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(…前編より続く)

●5位-1位
3種の意味を掛け合わせた
今年一番「うまい!」邦題とは?

5位:『バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)』(原題:Birdman or (The Unexpected Virtue of Ignorance))
2015年度の賞レースを最も賑わせた話題作で、たびたび目にすることになった一風変わったこちらのタイトルは原題の直訳。思わず、「このタイトルを正確に言える人は果たしてどのくらいいるのだろうか?」とさえ思ってしまうほど長いものの、見慣れない言葉の並びがかえって目に留まり、観客の興味をそそることは間違いなし。
ただし、ライター目線から言うと、字数制限のある原稿のときに、あまりタイトルが長いと本文を削らざるを得ず、若干悩ましいところではあります。

前編/元宣伝ウーマンが勝手にランキング! 2015年公開作品で印象に残った洋画の邦題

4位:『ローマに消えた男』(原題:Viva la liberta)
イタリアの大物政治家が突然失踪し、その代役として現れた双子の兄弟による“世紀の替え玉劇”を描いた本作。原題の意味は「自由、万歳!」といって、追い詰められた主人公の気持ちを端的に表しているものの、タイトルだけ見ると、コメディ作品のように受け取られてしまう可能性も……。
しかし、このタイトルになった瞬間にミステリアスな空気感を醸し出すことに成功し、イタリアの名優トニ・セルヴィッロの1人2役の怪演をさらに引き立てるタイトルともなっています。

3位:『わたしに会うまでの1600キロ』(原題:Wild)
ある女性がどん底から人生をやり直すために、1600キロもの過酷な山道と砂漠を1人で踏破したという実話が基になっているベストセラー自叙伝の映画化。本国アメリカでは大ブームとなったため、同タイトルである『Wild』と見れば、その本の映画化ということが一目瞭然かもしれませんが、日本人にとっては「ワイルド」と言われるとつい違うイメージになりがち。
この邦題にすることで、女子向けの“自分探し系ムービー”であることがすぐに想像でき、バックパックを背負った主人公が道を歩いて行くメイン画像との相性もぴったりの印象です。

2位:『セッション』(原題:Whiplash)
偉大なドラマーを目指す青年と伝説の鬼教師との壮絶なレッスンを描き、衝撃的な内容と共に話題となった本作。原題の『Whiplash』というのは、映画にも登場する曲のタイトルであり、直訳すると「むちで打つ」という意味でもあります。
劇中のレッスン風景は、まさにむちで打っているような激しさで原題通りなのですが、日本ではこの曲も英語の意味もすぐにわかる人は多くないはず。しかし、『セッション』と聞けば、音楽映画であることも、2人の心のやりとりを意味するセッションというどちらの感じも伝わってくるので、日本人にとってはこちらの方がしっくりきそうです。

1位:『エール!』 (原題:La Famille Belier)
フランスで大ヒットした歌手を夢見る少女と耳の不自由な家族を描いた笑いと涙を誘う感動作は、家族の絆が物語の中心となっているだけに、原題はフランス語で「ベリエ一家」という意味。
しかし、それではこの作品の魅力でもある主人公の少女から溢れ出る青春の初々しさや若さゆえの勢いが伝わらず、どこか地味な感じを受けてしまうことに……。ところが、『エール!』という邦題にすることで、一気に明るい印象が加わり、元気をもらえそうな雰囲気さえ漂ってきます。
そして、なんと今回はフランス語の「曲(Air)」と「翼(Aile)」、そして英語の「応援(Yell)」という2つの言語で3つの意味が込められているだけでなく、それらすべてが作品の内容ともちゃんとリンクしており、色んな意味で「うまい!」と思った邦題です。

以上、10タイトルをご紹介しましたが、みなさんの印象に残っているタイトルは何ですか? これからは映画のタイトルを見るときに原題と邦題を比較してみると、それぞれのタイトルに込められた意味に面白い発見があるかもしれません。ぜひ、作品選びの参考にしてみてください。(文:志村昌美/ライター)

志村昌美(しむら・まさみ)
映画宣伝マンとして洋画や邦画の宣伝に携わったのち、ライターに転向し、現在は海外ニュースや映画紹介などを中心に執筆。イタリアとイギリスへの留学経験を経て、日・英・伊・仏のマルチリンガルを目指すべく日々精進中。ハリウッドの大作よりも、ヨーロッパ系の小規模な作品の方が気になりがち。

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