普段の生活で起きる背中の痛みは、筋肉や関節、神経系のトラブルによるものが多い。しかし、60歳を超えて背中に痛みがあったときは、大動脈瘤破裂の可能性も頭に入れておいた方がいい。
 都内総合医療クリニック院長で医学博士の久富茂樹氏はこう語る。
 「とりわけ、高齢者で高血圧、糖尿病、高コレステロール、さらに喫煙歴があったり、家族に心血管病で突然死した人がいれば、循環器内科などで検査を受ける必要があります。大動脈瘤は、加齢や生活習慣など動脈硬化の進行によって生じます」

 しかし、健康診断で“異常なし”と診断された人が1カ月後に大動脈瘤破裂で亡くなるケースもあることから、久富氏は「検査をするにも注意が必要」と、次のように指摘する。
 「一般的な健康診断などで行われるような一方向からのレントゲン検査では、大動脈瘤は見逃されてしまうことが少なくない。リスク因子がある人は、胸のレントゲン撮影では正面と側面の2方向にしてもらい、一度は心臓超音波、CT、MRI検査などを受けるべきです」

 治療法としては最近、「ステントグラフト」による治療も行われるようになった。人工血管(グラフト)にステントと言われる針金状の金属を編んだ金網を取り付けたものを圧縮し、カテーテルの中に収納したまま使用する。
 「治療にあたっては、腎動脈から大動脈瘤まで1センチ以上の距離があるなどの条件が必要ですが、最近はより難しいものでも可能になっています。しかも、患部を大きく切開することなく治療ができるため、高齢者やリスクの高い人でも安全とされています」(前出・健康ライター)

 先ごろ、東京大学宇宙線研究所の梶田隆章所長が受賞したノーベル物理学賞。遡ること100年前、同賞を受賞したアルベルト・アインシュタインも、腹部大動脈瘤破裂によって倒れ、76歳で帰らぬ人となった。
 アインシュタインといえば、『相対性理論』を独学で学び、量子力学、光電効果などさまざまな研究を通して世界観や宇宙観を変えたと言われる人物。その目覚ましい功績とは裏腹に、私生活では雑巾で顔をふくなど破天荒な一面があったと言われる。
 69歳のころ、手術によって腹部に大動脈瘤があることが分かったが、医療技術の未熟さで適切な治療は受けられなかった。その後、疲労やストレスの蓄積などによって大動脈瘤が破裂し、息を引き取ったのだ。亡くなる瞬間も、枕元には計算式が並ぶ1枚の紙が置いてあったという。

 アインシュタインの例を見るまでもなく、大動脈瘤破裂は大出血を起こすまでに目立った自覚症状がない。一度破裂すれば、約半分の患者しか病院にたどり着けないとされる病。運良く緊急手術を受けられても成功率は5割程度だ。
 そのため、瘤が破裂する前に治療することが原則となる。