韓国・ソウルにある日本大使館前に建てられた、慰安婦を象徴する少女像

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日韓両政府が、慰安婦問題で合意した――。

昨年12月28日、岸田文雄外相と韓国の尹炳世(ユンビョンセ)外相がソウルで会談。終了後に開催した共同記者会見で両氏は慰安婦問題について「最終的かつ不可逆的に解決されることを確認する」「国際社会で互いに非難・批判することは控える」と強調した。

さらに岸田外相は元慰安婦の人道支援として10億円を日本政府から拠出することを表明。一方の尹氏は、日本政府が撤去を求めているソウル・日本大使館前に建てられた慰安婦を表す少女像について「適切に解決されるよう努力する」と語った。

その後、安倍首相は朴槿恵(パククネ)大統領と約15分間、電話会談し、「心からおわびと反省の気持ちを表明する」と伝えると、朴氏は「慰安婦被害者の名誉と尊厳を回復し、心の傷を癒やすことにつながる」と返したという。

かくして、“最終解決”に至ったとされる慰安婦問題。だが、日韓の国民の受け止め方にはかなりの温度差がある。

少女像がある韓国・ソウル中心部の日本大使館前では、昨年末から日韓合意に反発する学生らが座り込みを継続。12月30日には30人の学生が日本大使館が入るビルに突入するなど抗議活動が過熱化し、逮捕者が出る事態にまで発展していた。

そして年も明けた1月6日、合意破棄を求める大規模デモが開催されると聞きつけ、韓国・ソウルへと飛ぶと――。

同日、日本大使館前に着いたのは朝10時、気温は氷点下0度。すでに数人の大学生が毛布にくるまりながら少女像の脇に座り込んでいる。日本政府が求める少女像の撤去について韓国政府が「努力する」と表明したため、それを阻もうと1月2日から座り込み、訪れる市民には少女像建立の経緯を解説していたのだ。

男子学生のひとりがこう話す。「被害者の気持ちを全く無視して、日韓政府だけで決めるのは間違っている。おばあさん(元従軍慰安婦)たちはお金が欲しいのではありません」

隣にいた女子学生が続けて、「少女像にはおばあさん(元従軍慰安婦)たちが故国に帰ってきてからも後ろ指をさされ、差別され続けてきた歴史が込められています。私たち自身、おばあさんたちの気持ちや立場について全く気にも留めていなかったことが悔やまれます」

また、別の女子学生は「自分の身に起こったことではないけれど、だからといって見過ごすことはできません」と唇を震わせながら語った。



意外にも、反対集会に参加した若者の中には慰安婦問題についてこれまで無関心だったという人が数多かった。それが、日韓合意を契機に慰安婦の内情を知り、それまでの自分を深く恥じつつ行動に移し、デモの輪を広げていく。一見、安保法案に反対していたSEALsに通じるものがあるようにも思える。

取材を進めているうちに、日本大使館前に集う反対集会参加者の数はみるみると膨れ上がっていった。高校生、大学生、子供連れの母親、元慰安婦の女性…。気がつくと会場には老若男女約1千人の参加者が集まり、その周囲を警官が取り囲んでいた。

そして、元慰安婦の女性が反対集会の壇上に上がり、こう述べるのだった。

「安倍総理は敵だ。殺したいほど憎いが、たった一度でいいから少女像の前で、『申し訳なかった』と言ってくれたら、安倍総理の良心が見えるし、ほんの少しでも心が休まる。私たちは残り少なくなったが、安倍総理が少女像の前で謝るまで、天国に行ったハルモニ(=元慰安婦)たちの分まで戦う」

日韓合意を受け、安倍首相は「これをもって日韓関係が未来志向の新時代に入ることを確信している」と述べたが、反対集会の会場では「謝るならここに来て謝れ」「お金で解決しようとするなんて許せるはずがない」と、韓国国民の辛らつな声が響き続けた。

両国政府間でも、合意後に少女像の撤去について岸田外相が「適切に移設されるものと認識している」と発言すると、韓国外務省は「民間が自発的に設置したもので、政府がどうこうできる事案ではない」と、こうした市民の反発を意識してか反論。合意内容を巡り、早くもズレが生じている。

慰安婦問題の“最終解決”にはまだまだ程遠いようだが…。一方、こうしたデモに関わる韓国の若者たちの感情論には多分に偏って植え付けられた背景があるという。さらに、国民不在の場で合意を“強行”した日韓両政府の思惑とは?

●この続き、後編は明日配信予定!

(取材・撮影/冨田きよむ)