昨年のレヴュー「あの衝撃の結末からどうなるのか。大人気英国貴族ドラマ「ダウントン・アビー」」で予告していたとおり、英国ドラマ『ダウントン・アビー』のNHK総合での放送が、1月10日深夜からスタートした。
スターチャンネルでの放送から7か月遅れで、地上波に登場したことになる。


このドラマの魅力のうち、とくにプロットのワザについては、べつのレヴュー「大人気英国貴族ドラマ「ダウントン・アビー」を物語技法「パラレリズム」で解析する」で紹介しておいた。
今回はこの場で、地上波シーズン4の門出を祝うことにしたい。

どうなる? 伯爵家の領地経営


シーズン3最終回は、グランサム伯爵家長女・メアリとのあいだに待望の男子を得たばかりのマシューが、交通事故で急逝するというショッキングなものだった。

それから半年。舞台は前シーズンに引き続き、ロイド・ジョージ首相政権下の英国。
メアリは毎日、黒いドレスを着て陰鬱な顔をして、悲しみに浸りきっている。
誕生したばかりで父を喪った赤子はジョージと名づけられた。

マシューは生前、義弟トム・ブランソン(伯爵家の亡き三女シビルの夫)とともに、傾きかけた伯爵家の領地経営改革に乗り出していた。
それがうまく進みかけた矢先の事故死だったのだ。

現在、ダウントンの全資産の6分の5は、改革に必ずしも乗り気でない伯爵(ロバート)と、生後6か月の嬰児ジョージの共同所有となっている。
つまり寡婦メアリには、自分ひとりの意向で財産をどうこうする権利はない。

ブランソンは義兄の遺志をついで改革を進めたい。領地経営を立て直すためにそれが必要だということは明らかだ。
経営については頭が古い伯爵をどうやって説得し、新時代に向かわせるか。これが今シーズンの大問題である。

マシューを失った人々


マシューを失って失意のうちにあるのは、妻メアリだけではない。マシューの実母イザベルもそうだ。
もうひとり、マシューの死で職を失ったマシューの従者モールズリーも困っている。

伯爵の母ヴァイオレットはレディ・シャクルトンの屋敷での会食でモールズリーを売りこもうという計画を立てるが、『ダウントン・アビー』ファンはその考えを知っただけで、
「あの要領の悪いモールズリーが、今回はどんなヘマをするのだろう」
と想像して、胃がキリキリする。そういうネタ振りになっている。

去る人、来る人、戻る人


シーズン4は、伯爵夫人コーラの侍女で邸内のダークサイドを担うオブライエンが、前シーズン第9話に出てきたスコットランドのレイディ・フリントシャーに引き抜かれて姿を消すところから始まる。彼女はフリントシャー家とともにインド行きを決めたのだ。

レイディ・フリントシャーの娘で伯爵家に同居しているローズは、責任を感じたのか勝手に侍女を募集する。
それにエントリしてきたのが、伯爵家がスコットランドに行っていた時期にごく短期間メイドとして働いていたエドナ。

ヤバい女が帰ってきたものだ。彼女はブランソンを「だぶらかし」(執事カーソンの言いかたを借りれば)、それが家政婦長ヒューズに発覚して一度はクビになったのだが、ローズも、伯爵家の人たちも、そんなことは知らないし、彼らにそんなことを言うわけにもいかない。

ヒューズはエドナを「時限爆弾」と呼んだが、果たして彼女がシーズン4の時限爆弾となるのだろうか?

生まれて間もないジョージと、ブランソンの娘で三女・故シビルの遺児である幼いシビル(2世)とは、新しく来た乳母ウェストに面倒を見てもらっているが、ウェストは来て早々に副執事トーマス・バロウと対立する。

第1話の終盤でウェストの問題行動(幼いシビルへの虐待的な言辞)が発覚し、ウェストは伯爵夫人コーラにクビを言い渡される。今後、伯爵の幼い孫たちはどうなるのだろうか?

