NHK 大河ドラマ「真田丸」(作:作三谷幸喜/毎週日曜 総合テレビ午後8時 BS プレミアム 午後6時)
1月10日放送 第1回「船出」 演出:木村隆文


天正10年、歴史的背景がよくわかる


ゲーム「信長の野望」を手がけたシブサワ・コウ監修による3DCGマップによって、戦国時代の勢力分布図がわかりやすい! 

天正元年(1572年)に巨星・武田信玄が亡くなった後、息子・勝頼(平岳大)が継いだ甲斐(山梨県)の武田家は、北は上杉景勝(遠藤憲一)、東は北条氏政(高嶋政伸)、南は徳川家康(内野聖陽)、西は織田信長(吉田鋼太郎)が率いる列強に囲まれながら、勢力奪回の機会をうかがっていた。
ドラマは天正10年(1582年)からはじまる。西の要であった勝頼の義理の弟・木曽義昌が織田に寝返ると、信長は一気に武田を攻める。
武田軍の柱だった穴山梅雪(榎木孝明)も寝返り、武田家の危機の大きさを感じた真田安房守昌幸(草刈正雄)は、武田の拠点になっていた新府城を出て上野(群馬県)の岩櫃城へ逃れることを提言する。
だが勝頼は甲斐にこだわり、真田家の人質を免じて彼らだけ岩櫃城へ向かわせた。
その後、勝頼はさらに小山田信茂(温水洋一)の裏切りに遭う。
武田家の終焉というひとつの時代の終焉が訪れる中、真田昌幸とその家族たちは寄り添いながら、小さな小舟のように、戦国という荒海に漕ぎ出す。
ここまでが第1回の流れ。
複雑な勢力争いの状況を、わかりやすい地図と、わかりやすいナレーション(有働由美子)や登場人物の会話で解説してくれて、基本は抑えられた。

1話で真田信繁の基礎もばっちり


1話ではまだ真田幸村(源次郎信繁/堺雅人)は15歳の好奇心と冒険心の強い少年。聡明さをすでに発揮しているものの、有名な幸村像にはまだ遠いため、33年後の大坂の陣の活躍の様子を冒頭に挿入し、期待感を煽る。
15歳の信繁少年も頑張っている。
冒頭、果敢に、徳川勢の様子を見に行った信繁。見つかってしまっても、しれっと兵士たちの前に歩みより、隙を見て馬に乗って逃げ出す。この悪びれなさ、調子の良さが、後々、知将となる片鱗なのだろうと思わせる。
しかも、単なる冒険心で敵を見に行ったわけではなく、皆が西ばかり気にして南が手薄になっていると思っての行為。これが父・昌幸の考えと一致していたことに気づいた兄・信幸(大泉洋)は、弟の勘所の良さを認めざるを得ない。

信繁の1歳上の兄は定石を好み、将棋をやっても「まっとう過ぎておもしろみに欠ける」と弟に言われてしまうタイプ。
定石が通用しないはずの山崩しでも「決して無理をせぬこと」というほどの慎重派の信幸と、意外性を好む冒険したいタイプの信繁はじつに対照的。
堺雅人42歳、大泉洋同じく42歳、全力で10代を演じている。まあ、さすがに10代に見えないが、それはさておき、1話で注目したいのは、ふたりの名前についての会話。
信繁の姉・松(木村佳乃)とその夫・小山田茂誠(高木渉)と信繁が、どうして長男・信幸が源三郎で次男・信繁が源次郎なのかと首をひねる。理由は、真田家は長男が早く死ぬことが多いため名前を(長男らしくない)源三郎にしたと松。それを知らなかった信繁。
でもなぜ、次男は源次郎なのか。
「ひねりなしか」と茂誠、「(父は)細かいところは気にしない」と言う信繁だが、兄のような名前はまるで信繁の未来(大坂の陣の顛末)を暗示しているようではないか。名付けのおかげか、兄は長生きと思うと、なんとも言えない気分になる。

なんといっても昌幸が魅力的


主人公の信繁と兄・信幸の対称性を鮮やかに1話で描き切っているが、1話ではなにより、ふたりの父・昌幸のキャラクターが立っている。
武田家が信長に責められて、さあどうしよう、という時、昌幸はいったん、引いたほうがいいと意見し、「潮を読むのでござる」と言う。
彼は潮の満ち引きのごとく、意見を出したり引っ込めたりしまくる。
家族の前では、「自分がいるかぎり、武田家は滅びることは決してない」と言いながら、息子ふたりには「武田滅びるぞ」と言う。え! と口をポカーンとする信幸、目を丸くする信繁(この目と口の対比も抜群)。
そして新府城を「捨てる」と宣言し、この城は「最も安全」って言ってたじゃないか・・・と信幸に指摘されると、「誰が言ったんだ」ととぼける。
信幸は、「たまに親父殿がわからなくなるときがある。あまりにも器が多すぎてついていけない」と呆然。
堺、大泉のリアクションが巧い。これに比べると、冒頭、信繁が馬に乗るまでの徳川勢のリアクションが物足りない。もっとメリハリを利かせて見せてくれると、笑えただろうと惜しくなる。さすがに、大河ドラマの第1回の冒頭を笑いで見せるのは実験的過ぎて、自主規制したのだろうか。

第1回の名シーン


だが、やはり笑いの三谷幸喜。徐々に小出しに笑いが入る。
「富士や浅間の山が火でも吹かん限り、武田の家は安泰にございます」と胸はってお父さんが言ったら、
どかーん! と轟音と炎と黒煙。
「2月14日、48年ぶりに浅間山が噴火した」と有働さんの淡々としたナレーションがかぶる。
呆然とするお父さん。目を泳がせながら、「そりゃ、火山ですから、たまには火も吹きましょう」とフォローする信繁。そして、その日、穴山梅雪が織田軍に寝返ったことが判明するという、シリアスな話で肩に力が入りそうなものなのに、昌幸が常に根拠なく、はったりかましていることがよくわかって、クスリとさせられる。

第一回の名台詞


「捨て鉢にならず、最後まで望みを捨てなかった者にのみ道は開けまする」(昌幸)

なにやら適当で、真意がわからない昌幸だが、この発言は非常にまとも。こういう考えだからこそ、なにごとも臨機応変だったのだろうと納得させられる。
「真田家にとって未曾有の危機これをどんなことをしても乗り切る」と家を守るために全力で頭を働かせたのだろう。
こうして、1話の終わり、家族総出で生き残るために逃げていくが、10代の少年たちと動きの鈍い女たちでは、どう考えても追手から逃れるのは困難そう。
目がギラギラした遠藤憲一の上杉景勝、やたらご飯をかっこむ高嶋政伸の北条氏政、爪をかむエキセントリックな内野聖陽の徳川家康、鼓動が聞こえてきそうな吉田鋼太郎の織田信長らモンスター級の武将たちがいよいよ天下をとろうと本格的に暴れだそうとしている中、真田家一行が小さく寄り添いながら山道を駆け抜けていくところは、「借りぐらしのアリエッティ」の家族のようで愛おしい。
(木俣冬)