ヤバい、江戸川乱歩読み放題の時代が来てしまった

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江戸川乱歩が自由に読み放題の時代がやってた。
乱歩作品の著作権保護期間が終了。パブリックドメインとなり、社会の共有財産になった。
ネット上の「青空文庫」には、さっそく江戸川乱歩「二銭銅貨」が共有された。
今後も乱歩作品がどんどん共有されていくだろう。


とはいえ、乱歩は多作で、作品数が多い。
どれから読もうか迷ってしまう。
書きに書いたので、正直なところ駄作も多い。
乱歩傑作群を読んだ後であれば、乱歩らしさや愛着から駄作も味わい深く読めるが、やはり最初は傑作から読んだほうが出会いとしてはスムーズだろう。
そこで、乱歩作品傑作ベスト3を選んでみた。

■『パノラマ島奇談』
乱歩の一部の作品はさすがにツッコまないと楽しめない。
小林少年が仏像に化けたり、ウサギに靴を履かせて足音で人がいるように偽装したり、鏡を使って人がいるように見せたりしちゃうのだ。
だが、馬鹿馬鹿さを遥か超えて想像力で読者をねじ伏せる大傑作が「パノラマ島綺譚」だ。
主人公は、死んだ大金持ちとそっくりな男。名は人見広介。
彼は、墓をあばき、その中に入り、のそのそと墓から出てきて、まだ生きていたのだと主張する。
大金持ちに成り代わってしまうのだ。
そうやって手にした莫大な財産で無人島に築きあげる妖しく荒唐無稽なユートピア。
醍醐味は、主人公が作った理想郷の描写だ。想像力の跳躍があまりにも渾身で、冷静に考えれば「そんなの全然ユートピアじゃないだろ!」ってツッコミまくりなのだが、読んでいるあいだは狂気のドライブ力で、めくるめく夢想の世界に浸ることができる。
着ぐるみの中で女性が手足ばたばたさせて進む白鳥に乗って湖を渡る。周囲では人魚コスプレ美女がダンス。ガラスの屈折によって竜宮城のように魚たちが舞う海底通路。
地上では、複数の女体によって作られた蓮台、人肉花びらに乗って移動。荒唐無稽もいいかげんにしろって感じなのに、乱歩の迫力ある文章で描かれると、ものすごい気がしてくるから不思議だ。
イマジネーション勝負だ、負けるもんかという気持ちになってきてトリップしてくる。読書ハイである。
そして、怖ろしくも美しく悲しいラストシーン、パノラマ島の顛末を読み終えて、はっと現実にもどったときに、自分の理想郷を夢想する恐ろしさを考えさせられるのだ。ぼくのパノラマ島は、どんなふうなのだろう、と。

丸尾末広が漫画化した『パノラマ島綺譚』もオススメ。

■『孤島の鬼』
我を忘れて読むという作品にはめったに出会えないが、『孤島の鬼』はそのうちのひとつだ。
密室殺人からはじまるが、探偵小説の枠を超えて、奇想小説になり、恐怖譚になり、恋愛小説になり、冒険小説にもなる。
そして暗黒青春小説の大傑作でもある。
某雑誌で暗黒青春小説を選出したとき、『孤島の鬼』をベスト1にした。
“四角な壁の中にずっと閉じ込められた十八歳の少女の手記。驚愕のおもしろさを持つ探偵小説のほぼ真ん中に配されたその手記が、ぼくの最も愛する暗黒青春小説”だと記し、手記の一部を引用した。
“それからタコの夢ばかり見ました。ほんとうのタコのかたちを知りませんものですから、小さいわたしのようなかたちのものだとおもって、そのかたちの夢を見ました。そのかたちのものが、たくさんたくさん、海の水の中をあるいている夢を見ました”
暗黒の夢を見ながら、だが青春を生きよ。
 
■『芋虫』
伏せ字だらけで掲載され、戦時中は全編削除を命じられた問題作。
両手両足を失った傷痍軍人の夫を、妻である時子は、“厭な顔を見せるではなく、自分の欲をすっかり捨ててしまって、親切に世話をしている”。
という美談の裏で、時子は、両手両足を失った夫を虐げて快楽を得ているという物語である。
“事実彼女の夫の須永中尉は、ひとかたまりの黄色い肉塊でしかなかった。そして、それは畸形なコマのように、彼女の情欲をそそるものでしかなかった”
そして、ラストの闇。
丸尾末広が漫画化した『芋虫』もオススメ。

ぬあああ。ベスト3では足りぬ。
まだまだいくらでもある。乱歩は傑作もたくさんなので、おいベスト3ならこれだろ、こっちだろ、これが抜けてるぞとお叱りの声もあろう。
#乱歩ベスト3 でツイートして、乱歩フェスティバルにしましょう。

最後に、いま乱歩の本を手にしたい人に2冊オススメしよう。
『日本探偵小説全集〈2〉江戸川乱歩集』『孤島の鬼』だ。
『日本探偵小説全集〈2〉江戸川乱歩集』は、代表作をずらっと収録(「二銭銅貨」「心理試験」「屋根裏の散歩者」「人間椅子」「鏡地獄」「パノラマ島奇談」「陰獣」「芋虫」「押絵と旅する男」「目羅博士」「化人幻戯」「堀越捜査一課長殿」)。
さらに「陰獣」の竹中英太郎による挿絵もアリ。解説は中井英夫だ。
『孤島の鬼』は、竹中英太郎の挿絵が入っている「創元推理文庫ー現代日本推理小説叢書」版を強くオススメする。
(米光一成)