ロス五輪日本代表が太宰治墓前で自殺! 新刊文庫新書ピックアップ

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先週の新刊文庫・新書の目玉はこれ!
『田中英光傑作選 オリンポスの果実 さようなら 他』(角川文庫Kindle)。


五輪代表→純愛小説→太宰墓前で自殺


田中英光は早大政経学部在学中の19歳のとき、ボートの日本代表として、第1次ロサンゼルスオリンピック(1932)に出場した。
当時、日本から米国西海岸までは、船で何日もかけて渡る。そのとき、船中で同行した高跳び選手・相良八重(18歳)に淡い恋心を抱いたという。
その甘酸っぱい体験を、恋する相手への呼びかけの形で小説にした『オリンポスの果実』(1940)は、伊藤左千夫の『野菊の墓』と並ぶ純愛小説の代表作として、昭和期に長らく読みつがれたが、近年は新潮文庫版が品切れ状態だった。

小説家としての田中は太宰治の弟子であり、太宰の死の翌年、36歳のときに、三鷹にある太宰の墓の前で服毒自殺したことでも知られる。
五輪代表→純愛小説→太宰墓前で自殺。
日本近代文学史上、こんな派手な経歴もなかなかない。市ヶ谷で切腹した三島由紀夫に匹敵しそうな勢いだ。

その『オリンポスの果実』を含む6篇を、芥川賞作家・西村賢太が選んだ。『オリンポスの果実』以外の5篇は戦後の1948-49年、つまり最晩年の作だ。
西村さんは大正期の私小説家・藤澤清造の〈没後弟子〉として知られるが、そうなる以前から田中英光の研究者としても活動していた。
このセレクションは、『桜 愛と青春と生活』(講談社文芸文庫Kindle)とまったくダブってないので、この2タイトルで田中英光に少し近づくことができる。

小説界から奇書3タイトル


・日本ミステリ「第4の奇書」とされる竹本健治の『匣の中の失楽』(1978→講談社文庫)は新装改版。旧講談社文庫版→双葉文庫版につぐ3度目の文庫化だ。


・いとうせいこうの架空翻訳『存在しない小説』(2013→講談社文庫Kindle
・セルビアの小説家ミロラド・パヴィチの『ハザール事典 夢の狩人たちの物語』(1984→工藤幸雄訳、男性版創元ライブラリKindle・女性版創元ライブラリKindle、)。一字一句同じな男性版と女性版、(タイトル以外で)ただひとつの違いはどこにあるでしょうか?


その他の文学では、
『エオンタ 自然の子供 金井美恵子自選短篇集』(講談社文芸文庫)。ごく初期のものを含む6篇を収録。
・長嶋有『佐渡の三人』(2012→講談社文庫)。親本の題字揮毫はアラーキーだったが、さて、こちらは?


・堀江敏幸『燃焼のための習作』(2012→講談社文庫)
・日本文芸家協会編『現代小説クロニクル2010-2014』(講談社文芸文庫)は、1975年以降40年の日本の短篇アンソロジーシリーズ完結篇。円城塔、磯崎憲一郎、村田沙耶香、小野正嗣、高橋源一郎、高村薫、松浦寿輝、津村記久子、朝吹真理子、鹿島田真希、小山田浩子、瀬戸内寂聴の12人13篇を収録。


先週の新刊文庫・新書は注目タイトル多数!


先週は目を引く文庫・新書の新刊がものすごく多くて、以下駆け足になっちゃいますが、実用書では
・桐山秀樹+吉村祐美『愉しく続ける糖質制限ダイエット』(2012→新潮文庫)は親本で書名の最初についてた〈おやじ必読!〉っていうフレーズを文庫化で削除した。
・枡野俊明(しゅんみょう)『片づける 禅の作法』(河出文庫Kindle)は『人生が豊かになる禅、シンプル片づけ術』(2011)の文庫化です。


文学関係のノンフィクションでは、
・養老孟司+池田清彦+吉岡忍『世につまらない本はない』(朝日文庫)
・山泰幸『誰が幸運をつかむのか 昔話に描かれた「贈与」の秘密』(ちくまプリマー新書)


『酒と戦後派 埴谷雄高人物随想集』(講談社文芸文庫)
・赤木桁平『夏目漱石』(1917→講談社学術文庫Kindle)。来年は漱石歿後100年。
・中村真一郎『芥川龍之介の世界』(1956→岩波現代文庫)。むかし角川文庫で出てました。
・山城むつみ『ドストエフスキー』(2010→講談社文芸文庫)


人文系では
・サンリオキャラをフィーチャーしたシリーズ第6弾。スピノザの『エティカ』(中公クラシックスKindle)超訳に挑んだ『シナモロールの『エチカ』 感情に支配されないヒント』(朝日文庫)
・小川仁志のベストセラー『7日間で突然頭がよくなる本』(2012→PHP文庫親本Kindle


・梅棹忠夫『日本語と事務革命』(1988→講談社学術文庫Kindle
・前野直彬『漢文入門』(1968→ちくま学芸文庫)
・宮下規久朗『しぐさで読む美術史』(ちくま文庫)

 宗教では、
・山形孝夫『読む聖書事典』(ちくま学芸文庫)


『聖書考古学 遺跡が語る真実』(中公新書)
『文語訳旧約聖書』第4巻『預言』(岩波文庫)
・島田裕巳『お経のひみつ』(光文社新書Kindle
・空海『性霊〔しょうりょう〕集』(9世紀→加藤精一訳、角川ソフィア文庫Kindle


 思想関連では、
・カール・レーヴィット『ヘーゲルからニーチェへ 十九世紀思想における革命的断絶』(1941→三島憲一訳、岩波文庫)
・東浩紀『一般意志2.0 ルソー、フロイト、グーグル』(2011→講談社文庫Kindle


・加藤典洋『日本の無思想 増補改訂』(#/2015、平凡社ライブラリー)


も要注意。レーヴィットがこうやって文庫で読めるとは!

 以上、お買い物の参考になれば幸甚です。
(千野帽子)