2013年4月にプロ転向した日比野菜緒は、プロ3年目の20歳でツアー初優勝を勝ち取った(現在は21歳)。日本女子の優勝としては、2014年2月、WTAリオデジャネイロ大会での奈良くるみ以来の快挙だった。

「こうやって取材をされると、あっ、優勝したから話を聞いてもらえるのかなって(笑)。優勝って大きいんだなって感じます」

 インタビュー取材の経験が少ない日比野はこう語り、日本女子9人目のツアー優勝にもかかわらず、なかなか喜びを表現しようとしなかった。それは、タシケント大会で日比野が破った対戦相手のランキングに関係する。1回戦159位、2回戦102位(棄権勝ち)、準々決勝203位(予選勝者)、準決勝106位、決勝137位。一度も100位以内の選手と対戦しない幸運に恵まれた。

「私の中では(下部ツアーの)ITFの(賞金総額)5万ドル大会で優勝したのと何ら変わらない。でも、(コーチの竹内)映二さんがラッキーではあるけど、まぐれではないよって言ってくれて、それで少し気持ちが楽になりました。まっ、ラッキーはラッキーでしたね」

 しかし、ただ幸運だっただけでなく、日比野が竹内コーチからアドバイスされた3つのことを実践できたからこそ、運をたぐり寄せることができたのだ。

「まず積極的にプレーをすること。単に攻撃という言葉を使わず、積極的に動く、積極的に守る、積極的に攻めるみたいな感じです。2つ目はサーブを絡めてポイントを取る。相手をいかに崩すかをテーマにした。3つ目が自分のよさを出していくこと。相手が強いと自分が引いてしまうことがよくあったんですけど、1ポイント目から自分のよさをどんどん出していった」

 ツアー初優勝によって、日比野は、WTAランキングを117位から一気に当時自己最高の76位へ上げ、自身初のトップ100入りを果たした。

「120位ぐらいから、100位以内に入るのが一番難しいって、いろいろな人から言われていたので、私もどうにかして抜けたいと考えていた。まさか優勝して、ポンと上がれるとは思っていなかった」

 2015年シーズンを213位からスタートした日比野はまずトップ200を目指し、グランドスラムの予選に入ることが当面の目標だった。しかし、5月上旬まで結果が出ず、日比野はイライラし、何をやっているのかわからないと竹内コーチにあたり、練習にも身が入らなかった。見かねた竹内コーチは、日比野の母親を呼び出した。3人で話し合った後、母親から、「そろそろ覚悟を決めないと、周りに見捨てられる」と言われて、日比野はある決意をする。

「その前にも同じようなことで怒られていたことがあったので、また同じようなことを注意されるんだったら、テニスはやめようって思って。これがラストチャンスだろうと自分の中で決めた」

 覚悟を決めた日比野は5月中旬のITF福岡大会で準優勝、続くITF久留米大会で優勝を飾った。何で勝てたのかわからないと振り返る日比野だが、彼女のテニスと向き合う姿勢はこれまでと別人のように変化した。結果的に、それが彼女のテニスへいい影響を及ぼしたのだろう。

「コートに行くのが楽しくなった。試合に勝ちたいというより、テニスが上手になりたいと思えるようになった。できなかったことができるようになり、そういう小さなことがうれしくて。映二さんに教えてもらえるひとつひとつをできるようにしていこうという気持ちで、毎日テニスが楽しくなった。試合でどれだけできるんだろうというのも、もちろん楽しみでした」

 夏のハードコートシーズンになっても日比野の快進撃は続き、ITFの2大会で優勝、ITFの1大会でベスト4という好成績を収め、初めてUS(全米)オープンの予選にもトライした(予選決勝で敗退)。

 もともとバックハンドが得意だった日比野は、プロに転向してから竹内コーチとともに、まず1年間フォアハンドの強化に取り組んだ。そして、ショットのクオリティが上がってからは、試合での戦術の実践をテーマにして練習に取り組んでいる。

「いかに自分のリスクを少なくして打てるようにするのか、それが難しい。頭を使わないといけないから。(以前は)いかに考えていなかったか、ということを思い知らされています。例えば、相手にノーリスクでリターンされるぐらいだったら、自分からサーブ&ボレーを1回見せておけば、相手はいろいろ考える、とか。リターンも普通に返していたら、何のプレッシャーもないから、早く打ち返すとか、後ろに下がってトップスピンをかけるとか、いろいろやってみなさいと言われます」

 自己最高の66位で2015年シーズンを終えた日比野は、2016年最大の目標をリオデジャネイロオリンピックに定めている。

「絶対オリンピックです。日本代表として、その国を背負ってプレーすると考えただけでもかっこいいなと思いますね。(2020年の)東京オリンピックまでに1回オリンピックに出ておけば、いい経験になる」

 日比野の同級生、いわゆる"テニスの1994年組"には才能が豊かな女子選手が多く、ジュニア時代に日比野は、一度もナショナルチームに呼ばれたことがなかった。その反動で彼女の日の丸への思いはますます強くなり、オリンピックだけでなく、2016年に初の代表入りが予想されるフェドカップ日本代表へのあこがれも人一倍強い。

「やっぱりオリンピックとフェドは、私の中の一番の目標です。ナショナルチームに入ったことがないので、日の丸に飢えているんですかね」

 そして、来月に開催されるオーストラリアン(全豪)オープンでは本戦ストレートインが決まっており、日比野にとってはグランドスラムデビューとなる。

「やっぱり勝ちたいですね。出るだけじゃ意味がないと思う。出ただけで満足しないで、できれば1回でも多く勝って、(ツアー優勝は)まぐれじゃなかったんだと、自分にも周りにも示したい。単なるラッキーじゃなかったと証明したい」

 日比野は急速にランキングを上げたため、実力がランキングに追いついていない部分が確かにあるかもしれない。だが、ツアーレベルで戦える権利を勝ち取ったことが、若い彼女にとってはとても重要で、ツアーで揉まれていく中で、やがて本当の実力は伴ってくるはずだ。

神 仁司●文 text by Ko Hitoshi