新たな「規制」はドローン産業に「成長」をもたらす
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日本にもドローンビジネスの商機がみえ始めた。
政府は2015年12月10日、改正航空法を施行し、それによってドローンを含む無人航空機に対する新しい規制が加わった。規制が敷かれたことで、ドローンという新しい産業の芽を摘んでしまうのではないかと危惧する声もあがっているが、ぼくはそうは思わない。
ドローン大国カナダ
これまで、海外のドローン関連スタートアップのビジネスモデルや活用事例、それらを取り巻く各国の規制などを数多く検証してきたが、そこから導き出された結論は、「適切な規制が整備されることでドローンの商業利用が急速に進む」ということだ。つまり、規制が敷かれることによってビジネスが成長する素地が整うのだ。
ここで「適切な」といっているのは、無闇矢鱈な規制ではビジネスの芽を摘むことにもなりかねないからだ。
それでは、適切な規制が敷かれれば本当にドローンビジネスは成長するのだろうか?
ベンチマークにすべきはカナダの事例だ。あまり知られていないが、世界で最もドローンの商業利用が進んでいるのがカナダだ。
2014年度にアメリカの米連邦航空局(FAA)がドローンの商業利用を認めた会社がわずか48社であったのに対し、カナダ運輸省は同年度だけでも1,672社にドローンの商業利用を認めている。それほどまでにドローンのビジネス活用が進んでいる国はほかにはない。
その一方、カナダはドローン関連の法律が世界で最も複雑な国であるともいわれている。ラジコンヘリのような航空模型に対してGoProを装着しただけでも「無人飛行ヴィークル」という区分けに変わり、カナダ運輸省から特殊航空業務証明書(SFOC)を取得しなければいけなくなる。カナダ運輸省は企業側が申請したドローンの利用用途を審査し、個別に許可を下している。なるほど、複雑なルールと公的な審査。カナダでドローンビジネスをするのは大変そうだ。
それではなぜ、カナダはそれほどまでにドローンの商業利用が進んだのだろうか?
カナダは人口密集地域がトロント、モントリオール、バンクーバーなどアメリカとの国境沿いに集中している一方で、北部にはパイプラインや送電線、水力発電所などの重要施設が数多く整備されている。北部の寒冷地では人の手でメンテナンスを行うことが難しく、定期的な検査には莫大なコストがかかってきた。そのため、各企業はドローンによって施設の老朽化のチェックや問題がある箇所をモニタリングし、大幅なコスト削減を行ってきた。そして、カナダ政府も法律を整備するという方法で積極的にドローン活用を後押ししてきたというわけだ。
規制自体が政府と民間企業が協力してつくり上げたもので、商業利用の範囲を柔軟に定義している。民間企業側も明確な法整備が敷かれているため、安心してドローンの業務活用ができる。官民が一体となってドローン産業の発展のために尽力してきたからこそ、カナダは世界一のドローン大国に成長した。
つまり、日本もカナダのように「適切な」規制が整備されれば、ドローンの商業利用が一気に加速するのは間違いない。
※ 下記は、WIRED.jpで2015年に公開した、「空の革命」の萌芽を感じさせるドローンビジネス記事10選。
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日本の規制はドローンビジネスの触媒になり得るか?
それでは今回施行された改正航空法はビジネスの観点からみて、産業を育てるための触媒になりうるのだろうか?ぼくは今回の規制はドローン産業を育てるうえで適切な範囲内だったと考えている。
今回新たに加えられた飛行のルールは2つ。「ドローンの飛行許可が必要な空域」と「ドローンの飛行方法」だ。前者は空港の周りや地上から150m以上の空域、人口密集地域でドローンを飛ばす場合には事前に国土交通大臣から許可を得なければならないというもの。後者は日中に飛行させることや、目視の範囲内で飛ばすこと、人や物との距離を30m以上保つこと、イヴェントでは飛ばさないこと、爆発物を輸送しないこと、モノを投下しないことがルールとして加えられた。
これらはいずれもカナダを含むドローンの商業利用が進んでいる国でも整備されているルールであり、事前の飛行許可も申請の煩雑さはあるものの、それそのものがビジネスを阻害する要因にはならない。
現在国内で議論されている論点として「ドローンの操縦者の免許制」というものがあるが、これも海外の事例を考慮すれば、事故を未然に防ぐうえで必要になるもので、ぼくも操縦者の免許制は必要だと考えている。
これらの規制が整備されることによって影響を受けるのは大手の企業だ。ルールが明確化されていない場合、ビジネス上のリスクが取れない大手はドローンに手を出しにくい状況が続いてしまう。ルールがない状況では、リスクを取れるスタートアップやヴェンチャーでないと本格的な事業化が難しいのだ。
今回の改正航空法のように、飛ばす場所の定義や飛ばし方のルールが明確化されたことでいままでドローンの業務活用に踏みきれなかった大手がドローンを商業利用しやすくなったことは間違いない。
さらに今後、操縦者の免許制が加われば、航空法やドローンの機体特性、操縦に関する技能に一定の知識をもっている人間が操縦を担うことになる。それによって事故のリスクが低減し、大手にとってはドローンを利用しやすい環境が整う。スタートアップだけでなく、大手もドローン産業に参入することで急速な市場成長も期待できるだろう。
テクノロジーの進化によって規制が変化
ぼくはドローンというテクノロジーを、地面という二次元空間で制約されていたロボットの仕事を三次元空間に拡張するものだととらえている。現在のロボットが果たしている仕事は「データを取る」「ものを運ぶ」「作業をする」のいずれかに分類することができるが、ドローンはそれらすべてのロボットの仕事を三次元空間に拡張することができるのだ。そのため、2020年代、2030年代には三次元空間上の様々な仕事をドローンが担うようになるだろう。
しかし、そうなるためにはドローンを取り巻くテクノロジーのイノヴェションが不可欠だ。室内・室外に拘らず障害物を自動で回避する「Object avoidance」に始まり、飛行中にトラブルが起こった際に安全に着陸する技術、精度の高い自律飛行システム、ハッキングを防ぐセキュリティ技術、飛行時間を伸ばすためのバッテリーの進化などが求められている。そしてそれらの進化に伴い、ドローンにかかる規制はいまよりも緩やかなものになっていくだろう。
現時点の技術では操縦者無しで自律飛行をさせることは危険が伴う。そのため、飛行の範囲を「操縦者の目視の範囲内」に限定することは必要だ。しかし、障害物の回避機能やトラブルが起こっても安全に着陸できる技術が十分に発達すれば、それらの規制は必要なくなる。そして嬉しいことに、政府もこの点については十分に認識していて柔軟な対応をしていくようだ。
ドローンはまだ生まれたばかりの産業だ。黎明期ともいえる混沌はテクノロジーと規制の振り子を大きく揺らしているが、企業にはその振幅のなかでビジネスを模索することが求められている。
阿部亮介|RYOSUKE ABE
東京大学大学院工学系研究科修了後、ディー・エヌ・エー、シンガポールのスタートアップLCO-Creation, Incを経て、2014年8月に帰国し、CLUEを設立。ドローン事業に参入し、ドローン用データ管理クラウドサーヴィス「DroneCloud」を提供するとともに、ドローン専用メディア「DRONE BORG」を運営している。
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