「凍死」というと、その字面から寒さで身体が凍ってしまうようなイメージを持つ人も多いでしょう。実際には、寒冷からくる低体温によって死亡することを凍死と呼びます。冬山などに限った話ではなく、都市部においても起こる可能性があります。ここでは、凍死について詳しく見ていきましょう。

低体温症で死ぬこと=凍死


人間の体温は、身体が持つ調節機能によって外気温に関わらず常に36〜37度前後に保たれています。気温が低くなると、体温を保つために血流量を下げて毛穴を引き締めます。さらに寒冷になると、筋肉を引き締めたり、震えを起こしたり、身体を動かすことで熱を発生させる仕組みになっています。

しかし、寒さがこれらの体温調節の限界を超えている、あるいは熱を作り出すだけの体力が残っていない状態では、体温はどんどん低下して身体機能に影響を与えます。これが「低体温症」です。低体温によって自律神経の働きが損なわれると、最悪の場合、心臓の機能が停止して死亡します。

低体温症は、必ずしも冬季や登山時などの寒冷な環境で起こるわけではありません。濡れた衣服による気化熱や屋外での泥酔状態、長時間水に浸かるなどの条件で、夏場や市街地でも発生することがあります。つまり、低温のほかに湿潤、強風、飲酒、疲労、空腹などが低体温を促進させるのです。いくつかの条件が重なることで、誰にでも起こり得る事態と言えます。

凍死に至るまでの経過


凍死するまでの段階は、第1期〜第4期に分けられます。なお、ここでいう体温とは、身体の奥深くの温度である「深部体温」を指します。

【第1期:体温36〜34度】


症状は、震えが止まらないほどの寒さを感じている状態。脈拍・呼吸数が増加し、血圧が上昇します。意識ははっきりしているものの、食欲は減退します。

【第2期:体温34〜27度】


脈拍・呼吸が弱まり、血圧が下降します。皮膚が暗紫色になり、筋肉が痙攣し、身体が硬直します。さらに進むと呼吸困難になって視界が暗く感じます。歩行能力が低下し、意識や感覚も低下します。猛烈な睡魔に襲われて、幻想・幻覚を見る場合も。興奮状態になって暴れたり、衣服を脱いだりすることもあります。

【第3期:体温27〜22度】


血圧がさらに低下し、筋肉が弛緩し始め、尿や便を失禁します。仮死状態になり、蘇生は困難です。

【第4期:体温20〜18度】


死亡している状態です。

災害や登山などでの応急処置


低体温への対処は、まずは体温の低下を防ぐことです。寒くて震えている人がいたら、屋内に収容しましょう。雨・風・雪を避け、湿った着衣・手袋・靴下を乾燥したものに取り替え、毛布や寝袋などで覆います。

意識がハッキリしているならば、温かい甘い飲み物を飲ませましょう。胸に湯たんぽを抱えさせて、温める。湯たんぽがない場合は、ペットボトルにお湯を入れて湯たんぽ替わりにして、心臓付近で抱えさせます。使い捨てカイロなどで手足を温めるのも有効です。

ただし、身体を温める際には注意が必要です。体温が34度まで(第1期)ならば問題ないですが、それよりも低い場合に急激に加温すると、末端の冷たい血液が全身を回り、かえって体温を下げ、低体温症が悪化してしまうこともあります。

登山者のための低体温症防止策


当然ながら、気温が低く、また悪天候になりがちな山間部では、低体温症になるリスクも大きくなります。冬場に限ったことではなく、登山を楽しむ人は下記の注意を守って、自身や仲間を低体温から守りましょう。

●入山する山の天候を調べましょう。悪天候ならば無理をせず中止または延期します。そのためにも日程は、余裕をもって組んでください。

●登山用のウェアは、低体温症を防ぐための工夫が凝らされています。登山時は、単なるスポーツウェアではなく登山用のものを着用し、重ね着することで低体温症の予防になります。また、暴風雨になった時のために、天候が崩れる前に防寒着を着込む必要があります。

●気温が下がっても、歩き続ける(体を動かし続ける)ことで熱を作り出すことができます。そのためには、休みなく行動を続けられる体力が不可欠です。また、歩き続けるには、エネルギーと水分摂取が必要です。エネルギーを枯渇させないために、糖質を多く含む高カロリーな携帯食を持っていきましょう。歩きながら食べられるように、レインウェアのポケットなどに入れておきます。

知識を駆使して事態を乗り切る


山では何が起こるかわかりません。初心者はもちろん、経験のある人でも、状況よっては低体温症やそれに近い状態になってしまうことは十分あり得ます。これは山の難易度の高い・低いに関係なく言えることです。

万一そうした事態に陥っても、知識を持っていれば適切な行動を取ることで最悪の結果を避けられる確率が上がります。とにかく、周囲の人と助け合って命を落とすことだけは避けたいものです。

執筆:南部 洋子(看護師)
監修:坂本 忍(医師)