『イスラーム国』アブドルバーリ・アトワーン 集英社インターナショナル

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 2014年6月29日、カリフ制イスラム国家の樹立を宣言したイスラム国(IS)。いまやこのテロ組織が世界中を恐怖に陥れているのは周知の通りです。

 1996年には、アフガニスタンに潜伏中のウサーマ・ビンラーディンへの単独インタビューを行ったことでも知られる、アラブを代表するジャーナリストのアブドルバーリ・アトワーンさんは近著『イスラーム国』のなかで、ISについて、「行政、軍事、政治、メディア、治安など様々な分野の『頭脳』を結集した集団」と指摘した上で、プランニングとリサーチに長けており、領土支配と拡張を目指す、もはや事実上の国家であると語ります。

 実際、ISは、シリアとイラクにまたがる600万人の永住民が住む広大な領域を支配し、諸機関を管理。シリア東部と北部の油田と精油所を制圧、石油の販売で莫大な収入を得るほか、純金、マクスと呼ばれる税金、誘拐で得た身代金、考古遺物の盗掘と密売などを財源とし、潤沢な資金力を誇ります。

 同書は、アトワーンさんの綿密な取材と分析によってISとは一体何なのか、その構成や内部の運営方法、カリフ(指導者)のアブー・バクル・バグダーディーについて、現在の姿となるまでの詳細な経緯、サウジアラビアをはじめとする諸国との複雑な関係性などを解説、ISの全貌を明らかにしていきます。

「イスラーム国の指導者とイデオローグは、自らを『カリフ制という新たな帝国をムスリムが住む地に打ち立てる者』であるとしている。イスラームの一四〇〇年の歴史のうち一三〇〇年間、イスラーム国家はカリフ制によって統治されていたのは事実である。一九二二年、オスマン帝国の崩壊によりカリフ制は終焉を迎える。このように考えると、イスラーム国がカリフ制を再興する力を持っている可能性があるということは、決して不自然ではない」(同書より)

 アメリカの無計画な介入政策のみならず、地域社会の崩壊や中央政府の腐敗、西欧の極右の台頭、宗派対立の激化など、ISの誕生を導いたさまざまな要因。ISの戦闘員約10万人のうち30%以上が外国人であるというほど、疎外と差別に悩むムスリムの若者たちや無法と弾圧に苦しんだ人々など、世界各地からISに参加する者が後を絶たない理由。フェイスブックやツイッターなどのSNS、YouTubeを巧みに利用した心理戦の具体的方法。ISとは何なのかを理解する上で、知っておきたい事実が次々と分析されていきます。

「イスラーム国の領域は、今後数年間、対戦国との戦闘の推移により拡大と縮小を繰り返すであろうが、彼らが存続し拡大する可能性は、壊滅の可能性よりも大きいように思われる」(同書より)というアトワーンさん。

 日毎に強まる脅威を前に、まずはISとは一体何なのか、理解しておく必要があるのではないでしょうか。