使用人のもめごといろいろ


このほか、「火種」になりそうなできごとが、新シーズン第1話だけに、数多くちりばめられている。

たとえば執事カーソンの古い仲間で、落魄してリポンの救貧院で暮らすグリックは、カーソンに援助を願うが、カーソンはグリックに会いたがらない。
事情を知ったヒューズのはからいで、グリックはなんと、イザベルのもとに身を寄せることに。
息子を失った悲しみから立ち直ろうとするあまり、イザベルは早まったことをしてしまったのではないだろうか?

ヴァレンタインデイに、厨房で働くデイジーとアイヴィに匿名のカードが届く。
アイヴィにカードを送ったのは下僕アルフレッド(前侍女オブライエンの甥で、おばに似ぬ好青年)だったが、同じく下僕のチャラ男・ジミーがアイヴィをパブに誘ってしこたま飲ませてしまう。

ところで、デイジーにカードを送ったのは?──こちらの展開も残酷といえば残酷だ。
いっぽう厨房のボスである料理長パットモアは、泡立て器やトースターといったテクノロジーの登場で、自分たちがクビになるのではないかと戦々兢々としている。

こんなキナ臭い環境で、苦労してやっといっしょになれたジョンとアンナのベイツ夫妻のアツアツぶりだけが平和、という第1話だった。

イーディスの恋は?


恋多く男運が徹底して悪いイーディスは、ロンドンの編集者グレッグソンと相思相愛だが、彼は当時の英国の法では、精神を病んだ妻リジーと離婚できない(『ジェイン・エア』の時代と変わってないってことね)。


そこでグレッグソンは、その条件で離婚が可能なドイツの市民権を得ることを決意する。
ドイツと言えばほんの最近まで英国が、4年の長きにわたって戦っていた敵国だ(そして後世の僕らは、10数年後にふたたび英国の敵国となることも知っている)。

伯爵、ほんとにたいへんだよなあ。
三女がアイルランド人の運転手と駆け落ち結婚の末に病死、長女の夫は交通事故死。
これだけでも気の毒なのに、既婚者が次女に求婚し、あまつさえドイツ人になろうとしているということを、伯爵はまだ知らない。

そしてメアリの今後は?


第1話では、伯爵は全部自分で仕切ろうとする。
彼は、領地経営でも邸内の私生活でも、子どもたちの代に主導権を渡そうとしない。

たとえばメアリは夫を喪った悲しみをいつまでも引きずっているが、父である伯爵は「メアリの心の回復が必要」などと言って過保護に立ち回ることで、メアリの回復を遅らせてしまっている。

そのメアリを死の世界から生の世界へと引きずり戻そうと、周囲の人々は声をかける。

〈いつまで絶望しておられるのです?〉(執事カーソン)
〈いまあなたの前にはふたつの選択肢がある。選びなさい。このまま死ぬか。生きるか〉(祖母ヴァイオレット)

領地経営にかんする会合の席に、メアリが黒ではなくモーヴ色のドレスを着てあらわれる第1話のエンディングは感動的だ。

脇役の印象深い台詞


これらより、さらに印象深い台詞が、第1話にはあった。
マシュー以外の主人は考えられないと悲しみにひたるモールズリー(モールズリーのくせに生意気だぞ!)に向って、老父がかけたこのひとこと。

〈最高を求めるなら、まず自分自身が最高のレヴェルに登りつめることだ。
 目の前の仕事をこつこつやっていれば、自分の目ざすべき道が見えてくる〉

いい父親を持っているではないか(モールズリーのくせに)。
このせっかくの言葉も、息子にはちゃんと届かなかったようだけど。

凝った展開や皮肉な表現にばかり気を取られてるときに、こういう素朴だが味な台詞が降ってきてはっとする。これもまた、このドラマの一面なのだ。
(千野帽子)