死亡推定時刻は?(shutterstock.com)

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 検視官が検視や司法解剖しても、犯人逮捕の有力な手がかりになる死亡推定時刻がはっきりしない時がある。

 死亡推定時刻は、なぜ重要なのか? 人間が死を迎えると、身体に死体現象が少しずつ現れる。検視や司法解剖は、死体現象がどの程度まで進んでいるのかを分析し、死亡時刻を逆算して推定する鑑定法だ。

 死体現象は、早期と晩期に分かれる。

 まず、早期。残留体温は、毎時1℃ずつ低下し、死後10時間以降は0.5℃ずつ低下。やがて外気温や室温と同じになる。乾燥は、口内、口唇、陰部などの薄い粘膜部から始まり、次第に全身は黄褐色に変色する。目は閉じた状態なら死後6〜7時間で白濁し始め、24時間以降は強く濁る。開いた状態なら死後約1時間後から濁り始める。重力によって血液が身体の下部に沈滞する死斑(紫斑)は、死後約30分で現れ、2〜3時間後にはっきりと浮き上がり、8〜12時間で全身に広がる。一般的な紫斑の色は、暗赤紫色だが、一酸化中毒や青酸中毒なら鮮紅色、凍死なら紅色、腐敗死体なら緑青色、亜硝酸ソーダ中毒なら灰褐色を呈する。 死後硬直は、死後約2時間後に始まり、10〜12時間後に最も強く硬直する。顔面、顎、胸部、上肢、下肢の順に硬化していく。

 晩期は、身体内の酵素が活性化する融解から始まる。融解は、酵素の働きによって皮膚や臓器が軟化し、死後硬直が解ける現象だ。次に、腸内の腐敗菌が繁殖して腐敗が徐々に進む。腐敗ガスは、高温多湿ならば、死後24時以内に発生。全身が膨張し、悪臭を伴うように変質する。この時点で水中から死体が浮かび上がることがある。いわゆる、土左衛門(どざえもん)だ。死体は、地上なら1年、水中なら2年、地中なら5〜8年で白骨化に至る。

死亡推定時刻が正確に分かれば、犯罪捜査が一気に進む

 このように死体現象は、早期から晩期に向かって不可逆的に進むので、死体の現況を検視すれば、死亡した時刻や日時を高い確率で推定できる。死亡推定時刻が正確に分かれば、目撃情報を集めたり、容疑者のアリバイを調べたりして、犯罪捜査が一気に進む。死体現象は、死者が科学捜査に託し声なき遺言なのかもしれない。

 だが、死んでも腐敗しない死体がある。ミイラや死蝋(しろう)だ。4000年前のミイラ「桜蘭(おうらん)の美女」、奥州藤原氏3代のミイラ、1920年に亡くなったロザリア・ロンバルドの「世界一美しい死蝋」などは、よく知られている。

 ミイラは、急激な乾燥によって自然に腐敗が止まった永久死体、死蝋は、通気性がなく湿潤な環境で保存されたために、腐敗菌が繁殖せず死体が蝋のように変化した永久死体だ。ミイラや死蝋を長期間にわたって保存する環境を維持することは簡単ではないといわれている。


佐藤博(さとう・ひろし)
大阪生まれ・育ちのジャーナリスト、プランナー、コピーライター、ルポライター、コラムニスト、翻訳者。同志社大学法学部法律学科卒業後、広告エージェンシー、広告企画プロダクションに勤務。1983年にダジュール・コーポレーションを設立。マーケティング・広告・出版・編集・広報に軸足をおき、起業家、経営者、各界の著名人、市井の市民をインタビューしながら、全国で取材活動中。医療従事者、セラピストなどの取材、エビデンスに基づいたデータ・学術論文の調査・研究・翻訳にも積極的に携わっている。