全日本フィギュアスケート選手権のショートプログラム(SP)、羽生結弦は冒頭の4回転サルコウで転倒してしまい、GOE(出来ばえ点)では3・31の減点。さらに転倒の減点1点を加えて4・31点の減点となった。それでも、得点は今シーズン3度目の100点超えとなる102・63点という高得点だった。

 完璧な演技を求められ続ける状況でミスをしたことで、逆に「肩の荷が降りたような気持ちになったのでは?」という質問に、明るく笑いながら「そうですね」と同意した羽生は、こう続けた。

「今は102点でも、見ている皆さんは多分『あーあ』という気持ちになっているかもしれないですけど、考えてみたら3年前だったら102点なんてとんでもなく高い点数でしたし、ノーミスをしないと出ない点数だった。その点に関していえば、(SPで)4回転2本(を入れる構成)というのは大きいと思いますね」

 同じ『バラード第1番ト短調』を使った昨シーズンのSPの最高得点は、最終戦の世界国別対抗(2015年4月)の96・27点だった。その試合は3種類のスピンとステップはすべてレベル4で、4回転トーループとトリプルアクセルは成功。唯一ミスをしたのが3回転ルッツからの3回転連続ジャンプで、セカンドのトーループが回転不足を取られて転倒していた。

 この時の演技構成点の各項目を見ると、「スケーティング技術」と「要素のつなぎ」の9・11点が最低で、最高は「振り付け」の9・43点で合計は46・29点。もし3回転連続ジャンプが完璧でGOEを1・00点もらう出来だったら、101・58点を獲得していた計算になる。

 それに近い点数を実現させていたのが、『パリの散歩道』で完璧な演技をしたソチ五輪のSPだった。チェンジフットシットスピンこそレベル3だったが、それ以外の要素は完璧で、技術点の基礎点は43・96点。GOEを加えた技術点は54・84点を出し、演技構成点では46・61点をもらって、史上初の100点超えとなる101・45点を出していた。唯一レベル3だったスピンをレベル4していれば、基礎点は44・36点になって、合計で101・85点を出していた計算になる。

 そして、さらに進化するために、昨シーズン前に羽生が目指したのが、冒頭にトリプルアクセルを入れ、後半に4回転トーループを入れる構成だ。それは、技術点の基礎点が、スピンとステップがすべてレベル4なら44・54点になるものだった。

 そこからさらに難度を上げ、今シーズンのNHK杯から始めている4回転サルコウと4回転トーループ+3回転トーループを入れた演技構成の基礎点は、今回は48・05点。羽生が「4回転を2本入れたのは大きい」と言ったように、今回はサルコウの転倒があっても技術点は55・86点。ノーミスだったソチ五輪のSPで、スピンなどすべてレベル4と仮定すれば、GOEを加えた技術点は55・24点になっていたが、今回の全日本では、ミスをしてもその点数を上回ったのだ。

 今回の全日本のSPでは、4回転トーループからの連続ジャンプのGOEで、ジャッジ全員が3・00点をつけて満点になっていた。1点をつけるジャッジもいたソチ五輪の時とは違い、ミスした4回転サルコウ以外はすべてGOEが2点と3点で、成功した要素を全体的に見れば3点をつけたジャッジの方が圧倒的に多かった。

 さらに、演技構成点も一番低い点数が「要素のつなぎ」で9・39点。それに続くのは「スケーティング技術」の9・46点で、それ以外の3項目はすべて9・50点以上となり(「演技の表現力」:9・50「振り付け」:9・71「音楽の解釈」:9・71)、合計で47・77点となっていた。

 こうして見ると、技術だけではなく、表現・芸術要素もそれと並行して高めようとしている羽生が、ミスをしても100点台を取ることは、もはや当然といってもいい状態になっている。その絶対王者の羽生に追いつくために、国内外のライバルスケーターたちも、さらに難度の高い構成に挑戦してくるはずだ。これからの熾烈な争いに期待したい。

折山淑美●取材・文 text by Oriyama Toshimi