2006年にニッポン放送株を巡るインサイダー取引容疑で逮捕された村上世彰氏(写真/産経新聞社)
’15年を振り返ると、東芝の不正会計問題に、旭化成建材の杭打ちデータ偽装事件など、数多くの経済事件が思い出されるもの。そのなかで、マーケットの裏側を知り尽くしたブロガーの闇株新聞氏が真っ先に注目したのが、「返ってきた村上ファンド」事件だった。8月には電子部品メーカーの黒田電気に社外取締役の選任議案を突き付けて、プロキシーファイトを実施。「もの言う株主」として存在感を示した村上氏だったが、昨年の株取引を巡る相場操縦疑惑で司法の手が伸びることに……。その事件の裏側を闇株新聞氏が探った。

 証券取引等監視委員会が金融商品取引法違反(相場操縦)容疑で、旧村上ファンドの村上世彰氏や娘で村上家の資産運用会社であるC&Iホールディングスの代表を務める絢氏らの関係先を強制調査したのは11月25日のこと。 株価操作の疑いをかけられた銘柄は東証1部上場のTSIホールディングスでした。M&Aコンサルティングを率いていた’01年に村上氏が買い増し、経営陣とプロキシーファイトを繰り広げた東京スタイルを前身とするアパレル系の企業です。

 このTSIを巡る村上氏らの取引について、メディアでは「今までにない新しい手口」などと報じられましたが、それはまったくのデタラメです。むしろ、“よくある手口”なのです。

 村上氏らは’14年6〜7月にかけてTSI株を貸株で調達して、引けに間際に大量の売り注文を出して不当に値を下げた、とされています。しかし、貸株を調達しての空売りはヘッジファンドや外国人投資家が当たり前のようにやっている手口。

 引け間際に大量の注文を出して、値を吊り下げる、ないしは吊り上げる、というのも使い古されたもの。11月17日に東京地検特捜によって逮捕された、大物仕手筋・加藤翬氏を筆頭に、仕手戦でたびたび見られた手口です。

 国内では、倒産前の日本航空が’06年に7億株の公募増資を行った際、その値決め当日の引け間際に香港の投資ファンドが大量の売り注文を出して問題視されましたが、日本の証取委は自ら動かず、香港証券先物委員会に情報提供して課徴金を取る手伝いをしただけ。実質的に、不問にしました。

 にもかかわらず、村上氏らが不正操作を疑われ、さらには要領を得ない記事があちこちで散見されることになった背景には、今回の強制“調査”が証取委、単独の調査によるところが大きいです。

 過去の例を見る限り、相場操縦をはじめとした金融商品取引法違反容疑では、証取委と地検特捜部とで合同捜査を行うほうが一般的です。この際、特捜部は事前に各報道機関にリークするため、必ずテレビカメラが待ち構え、事件の概要についても丁寧にレクチャーされるのです。

 では、なぜ今回、証取委の特別調査課単独での強制調査に踏み切ったのか? それは特捜部が立件に無理があると渋っていた可能性があります。

 実は証券取引等監視委員会の現場責任者の事務局長が7月に交代しており、捜査方針がより厳しくなっている可能性があります。今のところ刑事告発を目的とする特別調査課が乗り出した事例は、同じ「相場操縦」で逮捕された加藤翬氏と今回の村上氏の2例しかありませんが、加藤氏の場合は当初の「風説の流布」がいつの間にか「相場操縦」になっていました。これは先に加藤氏を逮捕すると決めておいて、あとから容疑を選んだことになります。

 村上氏の場合も、仮に「意図的に株価を下げた」容疑だけで立件するなら、加藤氏の容疑と併せると、株式とは大量に買ったり売ったりしただけ逮捕されるものになってしまいます。つまり金融商品取引法がどんどん拡大解釈されて、誰でもいつでも逮捕できる「万能の武器」になってきていますが、今回は「相場操縦」の適用範囲を拡大しているのかもしれません。<文/闇株新聞>