悲願のシード権獲得へ。

 上武大は11月後半から12月にかけ、沖縄県石垣島での強化合宿を実施。それを経て、箱根駅伝のエントリーメンバーを決定した。そこまでの取り組みも例年とは異なるものだった。

「10月の予選会終了直後から、『シード権を取るために、練習で妥協しない』と選手には伝えてきました。高いレベルでの練習は故障のリスクを伴います。しかし思い切ったことをしなければ、成長は望めませんし、これまで以上の結果も手にできません。今回、石垣島の合宿に連れていったのは10名のみと、例年と比べてもかなり少ない人数。合宿日数もあえて短くし、短期集中で行ないました。そして、エントリーも最大16名のところを今回は14名。もちろん、あと2名を加えることもできましたが、シード権を目指して戦えるメンバーと考えるとこの14名までだったのです。次に来るべき2人には事情を説明し、納得してもらいました」(花田勝彦監督)

 上武大には2種類のユニフォームがある。部員全員が持っている白地のものと、タイムや戦績など、一定の基準をクリアした選手しか手にできない「プレミアムブラック」と呼ばれる黒地のものだ。箱根を走るメンバーは当然、「プレミアムブラック」を身にまとう。これによりチームの他の部員に対し、誇りと責任が生まれるのだ。上武大駅伝部発足以来、こうした形で選手にプライドを植え付けてきたが、今回の14名はこれまでになく高い基準をクリアした、まさに選ばれし者ということになる。

 過去7回の箱根駅伝は、花田監督が目標を決め、選手がそこに向かう流れだったが、今回の石垣島合宿ではシード権獲得のために、10区間をどのくらいのタイムで走らなければならないのか、そのためにはどんな練習が必要なのかを監督と選手で個別に話し合い、そこから選手自身が目標を立てた。花田監督によれば、それは「指導者と選手の間で血を通わせるためのコミュニケーション」だったという。その結果、すべての選手の役割が明確になった。

「今回、目標を選手たちが考えたことで、責任が生まれました。そして『自分は任された区間で目標タイムを目指す。だからみんなも頑張ってくれ』という気持ちが生まれ、選手間での信頼関係も強固になりました。戦うチームとしての雰囲気が徐々にできあがってきています」

 シード権獲得に向けたハイレベルな実戦練習は12月中旬の千葉県富津市での合宿まで続いた。そして箱根に向けての調整段階に入ったが、仕上がりは上々とのことだ。

 過去最高順位は14位。これまでは序盤で先頭から大きく離され、後方でレースを進めることが多かった。だが今年のチームは東森拓(ひがし もりひろ・4年)、井上弘也(2年)を中心に序盤から他大学のエースクラスと戦える戦力が整いつつある。

「往路を終わって1桁順位にいること。それが理想です。そして復路ではシード争いをする集団の中に入って、その流れの中で最後まで粘り切れれば、目標達成が見えてくるでしょう。今回はエースが牽引力を発揮する、今までの上武大とは違った戦い方ができると思っています」

 箱根駅伝は大きな目標だ。だが、花田監督には「世界で通じるマラソンランナーの育成」というさらに大きな夢もある。そのためには選手たちがよりレベルの高い世界に足を踏み入れ、さらに上を目指す向上心をこの大会で手にして欲しいと考えている。

「シード権(が得られる順位)に上がるとトップの背中がおぼろげに見えてきますし、またこれまでと違った景色が見えるんです。そのためにも結果は重要。シード権獲得を喜びつつ、"もっと上を"という意欲が生まれる大会になればと思っています」

 今年の箱根を走る上武大の選手たちは例年とは違う。誇りと責任のプレミアムブラックのユニフォームをまとった選手が1月3日の東京・大手町でどんな表情を見せるのだろうか。

【profile】
花田勝彦(はなだ・かつひこ)
1971年6月12日生まれ
彦根東高校(滋賀)−早稲田大学−エスビー食品。早大3年時に箱根駅伝の総合優勝を経験。10000m代表として1996年アトランタ、2000年シドニーの2回のオリンピック出場。
2004年1月に引退、同年春に上武大助教授就任と同時に同大駅伝部監督として指導を開始。
2009年第85回大会で上武大を初出場に導き、今年度まで8年連続8回の出場。また全日本大学駅伝にも3度出場している。

加藤康博●取材・文 text by Kato Yasuhiro