女王イ・ボミ、栄光への軌跡(3)

 2015年シーズン、日本女子ツアーを席巻し、悲願の賞金女王の座についたイ・ボミ。実は、彼女には他にも、叶えたい小さな夢があった。

「日本の人に応援してもらうこと」だ。イ・ボミが語る。

「当然のことなのかもしれないけど、来日当初は、外国人である私のバーディーよりも、地元の日本人選手のパーのほうが拍手が大きかったんですね。それで、ちょっと悲しい気持ちになったことがあったんです。私は日本が好きだし、日本ツアーの一員としてがんばっていこうと思っていたので、できれば、日本のみなさんにも応援してもらいたかった。それで、そんな夢を持っていたんですが、私が結果を残していくたびに、その夢はだんだんと叶っていきました。そして今では、本当にたくさんの方々が私を応援してくれています。こんな幸せなことはありません」

 イ・ボミは、常々「日本が大好き」だと言う。改めて、その思いを尋ねてみると、彼女からはこんな答えが返ってきた。

「私は、確かに日本が大好きです。でも、それを『なぜ?』と聞かれると、好きなところがたくさんあり過ぎて、どう答えていいかわかりません。とにかく、応援してくれるファンのためにも、これからも日本ツアーでがんばっていきたい。その気持ちに変わりはありません」

 それから彼女は、ひと呼吸置いて、こう続けた。

「実は最近、日韓の関係についての質問をよくされるようになったんです。両国の関係は、本当に難しい問題......。私は韓国人ですが、日本が大好きです。でも、日本についての話をしたら、それが韓国で違った形で話題になったり、ときに大きなニュースになったりして、どうしようって思っています。それに対してどう対処したらいいのか......そんなことを考えることが最近多くなってしまったんです」

 日本と韓国の間には、さまざまな政治的な問題が横たわっている。スポーツと政治は関係ないとはいえ、イ・ボミは今や日本でも影響力のある韓国人だからこそ、そうした質問がメディアから出てくる。彼女は、それは仕方がないことだと受け止めているが、その回答には窮している。両国の間で問題が生じるたびに、彼女は心を痛めているのだ。

 また、大好きな日本でプレーし、もっと日本語で自分の思いを伝えたいと、イ・ボミは思っている。そのため、インタビューでも積極的に日本語で答えてきたが、それによって、意図しない情報が流されたことがあった。地元・韓国にも本意とは違う内容で報道され、そうした誤解が生まれぬよう、一時警戒心を強めて、発言を控えることがあった。

 その際も、イ・ボミは思い悩んだが、それについては、だいぶ気持ちも吹っ切れたようだ。ひとつ言えることは、彼女は日本も韓国も大好きだということ。そして、その両国が仲良くしてほしい、と強く願っていることだ。

「今、日本と韓国との政治的な関係はいいとは言えません。でも、韓国にも日本が好きな人はいますし、日本にも韓国が好きな人がいます。私も両国が大好きですから、私が日本でがんばることで、韓国に対するイメージがよくなってくれればいいな、と思っています。

 韓国のファンは、日本の試合を見たときに、『日本のイ・ボミファンは、本当に情熱的。それでいて、マナーがよくて、素晴らしい』と言って驚いています。こうして、韓国人の人たちが日本のことをよく思って、日本人の方々も韓国のことをよく思ってくれれば、もっと両国の距離は縮まると思います」

 距離は近く、文化的にも似ている部分がある日本と韓国。しかし、イ・ボミにとってみれば、日本は土地勘もなく、言葉もまったく通じない外国だ。そこで、成功を勝ち取るための努力は、想像に及ばない。それも、結果だけでなく、人々のハートまでつかんだのだから、単なる"努力"だけでは片付けられないものがそこにはあったはずだ。

 そうして、メディアの扱いも韓国人スポーツ選手としての枠を超えた。ゴルフ雑誌に限らず、一般誌の表紙を飾ることもあった。著書も発売され、写真集の発売も控えているという。2016年、今年もイ・ボミ人気はますます高まることになりさそうだ。

 さて、気になるのは、冒頭、今回の特集の1回目で記した、イ・ボミの新たな目標である。イ・ボミは、力強くこう語った。

「昨季、賞金女王と賞金2億円突破という素晴らしい結果を残すことができました。それを再び実現することも困難だと思いますが、それ以上の目標が何かないか考えたとき、頭に浮かんだのは、リオデジャネイロ五輪に出場することでした。それには、米ツアーのメジャー大会でいい成績を残して、世界ランキングを上げなければいけません。難しい目標ですが、そのためにも、今季は海外メジャーの優勝を目指してがんばりたいと思います」

 韓国女子ゴルフの五輪出場枠は、世界ランキング上位4名。世界ランキング上位に最も多くの選手が名を連ねる韓国人プレーヤーにとって、その争いは世界で一番熾烈だ。現在同ランキング15位のイ・ボミは、上から8番目の選手。決して簡単なことではない。

 だが、イ・ボミはその熾烈な争いに挑むという。日本ツアーをベースにしながら、今春は海外メジャーに積極的に参戦し、五輪出場のために頂点を狙う。

 さらなる高みを目指して、決意を新たにしたイ・ボミ。年明け早々には始動し、1月中旬にはアメリカのパームスプリングスで合宿を実施するという。2015年シーズン、日本女子ゴルフ界を席巻したヒロインは、いよいよ今年、"世界のヒロイン"を目指すことになる――。

text by Kim Myung-Wook