リオ五輪を目指す日の丸戦士(3)

 その言葉は、リオ五輪アジア最終予選に向けた決意表明であり、2年弱にわたる葛藤から解放されたことの証明でもあった。

「最初のプレーで、スライディングでもかましてやろうと思っているんです」

 これまでにも、テクニカルで小柄な彼が「ヘディングで競り負けるのも悔しい」と口にするのを聞いたことがあるし、クラブの大先輩について「やっぱり(中村)憲剛さんはすごいです」と言いながら、「憲剛さんにも負けたくないんです」と言うのを耳にしたこともある。

 普段はおっとりしているが、内には熱いものを秘めた選手――。そう理解していたつもりだったが、それでも"パスサッカーの申し子"のような彼がファーストプレーで身体を張るという決意を固め、それを口にしたことに驚かされた。

 ボールを保持して主導権を握り、相手を攻略していく川崎フロンターレにおいて、大島僚太は中村憲剛と並んで欠かせぬ中盤の軸である。技術に対してシビアな目を持つ風間八宏監督からも高く評価され、大きな期待を寄せられている。手倉森誠監督率いるU−22日本代表においても絶対的なレギュラーで、ボランチでコンビを組む遠藤航(湘南ベルマーレ)とともに、「チームの2枚看板」だと言っていい。

 もっとも、川崎で放つほどの存在感をU−22日本代表でも放ってきたわけではない。チームとして大事にすべきことが川崎とU−22日本代表とでは異なっていて、そのギャップにこれまでの大島は悩んできたようなところがあった。

 来年1月に行なわれる最終予選は、慣れない気候、劣悪なピッチが待ち受ける中東・カタールでの一発勝負。この過酷な予選を勝ち抜くために、手倉森監督は「まずは失点しない」ことを重視し、高い守備意識と粘り強さをチームにしっかりと植え付けてきた。

 もちろん、だからといって、攻撃をないがしろにしてきたわけではない。少しずつではあるが、攻撃の形作りにも着手し、大島に対しても、こんな期待を口にしている。

「ボールを握ることについて、僚太にはものすごい自信と知識がある。攻撃のバリエーションを付けるうえで、自分の考えをチームに積極的に落とし込んでいってほしいと思っている」

 大島もその期待に応えようとしてきたが、川崎で披露しているように絶え間なくボールを出し入れし、相手を攻略していくパスワークは、受け手や周りのサポートなくして成り立たない。選手全員の意識を揃え、ボールを保持することへの絶対的な自信を手に入れるには、代表チームの活動機会はあまりにも少ない。

「守備はかなり良くなってきていると思います。でも、攻撃に関してはイメージにバラツキがあって、まだまだですね」

 大島がそんな胸の内を明かしたのは、10月の佐賀合宿でのことだった。

 その後も合宿、練習試合、親善試合が重ねられ、速攻の鋭さ、精度は増してきた。だが、ディフェンスラインからパスをつなぎ、ボールを保持することに対しての不安を残したまま最終予選の開幕が迫るなか、大島はきっぱりと言った。

「遅くなりましたけど、ようやく吹っ切れたというか。これまで記者の人に『つなぎたいんじゃないですか』って聞かれると、『つなぎたいですよ』って答えていて、自分でも『やっぱりつなぎたいんだな』って思ったし、スタッフにも『もっとつないでいいんじゃない?』って言われて、『あ、いいんだ』って。でも、『本当にいいの?』って感じで、なかなか力を出せなくて。でも、ここまで来たら、中途半端が一番良くないなって」

 チームとしてつなぐ、つながないにかかわらず、攻守にわたって自身のプレーの持つ影響力の大きさを大島は理解している。

「(中島)翔哉とか、(矢島)慎也とか、(原川)力とか、つなぐのがうまい選手もいますけど、みんな僕より前のポジションの選手たち。僕がつながないという姿勢を示せば、みんなも割り切って戦えるんじゃないかって思うんです」

 だから大島は、最初のプレーでタックルをかます自分をイメージしているのだ。

 手倉森ジャパンの活動において、大島の脳裏に深く刻まれているシーンがある――。

 昨年9月、仁川で行なわれたアジア大会の準々決勝。連覇を狙う日本は、ホームの後押しを受ける韓国に攻め込まれながら、粘り強く耐えていた。

 そうして0−0のまま迎えた88分、日本のペナルティエリア内でボールが高く上がる。落下地点をめぐって大島と韓国の選手がポジションを取り合い、大島が飛び上がった瞬間、相手選手はジャンプせず、そのまま大島がのしかかる格好となった。

 そのプレーにファウルの判定が下され、PKを献上。これを決められて、0−1で敗れた。

「あの試合、ものすごくアウェーの雰囲気だったじゃないですか。自分では気づかないうちに力と気持ちが入り過ぎていたのかなって思います」

 連覇を狙っていたチームメイト、連覇を期待してくれていた人たちに申し訳ない気持ちでいっぱいになり、試合後に大島は人知れず涙を流し、自分を責めた。だが、飛び方や飛ぶタイミングを考慮する余地はあっても、飛んだこと自体に後悔はないという。

「飛ばないで、クルッと入れ替わられて中に入られたら、もっとピンチになっていた。競らないほうが消極的だし、躊躇するような場面じゃなかった。あの時間帯、韓国の選手たちがめっちゃシミュレーションしていて、あの場面も誘っていたと思うから、細心の注意を払う必要はありますけど......」

 少し間を置いてから、彼はきっぱりと言った。

「やっぱり、同じシチュエーションでも飛ぶと思います」

 あの韓国戦で味わったのは、苦い思いだけではない。改めて、自分がアウェーで燃えるタイプだということを確認できた。

「スタンドは真っ赤で、ピリピリしていて、雰囲気がめっちゃ良かったんですよね。振り返ってみれば、Jリーグでも埼スタの浦和戦とか、一番燃えますから。だから、最終予選も楽しみなんですよ。北朝鮮、サウジ、タイって、実力が接近しているから、どの試合も厳しい戦いになると思う。だからワクワクする。泥んこ試合じゃないですけど、泥臭い勝利でいいから勝ちたいですね」

 固めた決意のほどは、12月中旬のカタール・UAE遠征で感じ取ることができた。U−22ウズベキスタン戦に先発出場した大島は、相手選手の懐(ふところ)に身体を潜り込ませてボールを奪ったり、パスをインターセプトしたりしてショートカウンターにつなげたばかりでなく、シュートモーションに入った相手選手に激しく身体を寄せてシュートを自由に打たせなかった。

 来るべき決戦に向けて、大島はすでにスイッチを入れたようだった。

飯尾篤史●文 text by Iio Atsushi
photo by AFLO