「今後もなでしこが輝き続けるためには結果が必要。そういうのは後輩に伝えてきたつもりです」――澤穂希――


 なでしこジャパンはもとより、日テレ・ベレーザ、INAC神戸レオネッサと、澤と所属をともにし、最も身近でその存在を感じていたのは大野忍ではないだろうか。ポジションも近く、若き大野にゴールを決めさせようと、お膳立てする澤を見ることはよくある光景だった。

 澤のこだわる"結果"に直結するプレーをするFWは、ゴールを決めることが自信につながっていく。澤は大野にゴールをもたらすことで成長を促していた。のちに大野は、持ち前のテクニックに磨きをかけ、小さいながらも世界に通用するエースへと成長していく。

 2011年、脚光を浴びたドイツワールドカップ。サイドハーフで起用された大野は、慣れないポジションとFWのプライドの狭間で悩み続けた。その間、大野の苦しみを半分背負ったのが澤だった。ムードメーカーである大野が涙を見せられる、すべてをさらけ出せる存在が澤だったのだ。

 ここ1、2年のINACでの澤は、自ら守備に回り、「苦しくなったら自分にボールを預けてくれればいいから」と、攻撃の組み立てや、ゴール前への走り出しといったボールに触る機会の多くを若手にゆだねるようになった。若手に"結果"を感じさせるためだ。そんな最近の澤が守備のスペシャリストであることは承知の上で、大野が澤に言い続けてきたことがある。

――「守備的にならないで」

 それは大野の中ににじみ出てきた願いに近いものだった。チームのためを思い、自ら引いて若手を成長させようとする澤の姿に、大野は自分を納得させることができなかった。

「澤穂希でい続けるためには、『そうじゃない!』ってずっと思ってた。バンバン点が取れるのが澤穂希なんだから。ゴールを決めるには、自分の近くにホマ(澤)がいた方がいいし、相手も絶対にイヤだからって言い続けた。攻撃に対するモチベーションを上げて欲しかった」

 あくまでも"攻撃人"であって欲しいという大野。そんな願いを叶えるように最後の試合となった皇后杯決勝で澤はゴールにこだわるプレーを見せた。澤のゴールの瞬間、満面の笑顔で駆け寄った大野。ただのゴールではない。試合を決定づけるゴールを決めるのが澤穂希。そんな澤のゴールを誰よりも待ち望んでいたのは大野だったのかもしれない。

 決して雄弁に語ることのない澤が見せ続けた背中は、とてつもなく大きなものだった。それは決して華やかな成功ばかりの道ではなく、むしろ厳しい茨の道だったからこそ、大きく感じられた。もがきながら走り続けた澤が残したメッセージをどんな形でピッチに描くのか。大野が見せる今後のプレーがそれを証明してくれるはずだ。

(おわり)

早草紀子●取材・文 text by Hayakusa Noriko