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既婚者の中にも、自分だけの趣味や時間を大切にしている方は多いのではないでしょうか。とはいえ、夫のこの趣味だけはどうしても許せない、けんかの勢いで夫の趣味のコレクション(アニメグッズやCDなど)を勝手に捨ててしまった、なんて方も少なくないようです。

○窃盗罪や器物損壊罪が成立する可能性も

しかし夫婦間といえど、夫の物に何をしてもよいわけではありません。パートナーの同意なく勝手に壊したり処分したりしてしまうと、窃盗罪や器物損壊罪が成立する可能性があります。

窃盗罪であれば、親族間の犯罪に関する特例(親族相盗例)があり、刑が免除されます。それに対し、器物損壊罪は親族相盗例の対象外のため、理論的には刑事責任を問うことは可能です。

ただ、もっとも、器物損壊罪は親告罪といって、物を壊す等をされた相手からの告訴がないと起訴ができない犯罪なので、通常は大きなけんかになったとしても告訴までは至らなかったり、警察に通報しても夫婦間でよくよく話し合うよう諭されたりしますから、妻が現実に刑事処分を受けないことも少なくはありません。

もし妻が捨ててしまったものが、結婚後に家計費から購入した夫婦の共有財産だったとしても、妻だけの財産ではなく、夫のものでもある以上、器物損壊罪は成立しえます。

また、民事的にも、妻の行動は、妻が故意で夫の物を持っているという権利を侵害して損害を発生させていますので、夫がそこまでやるかどうかは別としても、夫に対し損害賠償責任を負う可能性が高いと考えられます。

○離婚が認められるとは限らない

けれども、一番の問題は、このような妻の行動は夫の妻に対する愛情や信頼を崩すきっかけとなる行為で、現実に夫婦仲が悪くなったり、中には離婚を考えたりする人もいるということ。大切なものかどうかはそれぞれの価値観によりけりで、ある人にとっては宝物でも、他の人はガラクタと思うかもしれません。でも自分の気持ちをわかってくれない、尊重してくれない……そんな夫を心から許せますか? 怒るのは、もし妻が被害者になった場合でも変わらないのではないでしょうか。

ですが、怒った夫が「許せない! 離婚だ!」と思ったとしても、離婚が認められるとは限りませんから、一度冷静になりましょう。

妻が離婚に納得して応じるのなら、それが例え「一度アニメグッズを勝手に捨てられたから」という理由であっても特に問題はありませんが、妻が離婚に断固応じないのなら、最終的には裁判で離婚請求をしなければいけません。

そして、裁判で離婚を認めてもらうには、民法で定める5つの離婚事由に該当すると認められることが必要です。それは、(1)不貞行為(配偶者以外の異性と自分の意思で肉体関係を持つこと)、(2)悪意の遺棄(夫婦の同居・協力・扶助義務を正当な理由もなく果たさないこと)、(3)3年以上の生死不明、(4)回復の見込みのない強度の精神病、(5)その他婚姻を継続しがたい重大な事由の5つです。

今回は、婚姻を継続しがたい重大な事由にあたると言えるかが問題です。これは、簡単にいえば夫婦仲が破綻して関係修復の見込みがない状況をいうのですが、お互いの努力によって改善する見込みがあるケースでは離婚は認められません。捨てられた物、経緯や事情によるでしょうが、一度や数度趣味のものを捨てられてしまったとしても容易に離婚は認められないでしょう。まずは、夫婦間でよくよく話し合い、解決策を探るのが先決です。

しかし、このような妻が勝手な行動を繰り返し、何度話し合っても改善の見込みもなく、別居となり、夫婦仲も冷めてしまったというのであれば、裁判でも離婚が認められることはありえるでしょう。

夫婦といえど、全く別の人間。価値観も育った環境も性格も違う二人が人生をともにするのですから、衝突することも、お互いに失敗することも、後々後悔することもいくらでもあるのが当然です。二人の間に起きえるたくさんの問題や溝に直面したときには、お互いに尊敬、尊重しあって、よくよく話し合って解決策を探り、信頼関係を深めていくことが夫婦として必要で、裁判でもそのように考えられています。

夫側も許しがたい気持ちはわかりますが、そのようなプロセスもないままに離婚を請求しても、裁判所は簡単に離婚を認めません。

妻側も、罪に問われなくても、また離婚が直ちに裁判では認められないとしても反省すべき点はあるでしょう。捨ててしまった物が違法物や通常の夫婦にとって許しがたいようなものならともかく、アニメグッズやCDなどであれば、(仮に妻の趣味や価値観に全くあわなかったとしても)買うことも集めることもそれ自体は法律的には何の問題もないと言わざるを得ません。

このようなことが続けば夫婦仲は確実に冷めていくでしょうし、いつか犯罪に問われる可能性もゼロとはいえません。どんな理由であれ、勝手な行動に出る前にその気持ちを夫に素直に話してみるべきです。

話し合った末にどうしてもお互いに譲れない、受け入れられないとなってから離婚を視野に入れても決して遅くはありません。まずは冷静に夫婦間で話し合いをしてみましょう。

※写真は本文と関係ありません

<著者プロフィール>
正木裕美(まさきひろみ)
愛知県出身。愛知県弁護士会所属。男女トラブルをはじめ、ストーカー被害や薬物問題、ネット犯罪などの刑事事件、労働トラブルなどを得意分野として多く扱う。身内の医療過誤から弁護士の道へと進む。2012年には衆議院選挙に愛知7区より日本未来の党の公認候補として出馬し、「衆院選候補者ナンバーワン美女」とインターネットや夕刊紙で大きな話題を呼んだ。

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●アディーレ法律事務所

(アディーレ法律事務所編)