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今回のお題は、日本国内でも就航している旅客機「エアバスA320」の一族である。A320に加えて、短胴型のA319や長胴型のA321があるから、それらを総称すると一族という表記になるわけだ。

なぜか筆者は日本国内では乗ったことがなく、アメリカでだけ乗ったことがある。それも、ワシントンDCのダレス空港からラスベガスのマッカラン空港までという長距離路線で。と、そんな話はともかくとして。

○売り物はハイテク

エアバスA320は、流れとしてはA300シリーズに続いて登場した第2作であり、機体規模は先行するボーイング737に近い。初飛行は1987年、就航は1988年のことである。

外見は旅客機として一般的なもので、特に変わったところは見受けられない。乗客として機内にいる分には、これも他の旅客機と比べて大きく違いがあるわけではない。一般的な単通路機である。

ところが、コックピットに入ると一変する。第71回で取り上げたボーイング757/767より後から登場した機体だから、グラスコックピット化されているのは当然と言えるし、ディスプレイ装置の画面はこちらのほうが大きい。それより何より、正副操縦士席の前にニョキッと立っているはずの操縦輪がないのが最大の特徴である。

これは、F-16と同様にフライ・バイ・ワイヤ(FBW)を導入するとともに、操縦輪を止めてサイド・スティックにしてしまったせいだ。ただし、F-16は右手でサイド・スティック、左手でスロットル・レバーと決まっているが、A320は正副操縦士席で配置が逆になる。

つまり、右席の副操縦士は右手でサイド・スティック、左手でスロットル・レバーを操作するが、左席の機長は左手でサイド・スティック、右手でスロットル・レバーを操作する。最も使う重要な操縦装置が左右逆転して混乱しないのかと思うが、もともとスロットル・レバーは正副操縦士席が並列配置なら右手操作だったり左手操作だったりするものだし、案外とすんなり慣れることができるのかもしれない。

単に見た目がスッキリするとかハイテクっぽいとかいうだけでなく、サイド・スティックにすると身体の前の空間に余裕ができるし、テーブルを設置して書類などを広げる余地もできる。

A320機が「ハイテク化された旅客機」と呼ばれる場合、それを構成する主な要素はFBWとサイド・スティックの組み合わせ、それとグラスコックピットであると言える。

○旅客機をFBW化する利点

ただし旅客機の場合、F-117Aみたいに「ステルス性を重視したために、飛行制御コンピュータがないとまともに飛べない」なんていうことはない。運航の安全を考えればレーダーで監視してもらうほうがありがたいのに、レーダーに映りにくくしてどうする。

無論、戦闘機みたいに「わざと空力的に不安定な機体を作っておいて機敏に飛ばす」なんていうニーズも存在しない。安全に、安定して、滑らかに飛ぶことが第一である。

とはいえ、操縦操作次第では危険な領域に入ってしまい、例えば機首上げの度が過ぎて失速するような場面はあり得るかもしれない。そこでFBW化して飛行制御コンピュータを介することで、危険領域に入るような操縦操作をした時に飛行制御コンピュータが介入して、危ない操縦操作を抑制するような使い方が可能になる。

その代わり、飛行制御コンピュータがどういう場面でどういう介入の仕方をするのか、あるいはどういう機体の動かし方をするのか、といったことをパイロットがきちんと承知していないと、操縦操作と飛行制御コンピュータの喧嘩になり、かえって事故が起きる可能性につながってしまう。という話は以前にも書いた。

そこのところをきちんと対処していれば、何も問題はないわけだ。ただ、ソフトウェア制御の部分が増える分だけ、ソフトウェアのテストや熟成は重要になる。A320の話ではないが、FBWのソフトウェアに起因する問題によって墜落事故につながった事例、皆無ではない。

○ハイテク化に走った理由

では、エアバスがどうしてこのような路線を歩むことになったのか。これは個人的な推測だが、民間旅客機の市場で先行するアメリカ勢に追いつき、追い越す際の武器として、経済性とか信頼性だけでなく、さらに何かしらの「武器」が必要だったのではないか、ということだ。

そこで前述したようなわかりやすい「ハイテク要素」を取り入れて、先進性をアピールする手に出たのではないかということである。もちろん、コンシューマー商品とは違うから、単に「ハイテクっぽい」というイメージだけで販売につながるわけではない。

しかし、ハイテク化という切り口から独自のメリットを訴求できれば、それは販売を後押しする効果につながると期待できる。「飛行制御コンピュータが、危険領域に入らないように対処する」なんていうのは、その一例である。

グラスコックピット化にしても、他のエアバス機との共通性を維持して、機種移行を容易にしたり操縦資格を共通化したり、といった利点があるから、ちゃんとしたメリットを訴求できるハイテク化である。メリットがあるのかないのかよくわからなかった、乗用車のデジタルメーター(1980〜1990年代にかけてだいぶ流行した)とは事情が違う。

(井上孝司)