やることなすこと裏目ばかり…。進退きわまったときにとるべき行動は?
 やることなすこと裏目に出る時期がある。喜ばせるつもりのひと言で相手をムッとさせ、気を利かせたはずが、場を白けさせる。どうにもこうにもうまくいかない。そんな苦境に陥ったら、どうすればいいのか。

 今回は江戸時代の深川を舞台に、木戸番小屋に集う市井の人々を描いた『深川澪通り木戸番小屋』(北原亞以子著/講談社文庫)から打開策を探りたい。物語の主人公は笑兵衛とお捨という初老の夫婦。苦労を重ねてきたふたりを慕い、町の人々が相談を持ちかける。

◆「また騙されるんじゃないかとびくびくしているから、貧乏神が寄りつくんだ」

 主人公・笑兵衛がよく行く居酒屋「樽屋」の主人・謙吉の口癖は“人の言うことは、あてにならねぇ”。というのも謙吉には知人に騙され、莫大な借金を背負わされた過去がある。しかし、娘のおくめは父親の姿勢に業を煮やし、「また騙されるんじゃないかとびくびくしているから、貧乏神が寄りつくんだ」と諫める。

 トラブルが続くと、誰しも不安になるものだ。しかし、後ろ向きな気持ちのままでは、うまくいく仕事も、うまくいかなくなる。“きっとまたうまくいかないのでは……”といった恐れは振り払い、目の前の仕事に集中したい。

◆「貧乏が気楽とは限りませんよ」

 貧しい花屋の娘・おていに、玉の輿の縁談が持ち上がるが、母親は大反対。婚礼が決まってからも“貧乏でも気楽なほうがどれだけ幸せか”と嘆いていた。だが、お捨に「貧乏が気楽とは限りませんよ」と諭され、自分の思い込みに気づく。

 思い込みにとらわれると、悩みは深くなるばかり。例えば、“何もかもうまくいかない”と感じるのは、失敗ばかりに目を向けるせいかもしれない。反省すべきポイントがズレていて、同じしくじりを繰り返しているのかもしれない。自分の記憶や印象を鵜呑みにせず、検証を重ねれば、窮地を脱する手がかりもつかめるはずだ。

◆「金持ちのふりをしてでも、貧乏神を追っ払わなきゃだめなんだよ」

 居酒屋「樽屋」の娘・おくめは長年に渡り、父親・謙吉の愚痴を聞き続けてきた。ところが、あるとき、「もう、沢山だよ」と逆らい、「金持ちのふりをしてでも、貧乏神を追っ払わなきゃだめなんだよ」と訴えた。

 ここでいう“貧乏神”は、仕事で言えば、やることなすこと裏目に出る状態に置き換えられる。うまくいかないことを嘆くより、無理矢理にでも笑い飛ばす。“笑う門には福来たる”とはよく言ったもので、笑いの表情を作るだけでも気分は晴れ、物事がうまく回り出す。まずは“型”から、というわけだ。

 仕事をしていると、すこぶる調子がいいこともあれば、まるで振るわないこともある。いずれも実力のうちだ。慢心せず、かといって過小評価もせず、調子を崩したときに備える。“転ばぬ先の杖”の確保も、ビジネスマンの必修スキルなのだ。

<文/島影真奈美>

―【仕事に効く時代小説】『深川澪通り木戸番小屋』(北原亞以子著/講談社文庫)―

<プロフィール>
しまかげ・まなみ/フリーのライター&編集。モテ・非モテ問題から資産運用まで幅広いジャンルを手がける。共著に『オンナの[建前⇔本音]翻訳辞典』シリーズ(扶桑社)。『定年後の暮らしとお金の基礎知識2014』(扶桑社)『レベル別冷え退治バイブル』(同)ほか、多数の書籍・ムックを手がける。12歳で司馬遼太郎の『新選組血風録』『燃えよ剣』にハマリ、全作品を読破。以来、藤沢周平に山田風太郎、岡本綺堂、隆慶一郎、浅田次郎、山本一力、宮部みゆき、朝井まかて、和田竜と新旧時代小説を読みあさる。書籍や雑誌、マンガの月間消費量は150冊以上。マンガ大賞選考委員でもある。