国際統合睡眠医科学研究機構 裏出良博教授

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日本は世界でも類を見ない「不眠大国」の一つということをご存じだろうか?

厚生労働省によれば5人に1人が睡眠に悩みを抱え、その数は増加の一途。睡眠障害はうつ病、認知症など精神疾患や、生活習慣病のメタボリック症候群とも関連が深い。

睡眠・覚醒のメカニズムを解明するとともに「よい睡眠をとるにはどうすればいいのか」という研究を進めることが急務となっている。

その睡眠研究を30年続ける世界的研究者、筑波大学国際統合睡眠医科学研究機構の裏出良博教授に話を聞いた。

ヒトも動物もなぜ眠るのかは分かっていない

「睡眠はブラックボックスと言われていたくらいで、まだまだ謎だらけなんや。だいたい何のために眠るか知っとるか?」

裏出教授にいきなりこう聞かれて答えに詰まった。

「体にいい...のでは?」

「体にいいって何をしていると思う? 1日24時間のうちの3分の1も使っているのやで。体のあらゆる部位の再生、回復とか、ホルモンなどの分泌を促すとか、あとは記憶なんかも寝ている間に整理される。でもな、眠ってしまっているからみんな自分に何が起きているかを知らないやろ、こんな重要なことなのに」

実は「コーヒーなどに含まれるカフェインによって目が覚める」ということも、そのメカニズムが解明されたのは、ほんの10年ほど前。

裏出教授がスウェーデンの名門、ノーベル賞を選ぶことでも知れられるカロリンスカ研究所の教授らと共に、カフェインが睡眠スイッチの邪魔をするために目が覚めることを突き止めた。

研究を飛躍的にすすめた睡眠計測システム

この研究を進めるために重要だったのが裏出教授の開発したマウスの脳波を調べ、分析する睡眠計測システム。これなくしては、データ収集、分析といった研究の根幹が遅々として進まなかったのだ。

「正確な睡眠のデータを取るには脳波を測らないといけない。例えば、睡眠の深さとかサイクルは、体の動きだけではとらえきれないんや。それに、マウスは人間と違って"緊張して"とか"明日遠足だから"とかで眠れないってことはないやろ。違う要素でデータが左右されることがないということは、何かが睡眠に効きそうだとなったら、マウスで確認をとることは正確だし重要。なのに、マウスの脳波を正確に測れる機械がなかったから一から作った。町工場とかも一軒一軒めぐって小さいサイズの部品探してな。あとは、測った脳波のデータを紙に印刷していたらものすごい量になって分析どころじゃないから、コンピューターに取り込んで解析するソフトも作って...全部手作りから始まったんや」

その裏出教授開発の睡眠計測システムは今や世界中で取り入れられる国際標準になっている。

不眠大国に幸せな眠りを!

そして、その睡眠計測システムを武器に、今、裏出教授が力を注ぐのがよく眠ることができる「快眠物質」の解明だ。謎だらけの「睡眠」の研究がこのところ脚光を浴びているのは、この快眠物質への注目もあってのこと。多くのメーカーが睡眠に関わる物質を研究、その成分を使った製品の開発にしのぎを削っているのだ。その際、裏出教授との共同研究は各企業にとっても欠かせないとも聞く。

「カフェインが睡眠スイッチを入りにくくするなら、逆にスイッチを活性化することができる食べ物があってもいいはず。昔から食べたり飲んだりしたらよく眠れると言われているものはある。それを一つひとつ確認していくことで、薬ばかりに頼らないで自然な良い睡眠を手に入れるヒントを見つけて、社会に還元したい」

例えば、カフェインが邪魔をする睡眠スイッチを、逆に活性化できるメカニズムに合致するのは清酒酵母。これは80もの食品成分について確認した結果、見事に当てはまり、より深い眠りを示す値が7%上がったという。

また、既に発売されていた食品について調べたこともある。アスタキサンチンと亜鉛が含まれるサプリメントは消費者から「よく眠れる」と反響が出たために、裏出教授が調べたところ、眠りの作用が強いことが分かった。

裏出教授の研究の幅は広く、古川聡宇宙飛行士の協力で、宇宙空間というストレスの高い環境での実験を試みたり、睡眠の実態把握のために脳波計測式の小型睡眠計を開発したりもしている。

「もし、何か睡眠の悩みがあったら、パッと測れる機械が一家に一台、体温計みたいにあってもいい。あらゆる面から良い睡眠を研究して、必要なものは開発して社会に届けるところまで仕上げてこそ研究だと思う。だって、よく眠れるってことは幸せやろ」

この純粋な研究魂が不眠大国ニッポンを救うかもしれない。

裏出良博教授プロフィール
1976年大阪府立大学農学部農芸化学学科卒業、82年京都大学大学院医学研究科博士課程単位取得後退学。同年日本学術振興会奨励研究員。83年医学博士号取得(京都大学)。米国ロッシュ分子生物学研究所客員研究員や大阪バイオサイエンス研究所分子行動生物学部門(研究部長)などを経て2013年から筑波大学国際統合睡眠医科学研究機構分子睡眠生物学教室(教授)。
2015年12月27日(日)18:00〜 TBSテレビ「夢の扉+」に出演予定。

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