冬の青い空と、トップリーグ史上最多の満員の観衆で埋まったスタンド。いまやラグビー界の枠を越えてスターとなった五郎丸歩(ヤマハ発動機)がゴールキックの際、話題の「お祈りポーズ」を作ると、あちこちからカメラのシャッター音が聞こえてくる。

 試合後、五郎丸が小さく笑う。

「うれしいですね。このようにたくさんのお客さんに会場に来ていただいて応援していただくというのは、スポーツ界の理想だと思いますから」

 あのワールドカップ(W杯)イングランド大会から3カ月が経った。12月26日のヤマハ発動機vsキヤノン(秩父宮)。日本代表フルバック五郎丸のW杯後の『関東初見参』だった。

 見せ場は前半11分。敵陣ゴール前のラックからの左ライン攻撃で、左隅に左足で絶妙なゴロキックを転がし、ウイングのハビリロッキーのトライを演出した。これもゲームの読みか、いいところにポジショニングしているから、いい準備ができた。

 直後の難しい位置からのゴールキックを黄色いスパイクで蹴り込んだ。W杯後のプレーの変化を問われると、五郎丸は「安定感が増したのかなと思います」と漏らした。

「(プレーの)波が非常に少なくなりましたし、キックに関しても非常に安定したリーグ戦だったと思います。いろんな経験をさせてもらっているので、ゲームの流れを読む力も年々ついてきました」

 この日は足では3ペナルティーゴール、2ゴールの13得点。7本中5本のキックを成功させた。後半3分にはモールからの左オープン攻撃でディフェンスの隙間を突いて、自らトライを奪った。以前なら、相手を引きつけてパスを外に出していたかもしれない。が、今季はイケると思ったら自分で勝負する。

 五郎丸が述懐する。

「あの場面、(ペナルティーキックの)アドバンテージがあったので、思い切り攻めることができました。僕がボールを持った時点で、(相手のマークが)半分ずれていたので、もう自分でいこうと判断しました」

 佐賀工高―早大でも先輩となるスタンドオフ大田尾竜彦が、五郎丸の微妙な成長を説明してくれた。

「トライを獲るところにいるようになった気がします。ポジショニングがよくなっている。(いいところで)ボールを呼び込めるようになっています」

 五郎丸といえば、人気の「お祈りポーズ」のように、ルーティンである。地道な努力の継続があって、初めてルーティンが意味を持つものになる。ファンに騒がれようが、メディアに持ち上げられようが、謙虚な姿勢は変わらない。驕(おご)りは微塵もない。

 これは凡人にはマネができない。大田尾がそっと教えてくれた。

「あいつ(五郎丸)は繊細な男ですから。自分を保っておかないと、いろんなところが崩れてしまうことを敏感に察知しているからじゃないですか」

 だから、ラグビーに対する姿勢は変わらない。テレビ出演や表彰式などで練習を休むことはまず、ない。その瞬間を大事にする。100%の気持ちで練習に打ち込む。毎日、練習の最後、試合を想定しながら約10本、ゴールキックを蹴るのである。

 環境が人を作る、という。五郎丸のW杯後の変化を聞かれ、清宮克幸監督は「ノーブレス・オブリージュ」という言葉を使った。ノーブレス・オブリージュとは、恵まれた才能と環境に生まれた選ばれし者は、率先して社会への責任を果たす義務があるという意味である。

「いまはただ、ヤマハの一プレーヤーとしてチームに献身的なプレーをしてくれています。ファンに対しても非常に丁寧に驕ることなく接しているなと感心しています。責任感というか、ノーブレス・オブリージュをしっかりやっているなという感じですね」

 そうなのだ。五郎丸の五郎丸たる所以(ゆえん)は、変わらぬ誠実な姿勢にある。だから、ファンに愛されるのだろう。プレーで言えば、「安定感」である。仲間からの「信頼感」と言ってもいい。プレーではミスをしない、ゴールキックを確実に蹴り込む、体を張ってパントキックをキャッチする、相手にタックルする、そんなことである。

 内面的な安定を支えているのは、ヤマハのつらい時期や日本代表を外された時の経験など、紆余曲折のラグビー人生であろう。「疲れは?」と聞かれると、五郎丸は「それが、あんまりないんですよね」と笑った。

「僕だけじゃなく、日本代表だったり、そうでないメンバーだったり、やはりラグビー界が2019年に向けて周囲の注目を集めたいなといろんな取り組みをしてきました。この注目は非常に光栄なことです。選手としてはしっかりプレーで魅了できるように頑張っていきたいと思います」

 試合は、ヤマハが33−19で快勝した。五郎丸は1人で18得点を挙げた。トップリーグのリーグ戦が終わり、五郎丸は83点で得点王に輝いた。充実の1年が終わる。「漢字1文字で?」というベタな質問に、29歳は「飛躍の『飛』です」と答えた。では来年は?

「初心に戻るということで『初』ですね」

 年明け、まずは負けたら終わりのトップリーグのプレーオフが始まる。目標はもちろん、頂点である。2連覇がかかる日本選手権があり、その後はスーパーラグビーのレッズに参加する。海外からはフランスのプロチームが五郎丸獲得に動くというニュースも流れた。

「パフォーマンスをしっかり維持しながら、先のことは考えないと言いつつも、海外にチャレンジするということで少し変化を加えなくちゃいけないというところもあります。その辺をバランスよくやっていきたいなと思います。練習や体の整え方は変えることはないですね」

 五郎丸の凄味は根っこの「変わらない」ことである。ノーブレス・オブリージュ。驕らず、騒がず、淡々の目の前のことに挑戦していくのである。

松瀬学●文 text by Matsuse Manabu