アメリカでは不治のがん患者中の約3分の1が現役で仕事を続けている(shutterstock.com)

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 アメリカには、推定約480万人のがん患者がいる。この推定人口には、当然、余命が限られた不治(=治癒不能)の患者も含まれている。だが、その治癒不能のがん患者のうち、「どれくらいの人たちが現役で仕事を続けているか?」という詳細な統計となると、皆無に等しかった。

 実際はどうなのか? 『Cancar(オンライン版)』(12月21日号)に発表された研究報告によれば、その数は「不治のがん患者中の約3分の1」という実態が初めて判明した。

 注目の研究は、「乳がん」「前立腺がん」「大腸がん」「肺がん」のいずれかの治療を受けている3000人以上の患者を追跡調査したデータを分析した。次いで「がんの転移のある労働年齢(=働き盛り)の患者668人」に着目して分析を進めていくと、668人中236人(35%)が「フルタイムないしはパートタイムで仕事を続けている」との興味深い結果が得られた。

仕事を辞めるか続けるかの判断基準は?

 今回の研究では「(該当患者たちが)仕事を続けている理由」にまでは踏み込んでいない。しかし、統計解析から「(闘病と)仕事の両立を決断する際の判断材料は何か?」については、果敢な患者たちの本音が読み取れたと報告者は記している。患者本人が両立生活を選択する際の優先基準は、〈自らのがんの種類〉でも〈抱える転移巣の数〉でも〈個別の治療の種類〉や〈罹患期間〉でもなく、〈症状の重さ(次第)に応じて〉が首位回答だった。

 研究を率いた、米ウィスコンシン大学公衆衛生学部のAmye Tevaarwerk氏は、この結果に関して次のように語っている。

 「限られた余命を治療に専念すべきか、それとも仕事を続けるべきか......。患者たちは悩みつつも結局、決断を下す因子は、"症状の如何"だという傾向が分かった。たとえば、疲労感や眠気、記憶障害や知覚麻痺とか、その"症状の度合い"が両立か仕事を辞めるかの判断に最も影響を与えているという事実が把握できた」
 
限られた余命で彼らが望むもの

 もちろん、患者が働く(働かざるを得ない)理由は、各人各様だ。医療保険制度が複雑な米国では、闘病と仕事の両立生活を選ばざるを得ない患者の経済的事情も想像に難くない。

 しかし、前出のTevaarwerk氏は、自身が担当した患者たちの事例からも、先の回答結果に納得を示す。

 「確かに収入面や医療保険の必要性から働き続けるという選択肢を取る患者もたくさんいるだろう。だが、何らかの社会的サポートや病気を忘れさせてくれるもの、あるいはこれまでと変わらない日常感とかを求めて、仕事を続ける方々も多いと思う」

 米国がん協会(American Cancer Society ; ACS)のCorinne Leach氏も異口同音でこう語る。

 「働き続けるのは経済面に限らず、患者のアイデンティティや活動力においても有用だ。もちろん、仕事を辞めて家族と過ごしたり旅行したりする人もいるが、仕事を通じて何らかの問題に取り組んだり、社会との繋がりを持ち続ければ生きる活力を回復できる人も現実にいる」。

 そして、患者の本音を汲み上げた今回の結果を踏まえて、「仕事を続けたい患者のために医師にできることは多いはず」「医師は率直に話し合い、患者が望めば仕事の継続を支えるべく積極的な症状の管理を行なうべきである」と、報告書は結論している。

日本では「全国がん登録制度」がやっと今月から開始

 一方、昨年1年間で約98万人の国内がん患者が増えた(=国立がん研究センターの推計)とされる日本。政府のがん対策推進基本計画は「2007年度から10年後の2017年度までに75歳未満の死亡率を20%減少させる」と目標を掲げた。

 だが、現況では「17%減少で止まるのでは......」と専門筋は達成不可を予測。そこで昨年、新たな3本の柱〈予防〉〈治療・研究〉〈がんとの共生〉を謳う『がん対策加速化プラン』も打ち立てた。

〈がんとの共生〉では、治療のために仕事を辞めざるを得ない実態下、「がん患者の就労支援や治療に伴う副作用の軽減を目指す」と掲げているが......。国が、がん患者の個人情報や治療歴、生存率をデータベース化して一元管理する『全国がん登録制度』を開始するのはようやく今月から。国内患者数の把握さえこれからという現状では、就労支援への道程はまだまだほど遠い。
(文=編集部)