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●BtoCがビジネスにならない理由
フォトシンス、ライナフ、Qrioと2015年に国内3社から発売されたスマートロック。個人利用をはじめとして、ホテル、不動産賃貸を始めとする様々な分野に浸透していく可能性があるが、課題は少なくない。スマートロックは日本で普及するのだろうか。

○BtoCではなくBtoBでビジネスを進める理由とは

現在、スマートロックは不動産賃貸やホテルのフロント業務、貸宿・空きスペース、店舗の防犯・勤怠管理などでの利用が想定されている。しかし、日本のスマートロックはどれも特別な工事をしなくとも設置できる後付け式で、個人利用でも導入しやすいはず。BtoBだけでなく、BtoCとしてもビジネスが成立しそうに見える。

だが、スマートロックを販売する3社はBtoCに主眼を置いていない。その理由のひとつとして、購入層の問題が挙げられる。フォトシンスの河瀬航大社長は「『Akerun』単体ではイノベーターしか興味を示してもらえないことが痛いほどよくわかりました」と話す。2015年末現在、自分で買って家に取り付けようとするのは、新しいモノに敏感な一部の人たちに限られている。一般消費者におけるスマートロックの知名度はまだ高いと言い難いのが現状だ。

合鍵の発行や入退室管理は個人ユーザーにとっても、便利な機能だが、新たにコストをかける必要があるのか、と考えると悩むところ。まだ製品の存在を把握していない消費者より、スマートロックの機能を必要としている業界を狙うのはビジネスとして現実的な話だ。

BtoBに主眼を置く理由には、もうひとつ大きな問題がある。それは、IoT製品はインターネットにつながり続け、サーバーの維持費用が継続して発生するためだ。IoT製品は製品を売ったら終わりではなく、継続して費用を取ることを考えないといけない。ライナフの滝沢潔代表は「利用者2000人につきサポート担当者を1人つけるとして、そこにサーバーの維持費用も加わります。サービスが大きくなったら月額何百万というスケール感です」と説明する。

購買層とサーバーの維持費用の問題。一般消費者に月額課金モデルを課すのは現実的ではない。折り合いをつけながら、利益の拡大を狙おうとすると、BtoCではなく、BtoBに注力するのは、自然のことといえるだろう。

では、スマートロックを取扱う3社は、どの市場を狙うのか。"普及"という観点から見たときに、市場が大きいホテル・旅館、不動産賃貸分野へのてこ入れが欠かせそうにないが、現状はどうなのか。まずは、ホテル・旅館分野での状況について見ていきたい。

●最も有望な市場とは?
○はたしてホテル・旅館はスマートロックにとって有望な業界か?

スマートロックとの親和性が高く見えるのがホテル・旅館である。スマートロックを使えば、鍵の受け渡しが容易にでき、宿泊受付を行うフロントの人員削減へつながるだろう。

しかし、ここには意外な障壁がある。Qrioの西條晋一代表は「ホテルだとカードキーがすでに広く導入されています。フロントを通ってチェックインしないといけない以上、カードキーでもスマートロックでも利便性は変わりません。大きいホテルは自社システムがあるのであえて後付けで鍵をつける必要がないのです」とカードキーの存在を指摘する。

技術的な方法で解消できる問題ならまだしも、既存製品ですでに整ったシステムを崩して参入するのは難しい。フォトシンスはビジネスホテルのドーミーインと実証実験を行なっているが、他の2社はホテル・旅館への参入に対して消極的だ。

○最も有望なのは不動産賃貸?

もう一方の不動産賃貸はどうだろう。実は3社とも狙っているのが、ここである。ライナフは元々不動産管理を行なっており、運用の一環として「NinjaLock」を開発。Qrioも西條代表が不動産の運用からスマートロックの開発を決めたいきさつがあった。フォトシンスは不動産・住宅情報サイト「HOME'S」を運営するネクストと共同で実証実験を実施するなど、各社がそれぞれ不動産賃貸にポジティブな動きを見せている。

自分でスマートロックを設置するのはためらう消費者も、居住予定の物件に最初から備わっていたら使ってみようと考えるだろう。もしかしたら、不動産を通じて、スマートロックの認知や普及につながっていくかもしれない。

ただし、不動産賃貸においても、スマートロックを活用する上での障壁がある。フォトシンスの河瀬代表は不動産賃貸において思わぬ壁にぶつかったという。「『Akerun』を設置する管理会社は製品をよく理解しているのですが、問題は管理会社と買主の間に立つ仲介会社です。内見の予約にFAXを使って鍵を手配するのが当たり前の仲介会社で、年配の方も多い」と話す。このため「スマホを持っていないのですが」という問い合わせを受けることもあったという。

スマートフォンは急速に普及しているとされるが、様々なユーザーに対応しないといけないビジネスにおいては当面は携帯電話やパソコン利用への対応が必須だ。

この問題を解消するために、フォトシンスでは、携帯電話やパソコンなどスマートフォン以外の全端末を対応するIoTゲートウェイ「Akerun Remote」を8月に開発。SIMを差し込むことで「Akerun Remote」がネットに接続し、携帯電話やパソコンからでも「Akerun Remote」を中継して「Akerun」の操作を可能とした。また、ライナフでもソラコムのSIMを搭載したタブレットを用意しWebから開閉できるようにしているという。

●ビジネスモデルとスマートロックの発展
○不動産分野における各社のビジネスモデル

こうした課題はありながらも、スマートロック3社はビジネスモデルを確立しつつある。ライナフの滝沢代表は「元々、不動産活用を考えていたので不動産用のサービスを提供し、それと連動するのがスマートロック、というトータルサービスで考えています」と不動産サービスとのパッケージ化というビジネスモデルを明かした。

ライナフ同様、不動産サービスと連携したビジネスモデルを考えているのがQrioだ。西條代表は「不動産の法人向けのソフトウェアを作っていて、月額料金もいただけるのでビジネスとしては成り立ちやすいと思っています」と話した。

一方、フォトシンスでは製品に月額料金を課す方法を取っている。「Akerun」そのものに利用料金はかからないものの、発売している「Akerun Remote」を使うにはSIMの利用料金の他に、サーバー利用料、システム利用料、サポート費用込みの月額料金が必要だ。また、マンションのオートロック用製品「Akerun Entrance」においても、初期費用に加え月額料金が加わる。

他サービスとのパッケージング、製品への月額課金。方法は違えども、各社ともビジネスモデルは定まりつつある。"普及"といった観点から見ても、3社が狙う不動産賃貸から広がっていくことになりそうだ。

○スマートロックの未来像とは?

最後に、スマートロックの未来について、少し触れておきたい。将来像を探ると、ビジネスの広がりも見えてくる。

フォトシンスの河瀬代表は、スマートハウスのハブとしての役割を担うと説明する。同氏は「帰ってきたタイミングで暖かいお湯やエアコンで迎え入れてくれる、家を出たタイミングですべての電気をシャットダウンする。そんなドア一体型のコンシェルジュに発展する可能性があります」と話す。Qrioの西條代表は、カメラ、センサーなどに接続し、ホームセキュリティへの利用が見込めると指摘する。

2015年に国産製品が登場し、ビジネスモデルが構築されつつあるスマートロック。2016年は不動産賃貸において、どれだけ活用されるか真価を問われる年になるだろう。そして、機能の発展とともに、スマートロックが一般ユーザーにとってのIoT機器利用の入り口になれるのかも期待されるところである。

(丸子かおり)