2019年ラグビーワールドカップ(W杯)に向けて日本代表を率いる指揮官の人事が難航していたが、先週になって陣容が見えてきた。来年2月からスーパーラグビーに参戦する日本代表に準じるチーム「サンウルブズ」の指揮官には元ハリケーンズ(NZ)のヘッドコーチ(HC)、マーク・ハメット。そして、 日本代表のHCにはオールブラックスと日本代表の両方でキャップを持ち、昨季ハイランダーズ(NZ)を初優勝に導いたジェイミー・ジョセフが就任する見通しとなった。

 前任のエディー・ジョーンズHCが、2015年のラグビーワールドカップ終了後に退任することを発表したのは8月25日のこと。ジョーンズは大会終了後、ストーマーズ(南アフリカ)の指揮官に就任したが、一転、11月にイングランド代表HCに就任し、世界を驚かせた。一方で日本代表もサンウルブスもHCは空席のままだった。

 もともと、ジョーンズはサンウルブズの「ディレクター・オブ・ラグビー(強化責任者)」も務めていた。そのため、大方の予想ではワールドカップ終了後も、ジョーンズが日本代表とスーパーラグビーチームの両方に関わると見られていた。

 だが、ジョーンズは日本を去った。そのため、平尾誠二理事やラグビーワールドカップ2019日本代表戦略室長・薫田真広氏、岩渕健輔ゼネラルマネージャーら6人からなるワーキングチームが後任探しに奔走。日本ラグビー協会の坂本典幸専務理事は「(日本代表とサ ンウルブズの指揮官は)同じ人が望ましいが、そうならないかもしれない」と述べていた。

「世界と日本を知る指揮官」という条件をクリアしている人材はそういない。本命視されていたのは現パナソニック監督で、スーパーラグビーでクルセイダーズ(NZ)を5度の優勝に導き、オーストラリア代表HCの経験もあるロビー・ディーンズ。しかし、現在56歳のディーンズは、スーパーラグビーにも国際舞台にも戻る意思はなかったようで、口説き落とすことはできなかった。

 サンウルブズのスーパーラグビー参戦は日本代表強化が目的の一つであり、来年の2月末からリーグ戦は始まる。早く指揮官を決めないといけないが、日本代表と連携を取ることができなければ意味はない。時は刻々と進んでいった。サンウルブズに関する記者会見は12月1日と噂されていたが、21日にずれ込んだ。

 そして、結局は冒頭で書いたとおり、サンウルブズはハメット、日本代表はジョセフという元オールブラックスの2人で落ち着くことになったようだ。

「候補者は複数いる」と坂本専務理事は言うものの、契約がまとまれば、ハメットの就任は21日の記者会見で発表されるのではないかと推測されている。ハメットは、現役時代はHO(フッカー)。1996〜2003年までクルセイダーズでプレーし、3度のスーパーラグビー優勝を経験。オールブラックスこと、ニュージーランド代表としても29キャップを誇り、1999年、2003年のW杯に出場している。現役引退後は、ディーンズ氏の下でクルセイダーズのアシスタントコーチを経て、2011〜14年までハリケーンズ(NZ)のHCを務めたが、9位、8位、11位、7位と芳しい成績を収めることはできなかった。

 ただ、ハメットをよく知るニュージーランド育ちの日本代表SO(スタンドオフ)小野晃征(サントリー)はこう評価する。

「友人の知り合いで高校時代から知っていますが、紳士でストレートに話す人。スーパーラグビーで連覇も経験して、勝つ文化も知っている。接しやすい人です」。

 まだ43歳と若く、スーパーラグビーの舞台でリベンジしたい気持ちもあろう。「日本を知る」という条件を満たしているとは言えないが、日本人コーチも入閣させれば、その点はクリアできるのではないか。

 一方、日本代表のHCには、現段階ではどうやらジョセフが第一候補のようだ。「優先順位を付けて交渉にあたっている。年内には決めたい」(坂本専務理事)と言うように、順調に進めば、年内または年明け早々に発表があるかもしれない(ジョセフは2016年までハイランダーズの契約が残っているため、その部分をクリアする必要はある)。

 ジョセフは、現役時代はLO(ロック)、FL(フランカー)、そしてNO8(ナンバーエイト)でプレー。フィジカルを武器にオールブラックスとしては20キャップを誇り、1995年のワールドカップでは準優勝を経験した。1996年に来日し、2002年までサニックス(現・宗像サニックス)でプレーし、日本代表としても1999年のW杯に出場、9キャップを持つ(当時は今と違って、2カ国の代表選手になることができた)。

 選手引退後、ITM杯(NZ国内のプロリーグ)のウェリントン代表やマオリ・オールブラックスのHCを歴任し、2011年にSH(スクラムハーフ)田中史朗(パナソニック)が所属するハイランダーズの指揮官に就任した。しかし、2011年は8位、2012年は9位、2013年は14位と低迷。それでもジョセフが首を切られなかったのは、人間性が評価されてのものだろう。2005年に三洋電機(現パナソニック)でもプレーしたトニー・ブラウンがBKコーチに就任してパナソニックのスタイルを一部持ち込むと、2014年シーズンは6位、2015年シーズンは4位と順位は上昇。2015年はプレーオフを制して、ハイランダーズは初の優勝を成し遂げた。

 2014年10月末、ジョセフはブラウンとともに、宮崎で行なわれていた日本代表合宿の視察にも訪れていた。関係者によると、細かいテクニックや戦術の指導に優れたというタイプではなく、チームを鼓舞し、まとめることに長けたコーチであるようだ。現にSH田中は昨年、初優勝した後に「ジェイミー(ジョセフ)という熱い指揮官がチームをまとめてくれました」と指揮官を称えていた。W杯を指揮した経験こそないが、選手としては2度出場しているし、指導者歴は豊富だ。また、日本語も堪能で知日家である点は有利に働くだろう。2019年W杯に向けての強化担当者の1人、薫田氏とはまさしく「同じ釜の飯を食った仲」であることも心強い。

 いずれにせよ、ジョーンズHC時代のオーストラリア路線から一転、2007年、2011年ワールドカップを率いたジョン・カーワン時代のように、サンウルブズと日本代表はハメット‐ジョセフのニュージーランドラインとなると思われる。スーパーラグビーの初戦は来年の2月27日、日本代表の初戦は来年6月となる見込みだ。ラグビーへの注目度は4年前と比較にならない。新指揮官は大きな期待がかけられると同時に、厳しい視線にさらされることになるだろう。

斉藤健仁●文 text by Saito Kenji