この病気が怖いのは、発見が遅れ、治療が遅れるほど生存期間が短くなることだ。肺高血圧症には4つのステージがあり、病状がステージ1、または2なら約5年だが、ステージ3だと2.6年となり、最悪のステージ4だと半年の命しかない。だから、とにかく早期発見と早期治療が重要だと言われる。
 しかし、実際は早期発見が難しいため、病状が軽いステージ1、または2で診断を受ける患者は、全体の25%に過ぎない。その他の75%は、病状が進んだステージ3か4の段階で、初めて診断を受けるそうだ。
 厄介なのは、ステージ1ではほとんど自覚症状がないこと。ステージ2になると、息が切れるようになり、家事や仕事などもきつく感じるようになる。さらに、声のかすれ、咳や血痰、失神発作などの症状が現れた場合は、かぜの症状と軽く考えず、すぐに循環器科を受診することである。

 総合医療クリニック院長で医学博士の久富茂樹氏はこう語る。
 「診断の決め手となるのは、右心室カテーテル検査になると思います。この段階での治療は薬物療法が中心になりますが、病態によっては肺移植を行うこともある。また、息切れの症状は、狭心症や心筋梗塞などの循環器系の病気や、喘息や慢性閉塞性肺疾患などの呼吸器系の病気でも見られるので、診断には細心の注意を払っています」

 肺高血圧症は、難しい表現になるが、高肺血管抵抗を生じさせる機序によって分類され、代表的なものは「肺動脈性肺高血圧症(PAH)」「慢性血栓塞栓性肺高血圧症(CTEPH)」「肺疾患に伴う肺高血圧症」の3つに分けられる。
 2012年に海外で発表された研究では、この3つのタイプを合計した患者数は、人口10万人に対して76人という報告がある。数字は暫定的ではあるものの、近年の研究の進歩とともに患者数は増えており、20年前と比較しておよそ100倍近くになっているという。また、若年者の患者が比較的多く、男女比で見ると女性の方が多いという特徴もある。

 では、こうした患者のケアについて、どんな点に気を付けたらいいのだろうか。東京都多摩総合医療センターの循環器科に勤める外来担当医はこう言う。
 「意外と若い20〜30代にかけて発症する例が多く、本来ならバリバリ働ける年代です。しかし、患者さんは発病によって、突然死の恐怖や社会活動の制限、治療に伴う外見的な変化に大きな苦痛を感じています。精神状態が不安定になりやすく、家族や医療従事者など周囲の人々の理解と協力が大変重要になります」

 そして、担当医は「日常的な留意点」についてこう続けた。
 「心身の安静が第一です。運動によって肺動脈圧が大きく上昇するので、過度の運動は避けること。呼吸困難時は、寝ている姿勢よりも上半身を起こした方が楽に呼吸できます。また、失神発作の多くがトイレで起こります。急に立ち上がると血圧の変化が大きいことから、洋式便器を使うことが必要です」

 食事面では特別な制限はないというが、心不全からむくみや腹水を起こす病気なので、水分制限、塩分制限が必要となる。
 あとは医師、または薬剤師の指導を受けることが重要で、何度も繰り返すようだが早期発見、早期治療が大切である。