戸籍上の性別は変更できるの? 「性同一性障害特例法」とは

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2015年11月、性同一性障害を持つ経済産業省の職員が、「戸籍上は男性であること」により女子トイレの使用を禁じられたことや、人事上の不利益を被ったことを理由に、国に処遇改善と損害賠償を求める訴えを東京地方裁判所に起こしたことが話題となりました。LGBT・性的マイノリティの当事者が職場での処遇改善を求めた訴訟はこれが全国で初めてとのことですが、この裁判の背景には、体の性や戸籍上の性別と「心の性」に違いのある性同一性障害・トランスジェンダーといわれる人々をめぐる法制度や生活環境の問題があるといえます。

「戸籍上の性別」を変えない限り…


上記の訴訟をおこしたAさん(仮名)は、戸籍上の性別は男性ですが、心は女性であり、経産省に入省した後の1998年ごろに性同一性障害との診断を受けました。診断後は、ホルモン治療や女性の容姿に近づけるための手術を重ねたAさんは、2009年には職場で女性として処遇されるように求めています。Aさんは現在では名前も女性的なものに変更しており、初対面の人には女性と認識されるようになっているとのこと。

一方、Aさんから女性としての処遇を求められた経産省側は、女性の服装や休憩室の使用は許可したものの、原則として女子トイレの使用は認めませんでした。
また、経産省側はAさんに対して、「戸籍上の性別を女性に変えるか、異動ごとに職場で性同一性障害を公表して同僚の理解を得るか」しない限り女子トイレの使用は認められないという原則を示したとのことです。

性同一性障害特例法とは


日本における戸籍上の性別変更は、2004年に施行された「性同一性障害者の性別の取扱いの特例に関する法律(性同一性障害特例法)」によって認められるようになりましたが、性別を変更するには、性同一性障害と診断されていることのほかに、「20歳以上であること」「婚姻していないこと」「未成年の子どもがいないこと」などの6つの条件を満たしていなければなりません。なかでも当事者にとって厳しいといわれているのが、下記の2つの条件です。

・生殖腺がないこと、または生殖腺の機能を永続的に欠く状態にあること
・他の性別の性器の部分に近似する外観を備えていること

これらの条件を満たすためには、睾丸や卵巣、子宮などを摘出する「性別適合手術」を受けなければなりませんが、手術には高額な費用がかかる上に、身体的な負担も大きいことから、これらの条件について「基本的人権の侵害」とする批判もあります。

トイレ・更衣室・浴場などの問題


Aさんは皮膚疾患から性別適合手術が受けられなかったとのことですが、その後上司からは「手術を受けないなら男に戻ってはどうか」と言われたり、新しい職場で性同一性障害を公表することを避けるために異動希望を出せなくなったりしたため、うつ病を患い休職したという経緯があります。

また、Aさんとは逆に「体は女性、心は男性」という性同一性障害の人の場合は、男性が立ち並ぶ男子トイレに入るのには抵抗があり、かといって男性の容姿で女子トイレに入るのも難しいというケースもあります。

こうした問題に対処するため、東京・三鷹市にある国際基督教大学では、2003年に性同一性障害の学生に学籍簿上の名前と性別の変更を認めるなど、LGBT・性的マイノリティへの対応がいち早く進められてきました。来年4月にオープンする同大学の学生寮には、個室のシャワーブースや更衣室が設けられる予定であり、これらは大浴場や更衣室でみんなと一緒に着替えたり服を脱いだりすることに抵抗のある人たちへの配慮といえるでしょう。

性についての多様化・細分化が進む現代の社会においては、性別についてもさまざまな立場の人が存在しており、それに伴い、戸籍や名簿からトイレや浴場にいたるまで当事者以外に理解されにくいさまざまな困難を強いられる場面があります。職場や学校という公共の場においては、性的少数者といわれる人々の立場を理解し学習していくことで、ひとつひとつの問題に対処していく必要があるでしょう。

<参考>
http://digital.asahi.com/articles/ASHBY00QNHBXUUPI002.html?rm=1038
(「女性トイレ禁止は差別」提訴へ 朝日新聞デジタル)