いよいよ本日、1月10日、第1話が放送されるNHK大河ドラマ「真田丸」
真田丸とは真田幸村(信繁)のつくった砦の名前。戦国時代の終わり、信州の小国の領主の次男に生まれた真田信繁は、武田、武田、上杉、北条、織田、徳川、豊臣と仕える人物を変えながら生き延びてきて、豊臣のもと、最後まで巨大権力・徳川に対抗して散った悲劇のヒーローとして、長く愛されてきた。それだけに「真田丸」への期待も大きい。


「歴史は勝った人の話でしょう。負けた人の真実は残らない。だからドラマがあるのかな」

2015年の暮れ、三谷幸喜作、大河ドラマ「真田丸」の番宣で、主演の堺雅人はこのようなことを言った。
その聡明な発言に震えた。

芸能界きっての知性派・堺雅人が、戦国の知将・真田信繁を演じるのだから、ピッタリである。
ドラマ放送開始に当たって行われた堺への合同インタビューでも、じつに理知的に、三谷幸喜が描く「真田丸」を分析していて、雷に打たれたような気持ちに。俳優が主演作をこれほどまでにきちっと語れるのなら、もはや評論家は要らないと思うほどだ。
ここでは、今後、1年間放送される「真田丸」の予習に、堺の冴えた発言をピックアップしてみた。


真田信繁を表すキーワードは「物ごと柔和忍辱にして強しからず」


 真田信繁のことを兄・信幸(大泉洋)が表した言葉に「物ごと柔和忍辱(にんにく)にして強(こわ)しからず。言葉少なにして怒り腹立つことなかりし」というものがあって、それが信繁を演じるキーワードになっています。
優しくて、いつもニコニコしていて、口数もそんなに多くなく、怒りを表に出すこともあまりない。そんな人だから、一見とらえどころがないけれど、実は心に秘めた何かがあるのではないでしょうか。
信繁には、「真田十勇士」という有名な物語があって、信繁と忍者が関連づけて認識されることも多いです。奇しくもこの「物ごと柔和忍辱にして強しからず」の言葉の中にも「忍」の文字が入っています。ここで言う「忍」とは裏方にまわって実務に徹するということなのではないかと思うんです。まっすぐな兄・信幸(大泉洋)を社長としたら、信繁は秘書として支えていくというイメージを抱いています。

スーツを鎧に着替えた男


ゲームの影響なのか、筋肉隆々で強靭な真田幸村のイメージが一般化しているようですが、幸村こと信繁は知将です。非常に面白いのは、49年にわたる人生のうち、47年間は、裏方というか2番手、3番手の知将として生きてきた人間・信繁が、晩年の2年間のみ、武将になることです。いわば、普通のサラリーマンだった男が突如スーツを脱ぎ、鎧に着替えて戦場に出て行くようなもの。では、なにが彼をそうさせたのか。それを三谷幸喜さんが1年間かけて描くのではないかと想像しています。
ただ、最初の頃、青春期の信繁は、好奇心旺盛な若者として描かれています。

父・昌幸、兄・信幸、弟・信繁の役割


死ぬことによって名を残した信繁と、生きることにすごくこだわった信幸。この兄弟は対照的な存在です。そして、生きるために意見をころころ変えながら生き続けた、まるで清濁併せ呑むような昌幸。真田の父子を表すと、こういうふうではないかと思っています。

三谷幸喜作品の魅力1 裏方を描く


三谷幸喜作品には、裏で実務に徹する人を描いた名作がたくさんあります。ラジオドラマのスタッフを描いた映画「ラヂオの時間」やホテルの従業員さんを描いた映画「THE有頂天ホテル」など、日の当たらないところにいる人たちを活き活きと描いてきた三谷幸喜さんが描く戦国の実務者・真田信繁の姿は、かなり面白いものになると思います。

三谷幸喜作品の魅力2 大河を遊ぶ


大河ドラマという極めて重厚な空気を逆手にとって遊んでいる、確信犯的なところが三谷さんはちょっとあるような気がしているんです。そのひとつの例が、信繁の父・昌幸(草刈正雄)。前日に言ったことを翌日には取り消すようなことを平気でする昌幸は、状況が即座に変わる戦乱の時代をしたたかに生き抜いていく人物そのものです。演じる草刈さんが、大真面目な顔で、三谷さんの書いた面白い台詞を言うので、どこまで本気でどこまで冗談かわからなくなり、それこそが三谷さんの狙いのひとつなのではないかと感じています。

