「英才教育」を受けた子どもは、犯罪者になる確率が3倍! “知識先取り”の危険性とは

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『グローバル社会に生きる子どものための-6歳までに身に付けさせたい-しつけと習慣』の著者で、日本と欧米の優れた点を取り入れたしつけを提唱している平川裕貴です。

あまりに酷い日本の「貧困率」、ひとり親の場合は世界トップクラスという現状

最近、教育を経済学の立場から考察する本が出版され話題になりました。その中で、幼児教育に時間とお金をかけるのが一番効率的だという調査結果が紹介されています。

そう聞くと、幼児期から子どものお尻をたたいて「勉強しなさい!」と言い続けてきた教育ママは、「してやったり」と思うかもしれませんね。

ところが、幼児期からの英才教育には大きな落とし穴もあったのです。

今日は、知識偏重の早期教育がもたらす弊害を、米ボストン大学のピーター・グレイ教授の研究をもとにお話したいと思います。

読書・算数で逆転! --ドイツ政府幼児英才教育の検証結果

英才教育については、随分前から各国で検証されていたようです。例えば、1970年代にドイツ政府が、“お勉強中心”の幼稚園と“遊び中心”の幼稚園の子ども達を、長期にわたって比較した調査があります。

その調査では、“お勉強中心”の幼稚園の子ども達は、最終的には“遊び中心”の幼稚園の子ども達より読書や算数で劣り、しかも、社会性や感情面でも周りとうまくやっていくことができないということが明らかになりました。

このことから、ドイツ政府は、幼稚園に“遊び”を多く取り入れる方針に回帰したそうです。

犯罪者になる確率に大きな差--アメリカ大規模調査の結果

アメリカでも同様の調査が行われています。

その中の一つは、レベッカ・マーコン氏による調査で、主にアフリカ系アメリカ人の貧困家庭の子ども達対象に行われました。

その結果、“知識中心”のプリスクールと“遊び中心”のプリスクールでは、最初は“知識中心”の子ども達の成績が“遊び中心”の子ども達より上回りました。
ところが、4年生後半には逆転してしまったのです。

また、1967年ミシガン州の貧困地域でデビッド・ウエイカート氏らによって行われた実験があります。

ここでは、“遊び中心”の伝統的な保育園と、伝統的だが“大人も介入”する保育園、そして、ワークシートやテストで読み書き算数などを教える“知識中心”の保育園の3つに分けて調査しました。
この調査では、家庭でも保育園と同じような姿勢で接するように親に指導をしたそうです。

結果は、他の調査と同様、“知識中心”の保育園の子ども達が最初は優位だったものの、すぐに差はなくなりました。

この調査は、さらに子ども達が15歳になった時と23歳になった時まで追跡調査をしています。
これらの年齢において、知的な学習達成度にはさして違いはありませんでした。

ところが、社会性や情動面の特徴に大きな違いがあったのです。

15歳では、“知識中心”のグループが不正行為を行う確率が、そうでないグループの2倍、さらに驚くべきことに、23歳では、犯罪者になる確率が、他の二つのグループの13.5%に対して39%、約3倍も多かったのです。

子どもにとってプラスになる幼児教育とは?

アメリカの調査は、主に貧困層を対象とした調査ですから、すぐに日本の子ども達にも当てはまるとは言えないかもしれません。

けれど、この結果は、実は筆者も昔から危惧していたことの一つでした。

筆者の場合は英語教育がメインになりますが、幼児期から読むことや書くことを教え込もうとする親が少なからずいました。いわゆる学校の先取り教育です。

そうすると、確かに学校で習い始めの頃は、テストの成績は良いのです。けれど、その時点で、子どもは「自分は勉強しなくてもできる」と思い込んでしまいます。
知っていることばかりだからと真面目に授業を聞かなくなり、気がつけば周りに追い越されているのです。

しかも知識偏重の教育を求める親の中には、子どもに遊ぶ時間さえ与えない人もいます。「遊ぶ暇があったら勉強しなさい!」と言うのです。

このような教育を受けた子どもは、幼児期に人と交わる訓練ができていませんから、協調性や人に対する思いやりなどの社会性が育ちません。
また感情のコントロールができないことも多く、人とうまく関わることができずに、仕事も長続きしないのです。

最近では、学習面の知識を詰め込むより、遊びなどを通して、社会性や情動面を育てる方が、良い成績につながるという研究もあります。

子どもにとってプラスになる幼児期の英才教育とは、頭(知識)だけではなく、心も身体もバランスよく育てることが大切。「よく遊び、よく学べ」なのです。

・Early Academic Training Produces Long-Term Harm