思ったよ」と言ってくださったんです。「あそこまで振れ幅を持ってやってるのがいいね。最終回まで楽しみだよ」と。それから、頑張ってやっていたらドラマでも他の映画でも、森田さんに見てもらえるんだという思いでやってこれたというのはあります。

――森田監督に成長を見せたいという思いがモチベーションになってたんですね。

北川:だから、監督が亡くなったときは、何も考えられずしばらくやる気を失ってしまいました。「全部、森田さんに見てほしいからやってきた」と言うと他の監督さんに失礼かもしれませんが、本当にそうでしたから。そうじゃなきゃ、ずっとモデルをやってたかもしれないし、『間宮兄弟』で「女優をやめないでくださいね」と言われたから、続けてこられた。亡くなられて「どうしよう?」と思ったけど、その次に三沢さんの顔が浮かんで、森田組で学んだことをここでやめちゃいけないと思いました。いまでも、どこかで見てくださっていると思います。


『私は言い過ぎてもできないタイプだと見抜かれていたのかも(笑)』


――実際に森田作品の現場で、監督からはどんな指導や演出を受けたんですか?



北川:『間宮兄弟』のときはクランクイン前に直接お話しする機会はなくて、現場に入る時もすでに塚地(武雅)さんたちは入っていて、出来上がっている状態の中に飛び込む感じでした。オーディションではふてぶてしかったんですが(笑)、いざインしたら「映画ってこんなにたくさんのスタッフが働いてるの?」と全てにビックリして、塚地さんや(佐々木)蔵之介さんやTVで見ていた人たちがいて「私、大丈夫かな…?」って。「私は『セーラームーン』でしか演技の経験がないし、特撮とはまた違うと思うんでどうしたらいいですか?」と尋ねたのですが、監督は「北川が思った通りのことをやればいい」と言ってくださりました。「ああしろこうしろ」とは言わず、撮影もほとんど1回きりで、とにかく早かったですね。あっけない印象でした。

――叱られたりすることもなく?

北川:『サウスバウンド』でも「北川は思ったままで、自由でいいんだよ」って。でも、ふと横を見ると、ケンイチ君は「お茶の飲み方はもっとこうだよっ!」とか言われてるんです(笑)。人によって印象は違うと思います。私は、あまり言い過ぎてもできないタイプだと見抜かれていたのかもしれないです(笑)。ただ、監督が笑ってるということは、面白くて嬉しいってことだなと思い、監督に笑ってほしくてやってました。私も関西人なので(笑)、どうやったら笑ってもらえるかな?と。あまりに何も言われなくて不安になることもありましたけど。

――監督から受け取ったもので、一番大きかったのはどんなことでしょうか?

北川:『間宮兄弟』で「ありのままでいい。自然体が一番魅力的だ」と言ってくださり、『サウスバウンド』では「キレイじゃなくていいよ」と言われました。女優だからといってキレイにして出なきゃいけないわけではないと、メイクもせずに出たのはすごく嬉しかったし新鮮でした。こういう人たちが本当に隣町にいそうなリアリティを持たせるってそういうことなんだなと。お芝居って何?映画って何?と考えたとき、よくみなさん「映画の嘘」ということをおっしゃるけど、森田さんの作品は嘘があまりないんですよね。そういう現場を若い時に経験できたのはよかったなと思います。

『自分が幸せじゃないと人を幸せになんてできないのかな』


――生きていく中で、様々な選択を迫られることがあると思います。そんなとき、北川さんはどう悩み、どんな風に答えを選んでますか?



北川:最近は、少しは年齢を重ねて「一度しかない人生だし、自分が幸せじゃないと人を幸せになんてできないのかな?まず自分が満たされることも大事なのかな?」と思えるんですけど、若い頃は迷ったら、自分を苦しい方に置くタイプでした。作品に関しても、簡単にできそうな役をやろうとせず「この役はきっと壁にぶち当たるし、つらいだろうけど、これを乗り越えることが必要だ!」と。お嬢様の役とか、おそらくみなさんが「絶対にいい!」と言ってくださる役のオファーが来ても、同じような役をもう一度やるのではなく、初めての道に行くことが必要なんだと。

――あえて困難な道を?

北川:「苦労は買ってでもしろ」という言葉をすごく信じていて、苦しむように、苦しむようにしていたのはありました(笑)。デビューが遅かったので「粗削りでもいいからどんどん削っていかないといけない!経験しなきゃ!」という思いはありました。仕事の面ではそうやって、経験したことのない方を選んでましたが、プライベートは…あまり迷わないですね(笑)。意外と「もういいや」ってなります。あまり、プライベートに執着がなかったのかな…?いつも迷ったり悩むのは仕事の方でした。なぜ迷い、悩んでるのかを考えて、それは人間関係なのか?テクニカルな部分なのか?何なのかと分析して対応すれば、そこまでどん底に落ちることないってわかってきた気がします。

――以前と比べて少し余裕ができた?

北川:年々、痛みを感じなくなるというか、人間ってそうなんだなって(笑)。よく「30代が一番楽しいよ」と女優の先輩に言われますが、そろそろ楽しくなってくるかな…?と楽しみにしてます。


『今年で30歳…まだ安定を望むような位置や時期じゃない』


――今年で30歳ですが、女優として30代の目標は?



北川:始めるのが遅かったので、まだまだやったことない役やジャンルの方が多いんですよね。舞台もやったことないですし。未経験のことから、チャレンジ精神を捨てないでやりたいです。まだ、安定を望むような位置や時期じゃないと思うので、どんどんやったことのない役やジャンルに挑戦したいです。それ以外には「こういう女優が憧れ!」とか「そのためにはこうあらねば!」といったことは決めてなくて、なるようになると思っています。役って不思議なもので「いまの北川さんには、こういう役がいいのではないかと思いまして」と来てくれるんです。

――めぐりあわせですね。

北川:私に合わないだろうという役をわざわざオファーしてくる人もあまりいないので(笑)。「いまの北川景子には、これが合っているのでは?」とか「こういう姿を見てみたい」と、意外と他人の方が自分を見てくれていたりするんです。役から自分に向かってきてくれるところがあるから面白いです。来るものを拒まずにやっていくと、役と共に自分も成長していけるんじゃないかと思っています。そのためにも、なるべく世の中に出ていようって思いますね。そうしていたら「北川でこういう役を試してみようかな」と思ってもらいやすいですし。(『の・ようなもの』主演で、本作にも出ている)伊藤(克信)さんも「みんな死んでないから続編を作ることができた」と言ってましたが、そこって大事です(笑)。健康で、役者であり続けられたらいいなって思います。


北川景子のHappyの源は?


――「Peachy」という言葉は「ゴキゲン」とか「ハッピー」という意味を持つんですが、北川さんにとって「これがあればハッピー!」という元気の源は何ですか?



北川:毎日、カフェオレを飲むので、おいしいカフェオレを出してくれるカフェを見つけたら元気になります。海外に行っても絶対にカフェを探して入るんですよ。

――ご自宅で自分で作ることは?

北川:自宅でカフェオレの泡を立てるのってすごく難しいじゃないですか(笑)。なので、カフェで頼むことが多いんです。おいしいカフェオレが出てきたらハッピーです!


『の・ようなもの のようなもの』は2016年1月16日(土)より全国ロードショー。
映画公式サイト: http://no-younamono.jp/

撮影:倉橋マキ
取材・文:黒豆直樹
制作・編集:iD inc.