フィギュアの写真って売って良い?編集部も勉強になった「フィギュアの写真と権利」

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 日々記事を配信していると、思わぬことで大いに学ばされることがあります。 記事を書く者、校正、編集する者は数人ですが、受信する読者の側は数万単位。 色んなご指摘や、取材を通じ、私達が記事を通じて誰かに伝える以上に、多くのことを教わっています。

 さて、つい先日になりますが、当編集部で再び大きく学ばされる出来事がありました。 よくネット記事でみかける「Twitterで〜が話題」系の記事を当編集部でも頻繁に扱っているのですが、その日は他のライターが「某有名キャラクターのフィギュアを撮影した写真が話題になっている」とネタの提案してきました。

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 とても素敵でユニークな写真だったため、普段の掲載手順同様に投稿者に対して、記事化に関する許可申請を出させていただきました。 ところがしばらくして担当ライターから「ロイヤリティ(利用料)」を求められました。との相談が。

 普段であればこの手のご要望があった場合には、予算の関係もあり丁寧にお詫びし記事化申請を取り下げさせていただくところですが、今回に関しては被写体が「某有名キャラクターのフィギュア」(量産品)。 聞いた瞬間俄然興味がわき、本件の調査その後について引き継ぐことにいたしました。

 実は私、過去某企業でキャラクターグッズの著作権管理を行っていたことがあります。年間100件ほどの契約書含む権利処理及び、各グッズのライセンス付与を行っていた経験から、フィギュア写真の明確な権利所在について自分の知識不足、そしてTPP目前とあり強い興味をひかれました。 なお、本稿は「フィギュアの写真と権利」についてを主なテーマとするため、内容は確かに実話を軸にしますが、当該投稿者、取材にご協力いただいた企業名、キャラクター名についてはあえて伏せさせていただきます。 あくまで「フィギュアの写真と権利」がテーマであることご了承ください。

 さて、今回記事化をお願いした先様に対しては、ロイヤリティが発生するキャラクター写真という時点で正規品と同じ手段をとらせていただきました。当初の担当ライターからは「ロイヤリティが発生するということであれば、権利管理されている○○広報様にご相談すれば良いということですね。」と、フィギュアのキャラクター権利者を確認して相談する旨を伝え、「はい。よろしくお願いします。」という返事を得ています。通常ロイヤリティの発生するキャラクター写真については、販売を管理する窓口経由で利用料支払いについて確認を行います。分からない場合には今回のように著作権者本人に確認するのです。SNS上のやりとりだけでは決して完了させません。例外は対個人のみ。

■どうしてもタダで使いたいの?

 今回のやりとりは、よほどめずらしかったのかネット上で一部話題になってしまっておりました。その際言われていたのが「どうしてもタダで使いたいから権利者云々言ってる」「どうしてもタダで使いたいの?」「権利者に相談するなんて圧力に思える」といったご意見。

 非常に身にしみるお言葉です。普段はこの手の話題の時、投稿者の好意に甘えて無償にて使用させていただいておりますが、それが当たり前になってしまわないよう、改めて気を引き締めさせられたお言葉です。ただ、運営会社は懐事情がかなり淋しい会社のため、なかなか自由に予算を捻出できないのも事実。引き続き好意に甘えさせていただけるところは甘え、でもこれまで以上の配慮をもって相手様にお願いしていこうと強く決心させられました。

 さて、今回の件ですが、結論から言いますと、利用料については「(ケチだから・お金がないから)支払わない」のではなく「(正規品か確認できないので)支払えない」が正解です。

■被写体の写真の権利所在

 ご存じの方はもうおわかりかと思いますが、当該写真の被写体は、「某有名キャラクターのフィギュア」(量産品)。大体おわかりですね?

 これが富士山であったり、湖、ありふれた街並み(有名な建造物除く)、自分が所有する1点もののオリジナルフィギュアであれば、撮影者に完全に権利があるものと判断され、利用料を請求する権利が発生します。

 ところが今回のようなキャラクターが被写体の場合には、写真自体は撮影者の権利が発生しますが、同時に被写体の権利も同居するのです。 つまり、この件に関しては写真1枚に、撮影者+キャラクター権利会社の2者は確実に存在することになります。フィギュア製造にあたり特殊な仕様や、オリジナル性の高い要素が含まれていた場合には更にフィギュアメーカーを入れて3者。

