196cmの長身から放たれる高速サーブは、時速220km台を何度も記録し、ときには時速230km以上を叩き出して、目にも止まらない速さでテニスコートに突き刺さる――。

 ワールドテニスツアー屈指のビッグサーバーであるミロシュ・ラオニッチは、類まれな才能を開花させて、2013年8月に、カナダ人男子として初のトップ10プレーヤーになった。14年ウインブルドンでは初めてベスト4に入り、15年5月には自己最高のATPランキング4位を記録した。

 だが、今シーズンを振り返るとATPサンクトペテルブルク大会でのツアー優勝1回だけにとどまり、ラオニッチ本人が満足のいく戦いはできなかった。14年シーズンは8位フィニッシュだったが、15年はトップ10をキープできず14位に終わり、ATPワールドツアーファイナルズの2年連続出場もならなかった。

「確かに厳しい1年だったね。15年シーズンのスタートはよかったけど、足をケガして、フレンチオープンを欠場し、手術(右足つま先の神経修復手術)をしたため、なかなかいい状態で試合ができず苦労した。一番大きな問題は、自分自身の健康を保てなかったこと。自分の体を保てれば、自分のテニスのレベルを維持できるはずだ」

 ラオニッチの失速の一方で、ノバク・ジョコビッチ(ATP1位)、アンディ・マリー(同2位)、ロジャー・フェデラー(同3位)、ラファエル・ナダル(同5位)の、いわゆる"テニスのBIG4"が、依然としてツアーを支配した。

「現世代の偉大な選手ということだけでなく、ノバク、ラファ、ロジャーの3人は、テニス史上における最高の選手たちだと思う。ふつうの選手は1年のうち短い期間にいいテニスを見せることができるけど、とりわけこの3選手は、ほぼ10年間安定した成績を残しているからね。同じ時代に彼らと競えることは素晴らしいことだし、尊敬もしているよ。

 同時に、彼らを倒す方法を見つけなければならないし、自分がより良いテニスをしてさらに進化しなければいけない。大事な場面でどういうプレーができるかが、一番重要だね。14年シーズンは大きな大会で重要な局面を経験し、自分の力になった。でも、残念ながら15年は、ケガでそういう試合ができなかった。いつでもコートでプレーするすべてのことから学べる機会があるものだ。自分にとっては大きなチャレンジだけど、ワクワクもしているんだ」

 24歳のラオニッチ(12月27日に25歳になる)は、自分より1歳上の錦織圭と、US(全米)オープンやウインブルドンなどで対戦し、試合は必ずと言っていいほどフルセットの好試合になり(対戦成績は、ラオニッチの2勝5敗)、いいライバル関係を築いている。

「楽しんでいるよ。対戦する時はお互いいいプレーができて、今までも大事な局面である決勝や準決勝、そしてグランドスラムで対戦してきた。いつも本当にエキサイトするね。競技者という部分だけでなく、彼のテニスを見るのも楽しいし、お互い向上できるし、(サーブが武器の自分とリターンが得意の錦織では)プレースタイルのコントラストもあって、楽しめる要素もあるんだ」

 同世代の錦織とのライバル関係を楽しみながら、ジョコビッチやフェデラーらを破って、新しい歴史を作りたいという野望をラオニッチは抱いている。

「ベストプレーヤーたちと競い合う中で、自分たちの方が若いから、時間の流れを自分たちのアドバンテージにできる。ランキングをここまで上げてきたし、ノバク、ロジャー、ラファ、マリーに対して今より向上するためには何をすべきかを学んで、特にグランドスラムで安定した成績を残したい」

 上の世代が衰えないと同時に、下の世代からの突き上げもある。19歳のボルナ・チョリッチ(44位)や、20歳のニック・キリオス(30位)、18歳のアレクサンダー・ズべレフ(83位)といった若い選手たちの台頭もあり、ラオニッチの競争心をさらに刺激している。

「彼らが出てきて、おもしろい時期だと思う。いいプレーをして、経験を積みつつある。彼らが上達するのをチェックしているし、ここ数年でどうなるか楽しみだよ」

 15年シーズンは力を十分に出し切れなかったラオニッチは、1月3日に開幕する16年シーズンを心待ちにしている。

「今年、改めて学んだことは、まずは健康であること。そしてグランドスラムで大きな結果を出したい。15年は残念ながらあまりいい状態で戦えなかったので、16年は巻き返したいね」

 ラオニッチには、特に力を注ぎたい思い入れのある大会があると言う。

「自分には6つの優先事項がある。グランドスラム4大会、トロントでのマスターズ1000・カナダ大会(ラオニッチの母国開催で偶数年はトロント、奇数年はモントリオールで開催される)、これは自分にとっては本当に大切な大会なんだ。そして、リオデジャネイロ・オリンピック。最終的には、ロンドンでのワールドツアーファイナルズに行くことが大きな目標になっていくと思う」

 来シーズンのラオニッチは、いったい何本のサービスエースを打ち込んで、ライバルたちを圧倒していくだろうか。彼は、「トップ10に戻る自信はもちろんある」と力強く語る。その言葉を、再浮上を目指す逆襲宣言と受け取った。

神 仁司●文 text by Ko Hitoshi