2015年12月28日
TEXT:大谷和利(テクノロジーライター、原宿AssistOnアドバイザー)

先日、アップルは、クリスマスシーズンに向けて(という意図もあると思われる)iPhone 6用のアクセサリを発売した。それを見た多くの人が違和感をおぼえたのではないかと筆者も感じる、純正のバッテリー内蔵ケース「iPhone 6s Smart Battery Case」である。

筆者は、サン=テグジュペリの名作「星の王子様」の挿絵の1つ、像を丸呑みした大蛇ボアの姿を思い出した。装着したままでLightningコネクタから本体とバッテリーの双方を充電できる点は便利だが、ネット上の評価(主に外観の好き嫌い)は極端に分かれており、ネガティブな意見も多いようだ。

個人的には、ミニマリスト的なアプローチというか、まず必要なバッテリー容量を決め、それをシリコーンでカバーし、iPhone 6本体に装着するためのガワを組み合わせただけ(に見える)フォルムは、デザインされているのかいないのかわからないという点で、ジャスパー・モリソン的な雰囲気を感じた。

一方で、あえてアップルが出すならば、もっと革新的な何か、たとえば、薄いままで飛躍的に容量が多くなる新技術(http://www.geek.com/chips/fools-gold-used-to-supercharge-lithium-ion-batteries-1639419/)の実用化に成功して組み込んだ...というようなことを期待してしまうため、その意味では、あまりに普通過ぎてガッカリしたことは否めない。

実は、その点を除けば、このケースのデザインは理に叶ったものではある。おそらく、そのデザインプロセスは、以下のようなものだったのではなかろうか。

アップルのデザインチームは、「ケースを付けた状態でも、既存のドック製品が使えるようにしたかった」 → となると、「下端の厚みは一般的なケースと同程度に抑える必要がある」 → だが、「下端だけが薄く、そこから上が上端まで厚いデザインでは、視覚的にも重量バランスの点でも不安定になる」 → そこで「上端部も下端部と同じ厚みにした」 → 「残ったスペースに求められる容量のバッテリーを集中させてカバーする」 → 「完成」。

そう考えると、現在、量産可能なバッテリー技術を用いて、理詰めで作った結果、自然にたどり着いたのが最終的なフォルムになったことになり、これはこれで納得できるデザインといえる。また、バッテリー内蔵ケースは分割式の構造が一般的だが、これはシリコーンの柔軟性を活かして上端を曲げれば、そのままiPhoneをスライドインできる。この使い勝手の良さも、上部の厚みを増やさないことで実現されている。

しかし、問題は別のところにあると感じたのも事実だ。たとえば、アップルは、スティーブ・ジョブズが存命中だった2010年3月に、iPhone向けのスクリーン保護フィルム製品アップルストアでの扱いを一斉に取りやめたことがあった。同年4月に初代iPadがリリースされる直前のタイミングであり、当然ながらiPadが発売されても、同ストアでは保護フィルムの扱いはなかった。

当時、売れ筋だったこのカテゴリーの製品を締め出せば、アップルストアの売り上げに大きく響くことは目に見えていた。しかし、ジョブズとしては、アップル自身による保護フィルムの販売は、iPhoneやiPadのスクリーンがそれ無しでは実用的に使えないとの誤解につながると感じたのだろう。

実際にはこうしたフィルムには、傷つき防止効果以外にも、落下時の破損の危険性を軽減したり、割れた場合でもガラスの飛散を防ぐ機能もあるため、一概に不要とはいえないわけだが、ジョブズとしては1本筋を通しておきたかったに違いない。

そうした観点からSmart Battery Caseを見ると、これを純正品として販売することは(実際にそうかどうかは別として)iPhone 6sのバッテリー容量が日常使用に不十分であるとの印象を与えかねない動きに映る。事実、(単に6s向けの売れ行きを見て判断するつもりかもしれないが)元々バッテリー容量の大きなiPhone 6s Plus用のSmart Battery Caseは発売されておらず、6s用のみという点も、そういう見方を強める要因となりうるだろう。

実際に、iPhone用とは限らないが、ケース内蔵型か否かを問わずスマートフォン用の外部バッテリーが売れている現状を見ると、製品ニーズは確かに存在する。そして、アップルが他社製のバッテリー内蔵ケースに対して、デザイン的な手本を示そうと考えたことも十分ありえる話だ。

さらに、アップルは次期モデルとなるiPhone 7で、より薄い筐体を開発中ともいわれており、さらにうがった見方をすれば、そのデビュー時に7用のSmart Battery Caseを抵抗なく出すための布石とも考えられなくはない。
 
しかし、バッテリー交換可能な構造すら排除したアップルであるならば、それを補うようなアクセサリは出すべきではなかったと思うのである。

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[筆者プロフィール]
おおたに・かずとし●テクノロジーライター、原宿AssistOn(http://www.assiston.co.jp/) アドバイザー。アップル製品を中心とするデジタル製品、デザイン、自転車などの分野で執筆活動を続ける。近著に『iPodをつくった男 スティーブ・ ジョブズの現場介入型ビジネス』『iPhoneをつくった会社 ケータイ業界を揺るがすアップル社の企業文化』(以上、アスキー新書)、 『Macintosh名機図鑑』(エイ出版社)、『成功する会社はなぜ「写真」を大事にするのか』(講談社現代ビジネス刊)。