 撮影者が私的範囲で楽しむ分には問題ないと思われますが、それをもって対価を求める時点で、その商品は正規のライセンスを受けている必要があります。 もしこれが仮に受けていないものの場合には、著作権法及び不正競争防止法に触れる可能性があります。場合によっては買う側も「知らなかった」では済まされず、購入する以上その写真について知る必要があるのです。

■今回の件をキャラクター権利会社に聞いてみた

 一応この件については、当該企業に対し電話取材を行っております。今回の写真にサブライセンス権があるかないかについては、個別に答えることは行っていないという回答でしたが、権利的考えについては「一般の法解釈と同一です」とのこと。この一言に全てが集約されています。

 というわけで、権利確認ができないもののためやはり写真購入を見送ることといたしました。

■編集部の反省点

 今回の件ですが、私個人及び編集部としては、更に学ぶべきこと、反省すべきことが1つみつかりました。それは話題になっている対象が「フィギュアの時点でお声がけすべきではなかった」ということ。

 普段話題になっているアニメや漫画の切り抜きについては、より権利が明確なため著作権法の中の「公衆送信権」に触れると判断し、お声がけすることはありません。ところが本当に勉強不足な部分ですが、こうしたフィギュアについてもオリジナルのキャラクター著作権を使用している以上、同時に公衆送信権が発生すると考えられているのです。当たり前にみかけていたため、それに慣れすぎ判断を誤っていました。本当に恥ずかしい限りです。
 著作権法では『報道、批評、研究などのための正当な範囲内』であれば使用は認められていますが、弊社内の独自ルールではこれは厳しく禁じられている部分であり、普段は避ける案件でした。なお、通常の商品紹介の記事は『報道』での正当な範囲内と判断しオフィシャル素材などを使用して紹介しています。

 著作権者は、公衆送信(テレビ・ラジオ)・有線放送・自動公衆送信(インターネット)などに情報を配信する「公衆送信権」というものを基本独占的にもっています。 そして今回のようなフィギュアの場合には、漫画や、アニメ作品同様に、あくまで商品を買い私的に楽しむだけの権利を得たもの。テレビ放送についても同じく、私的で楽しむ権利を得ただけです。そしてその権利の中には「公衆送信権」は含まれていません。

 公衆送信権については、あくまでそういうルールというだけで、多くの企業は「フィギュアの写真をWeb上に公開する行為」に限って言えば「ファン活動の一環」として黙認しているところがほとんどです。 私の知人で、某企業に勤める現役のMD(マーチャダイジング)担当にこの辺の事情を詳しく聞いてみたところ、権利を守る者としての建前は「1つ1つ調べて違反していますと声をかけるのが困難だから」となっているそうです。そのためもし問い合わせがあれば、権利を管理するものとして毅然と「フィギュア写真をWebにアップすることは禁止されていることです」と伝えていると話していました。著作権違反は親告罪ですからね。今のところ。だからこそできる「なーなー」なのかもしれません。
ただし、会社によっては、「Twitterにフィギュア画像を投稿しよう!」と積極的に促しているところもあるため、この権利の適用は会社次第、そしてケース次第になっています。

 著作権と言えば、非親告罪が適用されるTPP(=環太平洋パートナーシップ協定)が今後予定されています。
二次創作物については対象外となることが知られていますが、「故意による商業的規模の著作権又は関連する権利を侵害する複製及び商標の不正使用を非親告罪とすること」とあるとおり、商業規模の著作権は対象。ちなみに、「複製」と言うとピントこないかもしれませんが、複製権を参考にすると「複製とは、作品を複写したり、録画・録音したり、印刷や写真にしたり」と範囲に含まれることになります。
 ただし今回の文章では適用する条件に続けて「著作権等の侵害については、その適用を著作物等を市場において利用する権利者の能力に影響を与える場合に限定する」とされているので、個人が楽しむ範囲ならWeb上にフィギュアの写真を投稿する程度であれば、当面は現状維持が続きそうです。

 でもこれはあくまで「現在の見通し」の話。実際に稼働させてみなければわかりませんし、事例が発生してからでなければわからない部分が多く含まれています。今後この動きは引き続き見守る必要がありそうです。

▼参考:
文化庁「著作物の利用と著作権について」
公益社団法人日本複製権センター「複製権とは」
内閣官房 TPP政府対策本部
ネットの必須知識・公衆送信権−ネコにもわかる知的財産権
快適なネットライフのための著作権法 第2章 ブログに載せてよい物

(文:宮崎美和子)