大坂に真田の人気の秘密が


信繁──真田幸村がこれほどまでに人気があった理由に、僕自身すごく興味があります。「真田幸村」という名前を有名にしたとも言われる「難波戦記」という軍記物が、大坂の陣の直後、幕府の禁制を逃れながら本や講談として人気を博したそうですが、最後の2年、信繁が仕えた豊臣の領地・大坂での、彼の姿が描かれた時、はじめてその魅力の全貌がわかるような気がしています。(関連レビュー)


信濃に見る信繁の人間性


信繁を演じるにあたり、ゆかりの地を旅しました。信濃を歩くと、盆地ごとに風景が違うところが素敵でした。信濃は日本の東と西のほぼ真ん中に位置し、列強各国の中のある意味緩衝地帯でもあったんでしょうね。だからこそ、ひとつの価値観によって中央集権国家をつくるのではなく、その土地、その土地の多様な個性を尊重していたのかなと考えた時、「真田丸」とは、後にできる徳川による江戸幕府という統一した価値観に、日本が染められる直前の物語であり、信繁の死は、その多様性の死のようにも思えました。

個性豊かな戦国大名たち


武田、上杉、北条、織田、徳川、豊臣・・・と様々な大名たちが登場します。皆、それぞれテンションが違っていて、同じドラマに思えないほどで(笑)、むしろ、そのバラバラなところが面白いです。

三谷幸喜作品の魅力3 天正壬午の乱を3話かけて描く視点の妙


歴史劇を描く時、たいていは史実をなぞりますから、俳優も、あらかじめ、勝者は勝者の顔をし、敗者は敗者のような顔をして演技をしてしまいがちです。実際のところは、一寸先は闇で、先のことはわかりません。三谷幸喜さんは、そのわからない“闇”を見つめる作家です。例えば、織田信長が本能寺の変で死んだ後、「天正壬午の乱」という戦いが起ります。でもそれは敗戦処理みたいなもので、たいていの映画やドラマでは1話もかけずに済まされてしまう。でも、三谷さんはそこに3話もかけているんですよ。その戦いが実に面白くて、僕ら俳優も、歴史をわかったふりをせず、その瞬間、瞬間、何が起るかわからないように生き生きと演じていきたいと思わされました。

三谷幸喜作品の魅力4 集団がつくり出すうねり


僕が参加している三谷さんの作品は、舞台「恐れを知らぬ川上音二郎一座」、大河ドラマ「新選組!」とグループ名がタイトルになっています。今回の「真田丸」は一艘の船に見立てた砦の名前ではありますが、突き詰めると、そこに集う家族や仲間の話ですから、グループ名と言っても過言ではありません。こういったタイトルに象徴されるように、三谷さんの作品は、誰かひとりの人物を描くよりも、ひとりひとりが集まった時に物事が思いもよらない方向に動くところをじつに面白く描く。今回も、集団による大きなうねりが描かれるのではないでしょうか。

三谷幸喜作品の魅力5 敗者を描く


大河ドラマ「新選組!」も敗者を描いたドラマでしたし、映画「清須会議」も織田の時代の終わりを描いた映画です。信繁も敗者です。と言って、敗者の美学を描くというのともちょっと違うような気がしていて。うまく言えませんが、敗者がどう戦い、どう生きたか、徹底的に丁寧に描かれるのではないかという気がしています。まだ台本がすべて完成しているわけではないので、三谷さんが1年をかけて、どういうふうに「真田丸」を描ききるのか、僕自身、楽しみにしています。


NHK 大河ドラマ 真田丸  
作 三谷幸喜
放送 毎週日曜 総合テレビ午後8時 BS プレミアム 午後6時

第1回は1月10日スタート


[堺雅人プロフィール]
さかい・まさと●1973年生まれ。宮崎県出身。早稲田大学在学中、劇団・東京オレンジの看板俳優として活動、注目を浴び、テレビドラマ、映画、演劇と幅広く活躍する。主な出演作に、ドラマ、連続テレビ小説「オードリー」、大河ドラマ「新選組!」「篤姫」、「リーガル・ハイ」シリーズ、「半沢直樹」、「Dr.倫太郎」、映画「南極料理人」、「武士の家計簿」、「鍵泥棒のメソッド」、「その夜の侍」、「大奥〜永遠[右衛門佐・綱吉編]」、舞台「恐れを知らぬ川上音二郎一座」、「蛮幽鬼」など多数がある。