AMF社長 椎木里佳氏

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女子中高生の目線で、大手企業へのコンサルティングを手掛けるAMF。社長は18歳の現役女子高生だ。起業家の父を持つ彼女が描く未来予想図とは。

■SNSで叩かれて起業を決意

【田原】椎木さんは中学3年生のときに起業したそうですね。

【椎木】クリスマスの朝、ごはん食べながら父に「起業する」と言いました。クリスマスでこの1年ももう終わると思ったら、いま動かないと私の人生も終わっちゃう気がして。

【田原】人生終わるって、中学生のセリフじゃないでしょう。

【椎木】社長になるという夢は中1のときから持っていました。でも、すぐやるつもりはなくて、オトナになってからやればいいかなって。

【田原】それがどうして中3で?

【椎木】そのころフェイスブックで同級生の男子に「男たらし」って言われて叩かれたんです。すっごくムカついたんですけど、私は女だから腕力じゃ男子に勝てない。それで、社長になって見返すしかないなって。

【田原】お父さんはマザーズに上場する起業家ですね。影響もあった?

【椎木】うーん、どうかな。父が独立したとき私は2歳だったから、当時のことは何も覚えてないんです。ただ、父は家の倉庫で1人寂しくパソコンに向かっているのに、とても楽しそうだった。その姿を見てきたので、社長業はおもしろいと自然に考えていたところはあったと思います。

【田原】起業すると言ったら、お父さんはどんな反応だった?

【椎木】「行ってこーい」って。ぜんぜん止められなかったですよ。

【田原】そうですか。それで、椎木さんは何から始めたの?

【椎木】まず父の知り合いの行政書士さんのところに「起業するので、お願いします」と駆け込みました。でも、会社の名前も事業内容も決めていなかったから、「それじゃ登記できない。決めてからまた来てください」と追い返されました(笑)。

【田原】そりゃそうですね。社名や事業内容はどうしたんですか。

【椎木】社名は、わが家の家訓が「感謝(Appreciation)、謙虚(Modesty)、全力(Full-power)」なので、それぞれの頭文字を取って「AMF」とつけました。事業内容はそのときやりたかったことをノリで適当にあげました。たとえば映画製作とか、インテリアデザインとか。いまだにぜんぜんやってないですけど。

【田原】事務所やスタッフ、資金はどうやって準備したの。

【椎木】仕事は家で1人でやろうと考えていました。ぶっちゃけ、まわりの友達はサルみたいなコばかりだから、一緒に仕事するのは無理です。資金は15年間貯めたお金と、父にちょっと借りて、資本金45万円で始めました。最初に使ったのは行政書士さんに頼んだ費用くらいなので、それで十分でした。

【田原】無事に会社ができました。さて、何からやりましょう。

【椎木】最初にやったのはフェイスブックページの立ち上げです。田原さん、「Tokyo Otaku Mode」というフェイスブックページ知ってます? 日本のポップカルチャーを紹介するページなんですけど、海外の人にすごくウケてて、「いいね!」が300万を超えているんです。これの女子高生バージョンがあったらおもしろいなと思って、まずはつくってみました。でもぜんぜんダメでしたね。1カ月で40いいね! しかつかなくて、早々にあきらめました。

【田原】それから?

【椎木】何をしていいのかよくわからなかったので、とりあえずブログとツイッターを始めました。そしたら2ちゃんねるで炎上しちゃって。中3で社長っていうだけで、生意気に見えるじゃないですか。それに父が社長だったから、「どうせコネでやってるだけだろ」って。

【田原】やっかみですね。

【椎木】マジ腹立ちますよねー。でも、この炎上がいいきっかけになりました。それまで私のことなんて誰も知らなかったのに、炎上したことで注目されて、サイバーエージェントさんからお仕事の依頼がきたんです。

【田原】へえ。どんな仕事ですか。

【椎木】「JCJK総研」という女子中高生向けメディアをつくるから、編集長になってくれという話でした。編集長といっても、コラム書いたり商品のPRをするだけですけど。

【田原】商品のPRって?

