上武大にとって、8度目となる箱根駅伝が目前となった。

 目標は10位以上に与えられる来年度大会のシード権獲得。過去7回、跳ね返されてきた分厚く、そして高い壁に今大会も挑む。

「もちろん簡単な挑戦ではありません。しかし12月に入ってから選手の意識や練習の達成度が上がってきており、少しずつではありますが、手応えを感じています。今は1日ずつその可能性を上げていく毎日です。その確率を30%程度まで上げられればと考えています。野球でも3割打者になれば、チャンスをモノにできますから」

 花田勝彦監督はこう話す。

 駅伝に限ってみれば、今季の上武大はここまで決して順調な歩みではない。6月の全日本大学駅伝予選会は落選。10月の箱根予選会も通過ラインギリギリの10位とまさに薄氷を踏む思いで出場権を手にしている。

 だが、花田監督は今年のチームに例年にはない手応えを感じているという。それは「エースの可能性」だ

「これまでは核となる選手がいても、他大学のエースとは互角に戦えないことも多かったのですが、今年は戦える可能性を秘めた選手がいます。彼らは箱根予選会でも私の想定以上の走りをしてくれました。本戦では序盤で流れを作り、上位をうかがう位置でレースを進めることが何より大切です。その意味でエースの成長は頼もしく思っています。今大会はイメージに近い試合運びができるのではと期待しています」

 まず、名前が挙がるのが東森拓(ひがし もりひろ・4年)だ。

 入学時から潜在能力を高く評価されていた選手である。しかし故障が多く、走れない時期が長く続いていた。2年生で初めて箱根路を踏んだが、4区区間18位。この直後、思うように走れないもどかしさと、自分への不甲斐なさからチームを離れ、昨年度は大学を休学し、走ることから離れた。

「スポーツをしている以上、狙うのは常に1番。そのこだわりが強かったので、初めて走った箱根の結果で『自分はもう上にいけない』と感じてしまったんです。その後、時間をかけて考え直し、1年後、チームに戻ることにしました。自分が速くなることはもちろん、チームのためにも力になりたいと考えるようになったことが2年前からの変化。自分が実家に帰っても、チームのみんなが定期的に連絡を取ってくれたことに感謝しているんです。これから走りで仲間に恩返ししていくつもりです」

 チームに再合流後は花田監督と「故障しない体づくり」をテーマに練習に取り組んできた。その成果もあり、継続したトレーニングを積んだ今季は5000mで自己ベストを大きく更新し、箱根予選会(20km)でもチーム最速の59分53秒。狙った試合を外さない集中力、そして大舞台でも物怖じしない性格を備えており、まさにエースと呼べる存在だ。

「東はレースで自分の能力以上の力を発揮できる選手。それが故に故障しやすいので、私がかなり抑えながら走らせています。今年の最大の目標である箱根では、これまで貯めてきた力をしっかり発揮できるはず。どんな走りをするか、私も楽しみにしています」(花田監督)

 そしてもうひとり、上武大にはスペシャルな存在がいる。日本学生選手権1500m覇者の井上弘也(2年)だ。圧倒的なスピードが武器で、この種目ではすでに日本屈指の存在。だが井上も東同様、箱根には苦い思い出がある。

「前回は1区で19位。もちろん同じ区間でリベンジしたい気持ちはありますが、どこを走るにしても、チームの目標であるシード権につながる結果を残さないといけないと思っています。それがチームのためであり、自分のため。前回、箱根で失った自信を取り戻すためにも、結果が必要なんです」

 前回の箱根後、井上は負けた悔しさに打ちひしがれるだけでなく、同走した他大学のエースと力量差があったことを冷静に受け止め、それを埋めるために必要なことを考えながら1年間競技に取り組んできた。

「今季、スピード練習の質は格段に上がりました。そしてレースの運び方も変わったと思います。以前は自分の力を過信し、実力以上の結果を求めていましたが、今はレースの流れを見ながら、自分の力を出し切る最善の策を考えながら走れるようになりました」

 その特性を考えれば、主戦場はやはりトラック。そのことは本人も花田監督も認める。だが「長い距離は向かないのでは」という周囲の声への反骨心が井上を箱根へと突き動かしてきた。その変化を花田監督も感じ取っている。

「今年はロードでも安定感が出てきました。スピードランナーではありますが、箱根予選会も私の想定を上回る結果で走っていますし、計算が立つ選手になったと思います。今回は彼なりの思いを持って挑むことになりそうですが、東同様、こちらも私が楽しみにしている選手です」

 他の有力選手では前回5区を走った森田清貴(3年)は今回も山上りが濃厚。前回3区の坂本佳太(2年)、同9区の山岸塁(4年)も主力として名を連ねる。この3名も例年であればエースと呼べるだけの力を備えており、上位陣のレベルアップは確実に進んだ。彼らがチームの牽引力となる。

「この主力選手たちがチームにどこまで勢いを与えてくれるかがカギになります。未知数な部分もありますが、同時に私は可能性も感じているんです」

 彼らへの期待からか、花田監督の言葉も自然と熱を帯びる。
(つづく)

加藤康博●取材・文 text by Kato Yasuhiro