レオナルド・ダ・ヴィンチやラファエロ、ルーベンス、モネ、ドガ……。どれも西洋絵画の大家なれど、なんとなく敷居が高くて深く知るまでには至っていない、というアラサー女性も多いのではないでしょうか。

しかし、それではもったいない! 実は、絵画史に名を残す巨匠達には、美術の教科書からはうかがい知れないユニークな事情があるのです。そんな、巨匠達の人となりや人間関係、社会情勢という独特の観点から西洋絵画史をひもとくのが、山田五郎さん・こやま淳子さん著の『ヘンタイ美術館-->-->-->-->-->』(ダイヤモンド社)。

『ヘンタイ美術館』では、「美術館館長」の山田さんが、「学芸員見習い」である気鋭のコピーライター・こやま淳子さんを相手として、ルネサンスから印象派まで、誰もがよく知る著名な画家の裏事情が次々明かされていきます。

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ダ・ヴィンチはダメンズ好きの一発屋?

「スフマート」の手法で描かれたダ・ヴィンチの絵画

ダ・ヴィンチといえば、まさにルネサンス時代を代表する芸術家といっても過言ではありません。では、ダ・ヴィンチの作品として挙げられるのは何でしょう? 『モナ・リザ』、『最後の晩餐』……。そのくらいで止まってしまうのではないでしょうか。

ダ・ヴィンチは生涯を通して寡作で、あまつさえ請け負った仕事で従来と異なる塗り方を試して台無しにするわ、前金を受け取っておきながら絵の制作を途中放棄するわ、ビジネスとして見れば「発注したくないアーティストNo.1」。また、好みのダメンズを弟子に据え、絵のモデルにしたり、30年間一緒に暮らしたりと、極めてアウトローな生き方をしていました。

それでもダ・ヴィンチが後世に燦然と輝く名を残せたのは、『モナ・リザ』『最後の晩餐』という驚異的なヒット作があったからこそ。まさに「一発当てた」芸術家だったのです。

『モナ・リザ』はなぜ有名になったのか?

そもそも、なぜダ・ヴィンチの『モナ・リザ』が、押しも押されもせぬ名画として知られているのでしょう? 山田さんは、『モナ・リザ』がスフマートの極致だからだと指摘しています。スフマートとは、油絵の具を何度も塗り重ね、あたかも写真のような輪郭線のないグラデーションを作る技法を指します。

『モナ・リザ』はダ・ヴィンチの存命中に売れなかったが故に、彼の手元で20回以上も修正を加えられ、結果的に究極のスフマートが実現されたということなのです。ほとんど、ダ・ヴィンチの趣味の域ではないかと思うのですが……。

美少女の群にハゲオヤジを混入させるドガ

画面中央右寄りにハゲオヤジが

モネをはじめとする印象派の中でも、とりわけ異彩を放っているのがエドガー・ドガ。ドガといえば、当時新たな芸術として急成長していた、バレエの踊り子達を主題とした絵を多く残していることで知られています。

ドガは富裕層の出身で、名門大学の法学部に現役合格したエリート中のエリート。ところが、何の因果か、そんな「ボンボン画家」の作品にはこの上ない「ヘンタイ」性が見え隠れしているのです。

そのひとつが、美しいバレリーナとともに描かれるハゲオヤジ。よくよくドガの作品を見て見ると、演出家として、また音楽家としてハゲオヤジが群衆の中に紛れ込んでいます。あっちにもこっちにも、ハゲオヤジ。

なぜわざわざハゲオヤジを添えるかというと、「薄汚いオヤジとの対比で少女達の純潔性が強調され、エロティシズムが増すから」だと『ヘンタイ美術館』の中では説明されています。

しかも、この手法はルネサンス時代の宗教画に既に利用されていたものだそうで、制約の中、エロティシズムを表現したいという画家達の執念はいかばかりか……。

絵画を身近に感じる一助に

画家の人間性という、一風変わった視点から絵画史を読み解く『ヘンタイ美術館』。読了後に展覧会へと足を運べば、雲の上の存在の如き画家達が、身近に感じられるのではないでしょうか。

(小泉ちはる)