腰痛の改善の新しい考え方〜治療の流れは「生物心理社会的モデル」に大きく転換

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 なぜ腰痛が国民病となっていて、なかなか治らない人が多いのか? それは医療者側からしても大きな課題である。医療技術は、ここ10年で劇的に進化しているが、腰痛の発生率や改善率は、あまり変わっていない。それには患者側だけではなく、医療者側にも問題がある。患者も医療者側も、考え方を変えなる必要がある。

生物医学モデルから生物心理社会的モデルへ

 近年、医療の世界、特に腰痛治療は、大きな転換点を迎えている。今までの「生物医学モデル(bio-medical model)」という考え方から、「生物心理社会的モデル(biophsychosocial model)」という考え方にシフトしているのだ。

 今までは腰痛を、骨の並び(画像所見)、筋肉、姿勢などの人間を構成する組織や人間工学的なバイオメカニクスの考え方にフォーカスし、解明に努めようとしていた。しかし、それだけでは腰痛治療に大きな効果を認めることができずにいた。さらに、腰痛の約85%は画像所見では異常が見つからない「非特異性腰痛」であることからも、生物医学モデルだけで考えることは限界があると考えられている。

 そのため、心理面・社会面による原因を配慮することが、腰痛を理解するのに重要だと考えられるようになってきた。心理面・社会面による原因とは、ストレスや不安、仕事への満足度、痛みへの間違った恐怖や考え方など多岐にわたっている。

 例えば、腰痛が長引いてしまう(慢性化)してしまう原因として「痛みへの恐怖」がある。ぎっくり腰になると、歩けなくなるほどの痛みを伴う。ひどい場合は、数日間、ベッド上で生活を強いられたり、入院をするケースもある。その時の「痛みの恐怖」が様々な原因によって、ぎっくり腰が完治したあとも脳の中に残ってしまう。その記憶にせいで、動くことに恐怖を感じ、過度に腰を守るような間違った身体の使い方となってしまったり、過度な安静習慣が身についてしまうことになる。そして、さらに腰痛が悪化してしまうという。

 これを防ぐためにはどうしたらいいのか? 重要な役割を担っているのが、以前も述べたように医療者のマネージメントだ。急性腰痛(ぎっくり腰)を発症した時に、正しい情報やポジティブな態度を患者に向けることで、患者は痛みや腰痛への恐怖が少なくなり、快方に向かうことが多い。

 もし、「この骨と骨の間が狭いから痛いんですよ」や「これはもう手遅れですよ」などと脅迫じみた情報を患者に与えてしまうと、それが患者の脳にずっと残り、痛みや動くことへの恐怖となり、腰痛は慢性化に向かう。

 また、社会面の原因としては、職場環境も重要だと言われている。これを海外では「ブルーフラッグ」と呼んでいる。具体的には、肉体労働、満足度の低い仕事、職場の社会的支援不足、ストレスの多い仕事、労働環境や作業内容の変更が行なわれない、労使間のコミュニケーション不足などが挙げられる。そんなことまで腰痛の原因として考えないといけないのかと思われるかもしれないが、それほどに腰痛というのは複雑なのである。

腰痛をもっと複合的なものと捉えること

 このように、腰痛を考えるには、「腰の骨が狭くなっている」「筋肉が弱くなっている」といった解剖学的、運動学的な視点だけではなく、心理面・社会面などの一見すると医療機関とは関係ないような視点を持つことが重要である。そのことを患者も医療者も再確認する必要がある。これは欧米では一般化している考え方だ。日本でも腰痛をもっと複合的なものと捉え、さまざまな視点から多角的に考えるべきだ。考え方自体を変えないと、これから先も腰痛はなくならないかもしれない。

 よって、医療者側は心理面・社会面の因子が腰痛に関連しているということを頭に入れて、検査、治療、マネージメントを行っていく必要がある。患者は、医療機関で治療を受けるだけでなく、自分の周りの環境を見直すことから腰痛を改善できるかもしれない。それは医療機関を受診するのを同じくらい重要なことである。


三木貴弘(みき・たかひろ)
理学療法士。日本で理学療法士として勤務した後、豪・Curtin大学に留学。オーストラリアで最新の医療、理学療法を学ぶ。2014年に帰国し、現在は東京都で理学療法士として医療機関に勤務。その傍ら、一般の人に対しても正しい医療知識をわかりやすく伝えるために執筆活動にも力を入れている。執筆依頼は、"Contact.mikitaka@gmail.com"まで。