2015年10月は女子ワールドテニスのWTAツアーで、日比野菜緒がタシケント大会(9月28日〜10月3日・ウズベキスタン、ハードコート)、土居美咲がルクセンブルク大会(10月19日〜24日・ルクセンブルク、インドアハードコート)において、ともにツアー初優勝を果たし、日本女子の優勝者が2人誕生するという日本テニス史の記録と記憶に残る月となった。

 土居は2008年12月にプロ転向し、プロ7年目の24歳でたどり着いたツアー初優勝だった。

「もちろん、もうちょっと早く獲れていれば、それはそれでよかったですけど、逆に自分も成長して、いろんなことを乗り越えての優勝だったのでよかったと思います。すごくうれしかったです」

 日本女子選手によるツアー優勝は土居で10人目の達成となり、伊達公子や杉山愛らと肩を並べたことに喜びもひとしおだった。

「優勝したあとに10人目なんだと聞き、意外とそんなに優勝していないと知って、すごいことなんだなと。記録に残るという意味で、ものすごく価値のあるものだなと思っています」

 ルクセンブルク大会で優勝してランキングポイント280点を獲得した土居は、WTAランキングを92位から当時自己最高の60位へ上昇させた。

 だが、振り返れば2015年シーズンを121位からスタートした土居は、厳しい戦いの連続だった。WTAツアーの予選に11大会挑戦して、5大会で本戦へ勝ち上がった。ツアーでの厳しい予選で戦うことにこだわったのは、4月からツアーに同行するようになったクリスチャン・ザハルカ新コーチの方針だった。

「クリスは(下部ツアーのITF大会が)全然眼中にない感じで、とにかくトップの選手と戦って、得られるものが絶対あるということでした。上の選手を破ったときの自信がものすごいものがあるから、そこだけを考えているという感じだった」

 こう振り返った土居自身も意識が変わって、上位選手と対戦してもやっていけるんだという自信が芽生え始めていた。そんな状況で迎えたローランギャロス(全仏オープン)2回戦では、第7シードのアナ・イバノビッチにフルセットで敗れ、US(全米)オープン2回戦では、第12シードのベリンダ・ベンチッチから第1セットを奪い、3回のマッチポイントを握りながら逆転負けを喫するなど、あと一歩で惜敗する試合がいくつかあった。そのため上位選手の厚い壁を突破できないメンタルの弱さをささやかれるようになったが、土居はくさることなく、突破口を見つけようとしていた。

「間違いないのは、競って負けはしましたけど、戦えているという事実。すごく役に立つ経験になっていた」

 そして、気後れすることも名前負けすることもなく戦えて、なおかつ結果を残すことができたのがWTAルクセンブルク大会だったのだ。実は1回戦から第4シードのアンドレア・ペトコビッチ(WTAランク20位、大会時)に当たるタフドローだったが、7−5、2−6、7−5で勝利。2014年ローランギャロス1回戦で初対戦したときには、ペトコビッチに圧倒されたが、見事リベンジに成功した。

「メンタルもフィジカルもタフな試合で、何とか食らいついて、本当に最後の最後で突き放せて勝てた」

 さらに「初戦を勝ててのれた」という土居は、準々決勝で元世界ナンバーワン、第5シードのイェレナ・ヤンコビッチ(同22位)に7−6(4)、7−5とストレート勝ちを収めた。

「すごくフィジカルな試合でした。ヤンコビッチに勝つには、これだけ大変なんだと終わった後に感じた。彼女には鉄壁の守りがありますし、そこを崩していく中で、自分も粘り強さが必要となり、攻撃的でなければならない。本当に最初から最後まで気が抜けなかった。正直2セットで勝ててよかったと思いました」

 土居が上位選手に勝ち切り、勝負強さを発揮できたのはザハルカコーチの指導によるところが大きい。彼は彼女の最大の武器であるフォアハンドストロークに注文をつけていた。

「ずっと言われているのは、スイングスピードを上げろということです。10%でもいいからボールの質を上げて、ボールの重さや速さを上げて、そのことによって相手が少しずつ追い込まれていく。自分でもいいボールを打てている感触はありますし、力負けしない」

 さらにコーチは、メンタル面からも土居を強化した。

「クリスは絶対的な確信があるような言い方をするんです。例えば、勝ってほしいではなく、いや勝てるでしょって。クリスは本当に信じ切っている。微妙な違いですけど、それを常に言われていると絶対勝てると信じられる気持ちになった。それで試合に臨むと違います」

 こうして技術的にも精神的にも進化を遂げた土居は、ツアー優勝という最高の形で自らの力を証明し、2015年シーズンを自己最高の54位で終え、日本女子のトップランカーとなった。

「もちろんうれしいんですけど、そこで満足せずに、もっともっと上を見ていきたい気持ちがある」

 現在、世界のトップ100に日本女子選手は土居と日比野菜緒、続いて奈良くるみ(同81位)の3人がいる。さらに101〜200位には"94年組"や18歳の大坂なおみ(同144位)、クルム伊達公子(同182位)を含めた8人がおり活気を帯びてきている(12月14日現在)。来シーズンにトップ100に入る選手が増えるのか、また土居や日比野らが、トップ50に入るかが注目される。

 ここ数年、日本男子テニスは世界8位の錦織圭が牽引をしてきているが、ようやく日本女子テニスにも新しい時代が築かれようとしている。

神 仁司●文 text by Ko Hitoshi