【椎木】たとえばある石鹸をPRしてほしいという依頼があったら、実際に使ってみて、「泡立ちがいい」とか感想をブログに書いたりします。いまでいうステマに近い感じかな。

【田原】なるほど。ほかには?

【椎木】あとは「JKめざまし」というアプリのプロデュースもやりました。女子高生がターゲットなので、イケメンボイスで起こします。これはけっこうウケて、2万ダウンロードいきました。

【田原】すごいですね。椎木さんも儲かったんじゃないですか。

【椎木】いやいや、ぜんぜんです。ぶっちゃけ、そのときサイバーエージェントさんからもらっていたのは月5万円だけ。高1に5万円は大金ですよ。でも、企業として考えたら終わってる額です。私が女子高生だということで舐められてたんでしょうね。これはおかしいと思って、半年で編集長を辞めました。

【田原】そうか、藤田晋はケチだったか(笑)。それで、辞めた後は?

【椎木】サイバーエージェントさんと仕事してわかったことがあります。それは、女子高生であることに世の中はお金を出すということ。石鹸を使った感想なんて誰でも同じだけど、私が女子高生だからそれを読んでくれる人もいた。それならば、この先も女子高生の感性を売りにしたほうがいい。そう考えていたら、お菓子のメーカーさんからマーケティングサポートの依頼がきました。新商品のCMを一足先に見せるから、女子高生に座談会をやってもらって感想を聞いてほしいという依頼です。

【田原】仕事が向こうからきたわけだ。今度はギャラもよかった?

【椎木】はい。お菓子のパッケージとか、LINEのスタンプのデザインとか、そういうものへの意見も含めてウン100万円もらえました。きたーって感じです。

【田原】ケタが2つ違うね。女子高生の目線にそれだけの価値があると。

【椎木】はい。大手の代理店も若いコを集めてリサーチしていますが、答えるコはセミプロで、ホントに女子高生かどうかわからないし、料金もウン千万取ると聞いています。企業は大手代理店のそうしたやり方に疑問を持ち始めていて、本物の女子高生である私たちのところに話がきた。本物なのにウン100万円だから、まだ安いくらいです。

■協力メンバーはツイッターで募集

【田原】肝心の女子高生はどうやって集めているのですか。

【椎木】ツイッターで募集しました。「JCJK調査隊」と名づけて、いまは50人くらいいます。

【田原】本物の女子高生だって、どうしたらわかるんですか。

【椎木】首都圏のコとは直接会うし、地方のコはスカイプで話します。生徒証を見せてもらうので、そこはばっちり確認取れています。

【田原】彼女たちはアルバイト?

【椎木】いや、交通費などの実費は払いますけど、ほかは……。ボランティアみたいなものですね。

【田原】それでよくやってくれるね。

【椎木】今回もそうですけど、取材でテレビや雑誌に出てもらうことがあるんです。それ目当てのコも多くて、みんな楽しんでくれてるみたいです。

【田原】お菓子メーカーのほかには、どういう仕事をしたんですか。

【椎木】あとはリクルートさん。「パン田一郎」というキャラがあるんですけど、そのLINEスタンプのコンサルティングをしました。これは1000万ダウンロードいきました。

【田原】リクルートなんてプロ中のプロでしょ。どうして、いわば素人の椎木さんのところに頼むのかな。

【椎木】リクルートさんはおじさんが多いんですよ。女の人もいるけど、バリバリのキャリアウーマンばかりで何がカワイイのか、忘れかけちゃってる。だからカワイイものをつくろうとしても外れたものになるんです。あれ、いま私、キャリアウーマンを敵に回したかな(笑)。

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田原総一朗
1934年、滋賀県生まれ。早稲田大学文学部卒業後、岩波映画製作所入社。東京12チャンネル(現テレビ東京)を経て、77年よりフリーのジャーナリストに。若手起業家との対談を収録した『起業のリアル』(小社刊)ほか、『日本の戦争』など著書多数。

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(村上 敬=構成 宇佐美雅浩=撮影)