ちょうど一年前、ガンバ大阪が天皇杯を制し、3冠を達成した後、僕は「来年のG大阪はきびしいのではないか?」と原稿に記した。Jリーグの最終戦で徳島に引き分けたり、天皇杯決勝で当時J2だった山形に辛勝する姿に、シーズン最盛期の勢いを感じ取ることができなかった。その決して良くない終わり方が、右肩下がりの兆候に見えた。

 昨年度は一冠。優勝した正月の天皇杯にしても、内容的には相手の広島の方が上だった。予想的中とまでは行かなかったが、G大阪は、またまた、来シーズンが心配になる終わり方をした。横浜Fマリノスから、アデミウソンを期限付きで獲得したという話だが、昨年度以上の成績を望むなら、それだけでは足りない気がする。

 遠藤の力が落ちている。一番の原因はそこにある。ボールへの反応が鈍ったという印象。相手ボールへの反応はもともと早い方ではなかった。マイボールへの反応の方が早いタイプだったが、いずれも数パーセントダウンしている感じだ。遠藤の代わりを見つけることができるか。G大阪の戦力アップはその点にかかっている。

 その代表キャップ数は152。男子では歴代最多だ。一方、女子の最多記録保持者(205回)、澤穂稀は年末に行われた皇后杯決勝(INAC神戸レオネッサ対アルビレックス新潟)を最後に引退した。自らのゴールを決勝点として。

 澤も遠藤同様、ボールへの反応が鈍くなった印象がある。スピードや運動量が落ちたというのとは若干違う。少し前まで抜群の鋭さだっただけに必要以上に目に付いてしまう。

 むしろ、それこそが彼女の最大の魅力だった。様々な能力の持ち主であったとはいえ、反応の鋭さに関して言えば日本一。女子サッカー界はもちろん、男子を含めても追随を許す選手はいないと思う。僕はその点に、目を奪われていた。

 集中力とは、サッカーに不可欠な要素として指導者が選手に長年求めてきたものだ。「集中! 集中!」の連呼を、試合会場や練習会場で耳にしない日はない。だがそれは、動的というより静的だ。セットプレイ時には有効かもしれないが、監督、コーチから「あと15分、集中していこう!」と言われても、具体的にどうプレイに反映したらいいのか分かりにくい。サッカーの核心に迫れていない声がけだと言いたくなる。

 澤は、そうした集中力にまつわる不透明感を解決してくれる選手だった。集中力抜群とは、こういうプレイを指すのだなと。反応力抜群。だとすれば、集中力は「反応力」に置き換えた方が伝わりやすいーーとも同時に感じさせた。

 澤のポジションは中盤の真ん中。守備50、攻撃50の割合でプレイすることが求められるポジションだと言われるが、その50対50の関係は、マイボール、相手ボール、どちらの状態でも同じように反応することと同じ意味がある。

 それが実現可能な選手は日本にどれほどいるか。遠藤は60対40。G大阪で遠藤の背後をカバーする今野は40対60。2人併せて50対50を保とうとしている。50対50の感覚を単独で備えている澤のような選手は、見つけ出しにくい。

 センターハーフ不在。中盤フラット型の4−4−2が普及しなかった弊害を見る気がするが、それはいつでもボールに反応できていない選手が多いことをも意味している。

 天皇杯決勝。前半36分、浦和が1−1に追いついた興梠のゴールは、梅崎のセンタリングによってもたらされたものだが、その時、梅崎に対峙していたG大阪、宇佐美の反応力は、限りなくゼロに近かった。まさに非澤的な対応だった。サッカーには「好選手」という言い回しがある。巧いでも凄いでもない「好」。チームプレイヤーとしての好感度を示す言葉になるが、それは反応力そのものだと思う。マイボール時も、相手ボール時も同じようにボールに対して鋭く反応できる選手。この数を日本サッカー界は増やしていくべきだと思う。

 日本選手は勤勉だと言われる。忠実で真面目だとも言われる。自称臭いところもあるが、それはサッカーに落とし込み、具体的な言葉にすると反応する力になる。得意であるはずのモノが、実は得意ではない。澤以外、なかなか見あたらない。これが日本の現実だと思う。

 現在コロンビアのミジョナリオスというクラブで監督を務めるスペインの戦術家、フアン・マヌエル・リージョは、サッカーに必要なモノは何かという話を「反応」ではなく「共鳴」という言葉を使って、こちらに説明してくれた。いかにボールと共鳴するか。ボールを中心として捉え、選手とボールとが共鳴し合うように動いている状態こそがサッカーの理想的な姿だ、と。

 想起するのは2011年女子W杯を制したなでしこジャパン。あのチームの何がよかったのか。澤が引退したいま、もう一度、振り返るべきだと思う。

 好チーム度を高められるか。話をG大阪に戻せば、それこそが問われている点だと思う。反応鋭く、共鳴し続けるサッカー。少なくとも僕はそうしたサッカーを欲している。